社会人編・第5話 「裏切りと失敗 — 最大のピンチ」
母に家を贈ったあの日から数ヶ月。
しゅんの会社は順調に成長を続け、従業員も増え、案件の規模も大きくなった。
オフィスは忙しさの中にも笑顔が溢れ、夢に向かって走る日々は充実していた。
しかし、順風満帆に見えたその道は、突然大きな穴に変わった。
不穏な空気
その兆候は、ある取引先との会食で現れた。
「内田さん、この前の件……少し話が違うんじゃないですか?」
普段は穏やかな取引先の担当者が、珍しく強い口調で言った。
(話が違う……? どういうことだ?)
しゅんは頭の中で必死に記憶を辿る。
しかし、その場では詳細が分からず、翌日、社内で資料を確認した。
すると、目を疑うような数字が並んでいた。
本来は納品済みであるはずの案件が、まだ途中のまま処理され、さらに架空の請求が混じっていたのだ。
信じていた人の裏切り
資料を詳しく追うと、それらを担当していたのは古参の社員、浅野だった。
しゅんは浅野を会議室に呼び出した。
「浅野……これはどういうことだ?」
浅野は最初、しらを切ったが、証拠を突きつけると、うつむき、そして吐き捨てるように言った。
「……悪いな。俺だって生活があるんだよ」
なんと浅野は、取引先と結託し、裏でキックバックを受け取りながら、会社の金を横領していたのだ。
胸の中に、怒りと悲しみが込み上げた。
「俺は……お前を信じてたのに……」
浅野は目を逸らし、無言で会議室を出て行った。
会社の危機
浅野の行為により、取引先からの信用は揺らぎ、複数の契約が破棄された。
資金繰りが急速に悪化し、社員たちの不安も募った。
「このままじゃ、倒産するかもしれない……」
千夏が震える声で言った。
(どうしてこんなことに……)
夜遅く、一人オフィスで机に突っ伏し、しゅんは悔しさに唇を噛んだ。
選択肢が浮かぶ
そんな時、頭の中にいつもの選択肢が浮かぶ。
【〇:全責任を負い、会社を立て直す】
【×:諦めて会社をたたむ】
しゅんは迷わず【〇】を選んだ。
再起の決意
翌朝、全社員を集め、深々と頭を下げた。
「みんな、すまない。俺の管理が甘かったせいで、こんなことになった。でも、俺は諦めない。絶対に立て直す。だから、力を貸してほしい」
社員たちはしばし沈黙したが、やがて一人が口を開いた。
「俺も……この会社が好きです。一緒に立て直したい」
次々に声が上がり、全員がしゅんの元に集まった。
その光景に、しゅんは涙がこみ上げそうになった。
(まだ終わってない。ここからだ)
夜空の下で
その夜、オフィスの屋上で空を見上げ、しゅんはノートを開いた。
金色の文字が浮かぶ。
「裏切りと失敗 — 最大のピンチ」
そして、新しいメッセージが現れた。
【信じることは、傷つくことだ。それでも信じるか?】
しゅんはゆっくりと書き込む。
「信じ続ける。俺は経営者だから」
星空の下、しゅんの心に再び火が灯った。
(ここから必ず立て直してみせる。みんなのために、母のために、俺の夢のために)
決意を胸に、しゅんはオフィスに戻り、再起に向けて動き出した。




