第4話 LOVE YOUJI FOREVER
女装姿の蓮を見た瞬間、洋二の脳裏に“カーテンで閉ざされた部屋”が現れた。
「……なんだこれは」
思わずそのカーテンを開ける。
気づけば洋二は5歳の自分だった。
自宅の化粧台に座り、じっと鏡を見つめている。
その背後で、若い女性が忙しなく動きながら、洋二に化粧を施していた。
「ちょっとの間だけだから、我慢しててね。」
鏡の中の顔は、男から女へと少しずつ変わっていく。
――これは……俺……?
洋二の奥底に封じ込められていた記憶。
それは、やがて芸能界をも呑み込む“闇”の入り口だった。
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吉原千鶴は、ミズニーランドの園内を子供のように駆け回っていた。
「久しぶりね、ここ! あ、あそこでパレードやってる!」
その無邪気さは、とても母親とは思えない。
ひかるが息を切らしながら洋二に耳打ちする。
「お母さん、相変わらず若いわね……今年で何歳?」
洋二は呆れ顔で肩をすくめた。
「40歳から年を取るのをやめたらしい。本当の歳はもう分からないよ。」
ため息をつく洋二に、ひかるは苦笑を返した。
――やっぱり、芸能界の頂点に立ち続けた人間は違う。
彼女は引退の日まで体力作りを欠かさなかった。
朝、洋二が玄関で出会ったときもそうだ。
キャップにスパッツ姿で息を切らしながら戻ってきた母は、涼しい顔で言った。
「ちょっと走ってきたのよ。ライブ近いしね。気持ちいいわよ。」
そう言って笑い、汗だくのまま朝食を作り始める。
――そのストイックさこそ、母を「吉原千鶴」というシンガーにしたものなのだろう。
「洋二、トーストとスクランブルエッグできたわよ!」
「ありがとう、母ちゃん。」
洋二は歯を磨き、いつものように食卓に着いた。
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園内の屋台でソフトクリームを買い、3人で並んで食べる。
チョコレートの板がミズニーの形をしていて、ひかるは思わず声を上げた。
「わぁ、可愛い!」
その姿に洋二は笑みをこぼす。
ふと千鶴の右手を見ると、甲にはタトゥーが彫られていた。
「LOVE YOUJI FOREVER」
「消さないんだな、そのタトゥー。」
千鶴はアイスを一口食べながら遠い目をする。
「芸能生活20年……色々あったもの。」
浮き名、ゴシップ、SNSでの監視……。
走らなければ心が潰れる夜もあった。
彼女はただ、走り続けた。
――そして、出会ったのが室沢茂明プロデューサー。
「千鶴、その強さを歌にぶつけてみよう。」
その言葉で生まれた一曲は、瞬く間に大ヒット。
二人の心も共鳴し、結ばれた。
「私……できたみたい。」
東京タワーの見えるバーで千鶴が告げたとき、室沢は目を見開き、そして微笑んだ。
――それがプロポーズの代わりだった。
やがて生まれたのが、洋二だった。
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現実に戻り、千鶴は気合いを込めてひかるの肩を叩いた。
「ぼやぼやしてないで! 次はあなたたちの番よ!」
「えっ!? プレッシャーすごいんですけど!」
「だって洋二の彼氏でしょ? しっかりしてよ!」
そう言って笑いながらも、千鶴は寂しげに横を向いた。
「洋二のこと、よろしくね。そしてvitaminも応援してる。ライブがあったら必ず行くから。」
「……ありがとうございます!」
ひかるは立ち上がり、深々とお辞儀をする。
千鶴はその仕草にクスクス笑った。
「ちょっと、頭下げすぎ。パンツ見えちゃうよ。」
「ちょっと千鶴さん!」
笑い合う二人を、洋二は穏やかに見つめていた。
だがその胸の奥では――もう一人の自分と対峙していた。
開けてはならない扉を、自ら開こうとしていることに、誰もまだ気づいていなかった。




