大学生編・第4話 「初めての海外旅行 — 世界を知る」
冬休みを目前に控えた12月、京南大学のキャンパスに冷たい風が吹き抜ける。
しゅんはビジネス研究会の先輩に呼ばれ、カフェで向かい合っていた。
「しゅん、お前もそろそろ海外を見ておけ。机の上の知識じゃ限界がある」
先輩はそう言って、スマホの画面をこちらに向けた。
航空券の予約サイトが開かれている。行き先は東南アジア。しかもLCCなら、アルバイトで稼いだ金額で十分に行ける範囲だった。
(海外か……)
前の人生で海外旅行をしたのは、社員旅行のグアムだけだった。あのときもただ観光名所を回って、写真を撮って終わりだった。
(今回は違う。ちゃんと、学びに行くんだ)
頭の中に選択肢が浮かぶ。
【〇:海外へ飛び出し、世界を知る】
【×:日本に残って休む】
迷わず【〇】を選び、しゅんは航空券を購入した。
年明けの正月明け、しゅんは関西国際空港からバンコク行きの便に乗った。
隣の席は欧米人のバックパッカー。彼らの大きなリュックや気さくな雰囲気に少し緊張しながらも、機内誌をめくりながら心を落ち着けた。
バンコクに降り立つと、ムッとするような熱気と、スパイスの混じった香りが迎えてくれた。
(同じ地球なのに、こんなにも違うのか)
屋台で現地の料理を食べ、喧騒に包まれたマーケットを歩き、タイ語で必死に数字を伝えながら値段交渉もした。
ふと、何度か選択肢が現れる。
【〇:現地の人に声をかけ、交流する】
【×:観光地だけ見て回る】
当然、【〇】を選ぶ。
街角のカフェで、偶然隣に座った現地の青年に話しかけると、彼はにっこり笑って片言の英語で応じてくれた。
「ユア・ファースト・タイ?」
「イエス。ベリー・エキサイティング」
不器用な会話だったが、地元の安い食堂や隠れた名所を案内してもらい、彼の友人たちとも写真を撮った。
数日後、カンボジアへも足を延ばした。
アンコールワットの遺跡群の壮大さ、そしてその裏側にある貧しい村の子どもたちの笑顔が、強く胸に残った。
(お金の価値も、生き方も、日本とはまるで違う)
そこには、前の人生では決して見られなかった風景が広がっていた。
裕福でなくとも、力強く生きる人々の姿に、しゅんは何度も圧倒された。
旅の最終日、バンコクの空港で、しゅんはノートを取り出した。
金色の文字が浮かび上がる。
「初めての海外旅行 — 世界を知る」
そして、その下に新しい言葉が現れる。
【世界を知ることで、己の小ささと可能性を知る】
しゅんはそのページに、自分の言葉を書き加えた。
「日本にいるだけでは、何もわからなかった」
帰りの飛行機の中、窓の外に広がる雲海を見ながら、彼は心に誓った。
(いつか俺も、世界を舞台に戦う男になる)
日本に戻ると、寒さが骨身にしみた。
しかし、しゅんの中には、南国の太陽のように熱い何かが灯っていた。
荷物を片付けると、寮の机の上に置いたノートを再び開き、そのページにこう書き足した。
「旅は学びだ。知った世界の広さが、未来の地図になる」
そして、その言葉を胸に、しゅんは次の挑戦に向けて準備を始めるのだった。