小学生編・第7話 「未来の種まき」
日曜日の朝、しゅんはいつもよりさらに早く目を覚ました。
昨夜の母の背中が、胸に焼き付いていたからだ。
もう一度やり直せるこの人生で、母を救う。家族を幸せにする。それが今の自分の使命だと強く感じていた。
(でも、そのためには準備がいる)
まだ七歳。できることは少ない。けれど、七歳だからできることだってきっとある。
しゅんはノートを開き、昨日の図書館で書き溜めた「やるべきことリスト」を見つめる。
・勉強を頑張って、将来の選択肢を広げる。
・お金の仕組みを学ぶ。
・体を鍛える。健康を守る。
・友達を大事にする。人脈を作る。
その一つひとつが、未来の土台になる。
「よし、今日はまず勉強からだな」
そう決めると、机に向かい、教科書とノートを広げた。
昨日読んだ本に書いてあった「先取り学習」という言葉を思い出し、次の学年の算数のドリルも引っ張り出す。
ペンを握る手に力が入った。
(勉強は、俺の武器になる)
◇ ◇ ◇
昼頃になると、母が台所から声をかけてきた。
「しゅん、お昼にするわよー」
「はーい」
居間に行くと、母がいつもの味噌汁に加えて、サンドイッチも作ってくれていた。
弟も起きてきて、三人でちゃぶ台を囲む。
「お勉強してたの? えらいわね」
母が優しく微笑む。
「うん。将来のために、今のうちから頑張ろうと思って」
その言葉に、母は一瞬きょとんとした顔をしたあと、少し寂しそうに笑った。
「まだ七歳なのに、そんなに頑張らなくてもいいのよ」
(違う。今だからこそ頑張るんだ)
しゅんは心の中でそう呟いた。
◇ ◇ ◇
午後は、外に出ることにした。
陽一の家の前まで行くと、ちょうど彼も家から出てきた。
「お、陽一!」
「……あ、しゅんくん……」
陽一はまだ少し緊張した様子だったが、しゅんが笑いかけると、少しほっとしたように表情が和らいだ。
「図書館に行かないか? また一緒に勉強しようぜ」
「うん……いいよ」
図書館では、二人で隣に座り、静かに本をめくった。
しゅんは「お金のしくみ」の児童向けの本を読み、陽一は歴史の本を読んでいた。
ふと陽一がぽつりと言った。
「……この前は、ありがとう」
「気にすんなって。友達だろ?」
「……うん」
陽一は、小さな声でそう答えたが、その目にはちゃんと力が宿っていた。
(こうして一人ひとりと繋がっていく。これも未来のための種まきだ)
◇ ◇ ◇
夕方、陽一と別れたあと、しゅんは近所の公園に寄った。
遊具の横にあるベンチで、ノートを開いて今日の行動を書き込む。
・勉強をした。次の学年の内容も少し解けた。
・陽一ともっと仲良くなった。
・図書館でお金の本を読んだ。
書いていると、不意に青い選択肢が浮かんだ。
【〇:今日の努力を続ける】
【×:気が緩んでやめる】
(もちろん、【〇】だ)
迷わず選ぶと、胸の奥に「正しい道を歩んでいる」という確かな感覚が広がった。
(これでいい。この毎日が、未来の俺を変えるんだ)
陽が沈みかけ、空がオレンジ色に染まる中、公園を後にした。
◇ ◇ ◇
家に帰ると、母が夕食の準備をしていた。
「おかえり、しゅん。夕飯はカレーよ」
「やった!」
ちゃぶ台に座ると、母がカレーの鍋を運んできた。
湯気の向こうに見える母の笑顔が、少し柔らかく見えた。
(俺が頑張ることで、少しずつ母さんの負担も減るといいな……)
そう思いながら、一口頬張る。
カレーのスパイスの香りが、未来への決意をさらに強くした。
(今日蒔いた種は、きっと未来に花開く。絶対に)
しゅんは、もう一度ノートに書き込んだ。
「未来の種をまく一日」
そして、ページを閉じると、母と弟に笑いかけた。
(俺はやれる。必ずやり遂げる)