大学生編・第9話 「卒論と起業の板挟み — 苦悩しながら両立」
ライバル企業を退け、イベントも成功させ、サービスは右肩上がりに成長していた。
大学内外での評判も高まり、しゅんのもとには多くの問い合わせが舞い込むようになった。
だが、それと同時に、もう一つの現実が目の前に迫っていた。
——卒論である。
ゼミの教授から呼び出され、研究室で座らされたしゅんは、苦い顔をした教授に叱られていた。
「内田君、君の進捗は正直かなり遅れている。事業が忙しいのは分かるが、大学は遊び場ではないんだぞ。最低限の義務は果たしなさい」
「……はい、申し訳ありません」
しゅんは深く頭を下げたが、内心は焦りでいっぱいだった。
(やばい。このままじゃ卒業できないかもしれない……)
研究室を出るとすぐ、スマホが鳴る。浅野からだ。
「悪い、急ぎのバグ修正がある。今日中に戻れるか?」
しゅんは頭を抱えた。ゼミでの作業も残っているし、事業も待ったなしだった。
頭の中に選択肢が浮かぶ。
【〇:起業を優先し、卒論は最低限で乗り切る】
【×:卒論に全力を注ぎ、事業は岸本たちに任せる】
しゅんはしばらく考え、こう決めた。
——どちらも諦めない。
選択肢を無理やり二つとも選び、全てを両立する道を選んだ。
それからの日々は、まさに修羅場だった。
昼は研究室で資料を読み、実験を進め、夕方からは事業の打ち合わせやイベント運営。
深夜はカフェで論文を書き、仮眠を取って翌朝また研究室へ。
寝る時間は3時間もあればいい方だった。
千夏がしゅんの顔を見て、ため息をついた。
「しゅん、無理しすぎ。顔色、ひどいよ」
「大丈夫、大丈夫……」
口ではそう言いながらも、体は限界を訴えていた。
そんなある日、研究室の帰り道。
しゅんは階段を降りる途中、視界がぐらりと揺れ、膝から崩れ落ちた。
気がつくと、ゼミの教授と岸本がベッドの脇に立っていた。
「本当に無茶しすぎだ。少しは休め」
教授の声に、しゅんは申し訳なさと悔しさで胸が締め付けられた。
(俺は……全部やりきれると思ったのに……)
しかし、その晩、岸本が病室で言った。
「お前は十分頑張ってる。任せるところは俺たちに任せろ。チームだろ?」
その言葉に、肩の力が抜けた。
翌日から、事業の細かい作業は仲間たちに任せ、しゅんは卒論に集中する時間を確保した。
岸本も浅野も千夏も、全力で支えてくれた。
数週間後、しゅんは卒論を提出し、無事に教授から合格をもらった。
教授は柔らかい笑顔で言った。
「どちらもおろそかにしなかった君を、私は評価するよ」
胸の奥が熱くなった。
その夜、ノートを開くと金色の文字が浮かぶ。
「卒論と起業の板挟み — 苦悩しながら両立」
その下に、新しい言葉が現れる。
【すべてを抱えるには、仲間の力が必要だ】
しゅんはペンを取り、自分の言葉を書き加えた。
「一人で戦うな。チームで戦え」
春の風が吹くキャンパスで、卒業式の準備が進む中、しゅんは決意を新たにした。
(ここまで来た。次は、もっと大きな舞台へ)
そして彼は、卒業式の日を胸を張って迎える準備を始めた。




