社会人編・第6話 「新規事業への挑戦 — 新たな業界に進出」
浅野の裏切りによる危機を、しゅんと社員たちはなんとか乗り越えた。
不正の穴をふさぎ、残った顧客に誠心誠意対応し、資金も最低限確保した。
まだ余裕はなかったが、オフィスの空気には再び活気が戻っていた。
(だが、このままではまた同じような危機が来るかもしれない)
しゅんの心には、次の目標が芽生えていた。
安定か、挑戦か
夜遅く、オフィスに一人残り、しゅんは資料を見つめていた。
今の事業は順調に回復基調にあるが、利益率は低く、ライバルも多い。
(ここで安定を取るか、新しい道を切り開くか)
頭の中に選択肢が浮かぶ。
【〇:新規事業に挑戦する】
【×:既存事業を守り続ける】
しゅんは迷わず【〇】を選んだ。
(俺たちはまだまだ、上を目指せる)
ヒントは偶然に
翌日、出張先のカフェで休憩していると、隣のテーブルで若い女性たちが話していた。
「最近、サステナブルな商品が増えたよね」
「エコだけじゃなくて、オシャレだし。ちゃんと利益も出てるんだって」
しゅんは耳を澄ませた。
環境問題とファッションを掛け合わせた新しい業界が、静かに成長しているという話だった。
(これだ……!)
ただの思いつきではなかった。
これまでに培ったネットワークと、母から教わった「人を喜ばせる仕事」という理念が、ピタリと重なった。
チームへの提案
数日後、会議室に社員を集め、しゅんは新規事業の構想を説明した。
「エコでサステナブルな素材を使ったアパレルブランドを立ち上げたい。環境への配慮とデザイン性を両立させて、新しい市場を開拓する」
社員たちは一様に驚いていた。
「アパレル業界は未経験ですよね……」
「本当に利益が出せるんでしょうか」
不安の声もあがったが、しゅんは笑顔で答えた。
「誰もやったことがないからこそ、チャンスがある。これまで通り、正しい選択を重ねていけば、必ず道は開ける」
その言葉に、少しずつ頷く社員が増えていった。
準備の日々
新しいブランドの名前は、母の好きだった花にちなんで「HANA」に決めた。
デザイナーを探し、工場と交渉し、商品サンプルを作る。
資金繰りに苦しみながらも、社員たちは目を輝かせて準備を進めた。
試作品が出来上がった日、社員の一人がポツリとつぶやいた。
「これ……本当にかわいいですね。私も欲しいです」
その一言に、しゅんは確信した。
(これなら、きっといける)
初めての展示会
数か月後、ついに「HANA」は業界の展示会に出展した。
会場には無数のブースが並び、来場者が行き交っていた。
しゅんの胸は高鳴る。
(ここで結果を出す……!)
来場者の反応は上々だった。
「これ、どこのブランドですか?」
「デザインもいいし、素材も気持ちいい」
と立ち止まる人が増え、最終的にその日のうちに複数のバイヤーから注文が入った。
社員たちは喜び、しゅんも自然と笑顔になった。
夜空の下で
展示会が終わった夜、オフィスの屋上で一人空を見上げた。
ノートを開くと、金色の文字が浮かぶ。
「新規事業への挑戦 — 新たな業界に進出」
新しいメッセージが現れた。
【恐れずに飛び込め。未来はそこにある】
しゅんはゆっくりと書き込む。
「恐れずに進んだ。その先に、新しい道が見えた」
まだ始まったばかりの新規事業。
それでも、しゅんの心は確かに未来に向かっていた。
(これからだ。まだまだ、成り上がる)
胸の中でそうつぶやき、しゅんは星空を見上げ続けた。