大学生編・第1話 「大学入学 — 名門大学で新しい環境」
春、街の桜が満開を迎えたその日、内田しゅんは名門・京南大学の正門に立っていた。
門をくぐる学生たちは皆、輝いて見える。背筋を伸ばし、自信満々の表情を浮かべている者もいれば、緊張した面持ちでそわそわしている者もいる。
しゅんは深呼吸した。
(ここまで、長かった……)
事故で命を落としたと思ったあの日から、タイムリープして小学生に戻り、人生をやり直した。
家庭は相変わらず貧しかったが、前の人生で得た知識と未来の出来事を活用して、勉強も人間関係も全力で取り組んできた。
名門大学に入れるだけの学力と、堂々とした振る舞いを身に付けたのも、その結果だった。
それでも胸の奥はざわついていた。
ここには、世間から見れば「勝ち組」の子供たちが集まっている。親が経営者や医者、海外駐在員の息子や娘も多いと聞く。
裕福な家の出ではない自分が、この環境でやっていけるのか——。
頭の中に、いつもの選択肢が現れる。
【〇:自分から動き、人脈を作る】
【×:講義だけ受けておとなしく過ごす】
即座に、しゅんは【〇】を選んだ。
そのとき、胸の中でカチリと音がした気がした。
入学式を終え、学部ごとのオリエンテーションが始まった。大講義室に並ぶ新入生たちの視線は、期待と不安で揺れている。
壇上から教授が淡々と学部の概要や注意点を説明し、履修ガイダンスが行われた。
「……以上でオリエンテーションを終了します。それでは、各自親睦を深めてください」
その言葉を合図に、教室のあちこちでグループが自然発生した。
「出身どこ?」「サークル決めた?」そんな会話が飛び交う。
しゅんは立ち上がり、隣に座っていた男子学生に声をかけた。
「出身、東京?」
「あ、うん。港区のほう。君は?」
「埼玉。よろしく」
最初の一言さえ出せれば、後は自然と会話は続いた。地元の話、受験勉強の話、高校時代の部活。
その輪に、隣の席の女子学生も加わり、さらに数人が集まった。
(やっぱり動いた方がいい。人は話しかけられるのを待ってるものだ)
頭の中でまた選択肢が現れた。
【〇:さらに周囲のグループにも声をかける】
【×:今のメンバーに留まる】
しゅんは迷わず【〇】を選び、他のグループにも積極的に顔を出した。
その日の夜、寮の自室で一息ついたしゅんは、入学式の記念品の一冊のノートを開いた。
過去の自分が残してくれた金色の文字が、静かに浮かび上がる。
「名門大学で新しい環境。周囲を見渡し、挑戦の準備を整える。」
さらに続けて、新たな言葉が書き加えられる。
【学びも人脈も、すべてを糧にする】
しゅんはページを閉じ、深く息を吐いた。
次の日も、彼は休み時間になるたびに積極的に声をかけ、学部の仲間を増やしていった。
「人脈こそが財産」という思いは、前の人生で痛感した教訓だった。
勉強ができるだけではダメだ。どれだけ優秀でも、孤立していてはチャンスは巡ってこない。
昼休み、学食で仲良くなったメンバーとテーブルを囲む。
「しゅん君、サークルは決めたの?」
女子学生の一人が尋ねた。
「まだ。どんなサークルがあるのか見てから決めようと思ってる」
「うちは、テニスとかボートとか、体育会系が強いよ。文化系も面白いけど」
「だったら、見学一緒に行こうよ」
その言葉に、しゅんは軽く笑った。
「ぜひ。みんなで回ろう」
自然に会話を引き出し、和やかな雰囲気を作るのは、いまの彼にとっては簡単なことだった。
その夜、またノートを開く。
ページの片隅に、金色の文字が小さく輝いた。
【人は一人では生きられない。今を動けば、未来が変わる】
しゅんはその言葉を指でなぞり、改めて決意する。
「ここで作った人脈が、俺の武器になる」
視線の先には、まだ見ぬ未来が輝いていた。