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第2話「消えた輸入薬と王子の疑念」

王城薬局の朝は、静かに始まる……はずだった。

だが、届くはずの輸入薬が、今日に限って一箱、消えていた。


「紬、君か……?」

若き王子が、私の前に立った。冷静な表情の奥に、僅かな疑念が垣間見える。

「ええ、私です。何か問題ですか?」

「届くはずの薬が、来ていない……君、確認は?」

王子の声は穏やかだが、微細な震えが混じっていた。王子は、医療や薬学に疎いわけではない。ただ、人を疑う感情に慣れていないだけだ。


私は薬箱を一つずつ開き、昨日届いた荷物と照合する。輸入元、製造日、封印の具合……すべての記録を手で確かめながら、頭の中で整理する。

「……輸入薬の一箱、確かに消失しています。封印は開けられた形跡なし」

「つまり……内部の誰かが?」

王子の声に、私の指先が一瞬止まった。薬学知識だけでなく、心理の読み取りも必要になる。宮廷の誰もが完璧ではない、しかし誰もが城を守る役割を持つ。


消失した薬は、希少な結晶性の薬材を含むもの。液体ではなく、固形で保存されている。私は棚の奥の暗がりに目を凝らした。光にかざすと、微細な粉が光を反射する。――微かな摩擦の跡が、何者かが箱を手に取ったことを示していた。


「これは……」

私の声に、王子は顔を上げる。

「誰かに見せるための証拠が、すでに残っているわ」


王子の瞳に、ほんの僅かだが好奇心が滲む。

「紬、君は……人の嘘も見抜けるのか?」

「薬のように、人の心も化学的に解析できればいいのですが」

私は微笑むと、王子も苦笑した。少しだけ表情が柔らかくなる。


その後、宮廷医官も巻き込んで調査が進む。古来の手順や記録と、私が分析した痕跡を照合することで、消失は単なる紛失ではなく、外部商人による利権工作の可能性が浮上した。


「王子、宮廷医官、そして私……三者の目があれば、真実は隠せません」

王子は私の言葉に頷き、初めて私に心を開くような微笑を見せた。

私は内心で呟く。『この城の陰謀、少しずつ紡ぎ出せるかもしれない――処方箋のように、証拠を積み重ねて』


窓の外、朝日の光が城壁の石を照らす。微細な粉のように、真実も光を受けて、少しずつ姿を現す。

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