高校生編・第5話 「文化祭本番」
文化祭当日。
校庭や廊下には色とりどりの飾り付けがされ、朝から活気にあふれていた。
起業研究会のブースは校舎の中庭に設けられ、目立つ位置にテントと調理スペースが用意されていた。
看板には大きく書かれている。
『のび〜る!絶品チーズドッグ屋』
「よし……いくぞ!」
しゅんはエプロンを締め直し、深呼吸した。
高橋と川島も、気合の入った顔をしている。
テントの中では、揚げ油がぐつぐつと音を立て、試作を重ねた衣とチーズが準備万端だ。
◇ ◇ ◇
文化祭が始まると、さっそくお客がやってきた。
「これ、インスタで見たやつだ!」
「すっごい匂いがする〜」
最初の数人に笑顔で試食を配り、揚げたてを手渡す。
「ありがとうございます! 熱いので気をつけてください!」
ひと口食べた客が、びよーんとチーズを伸ばして喜ぶ。
「わぁ、本当に伸びる!」
「めっちゃ美味しい!」
その様子を見た周囲の生徒たちが、次々と並び始めた。
いつの間にか列はテントの外まで続いていた。
◇ ◇ ◇
だが、順調に見えたのは最初だけだった。
途中、油の温度が下がりすぎて衣がべちゃついたり、チーズが溶けすぎて破裂したりしてしまう。
「やばい……このままだと、クレーム出るぞ!」
高橋が焦った声を上げる。
しゅんの頭の中に、青い選択肢が浮かぶ。
【〇:一度休止して品質を立て直す】
【×:強引に続けて列をさばく】
(……お客さんの期待を裏切りたくない)
しゅんは【〇】を選び、列の先頭に声をかけた。
「申し訳ありません! 少しお時間をいただきます!」
一時休止の札を出し、みんなで急いで油を入れ替え、衣とチーズを冷やし直した。
「ここで立て直すぞ!」
短い時間で微調整を済ませ、再開すると、見事にサクサクでチーズの伸びも完璧なチーズドッグが復活した。
客からも「さっきより美味しい!」と声が上がり、しゅんたちは安堵の表情を浮かべた。
◇ ◇ ◇
昼頃には、クラスメイトや他の部活の友人たちも立ち寄り、ブースは大盛況。
川島はレジを担当し、高橋としゅんがひたすら揚げ続ける。
「お釣りちょうどです! ありがとうございましたー!」
3人とも汗だくになりながらも、ずっと笑顔だった。
夕方、最後のひとつを売り切ったとき、拍手が起こった。
「完売だ!」
レジの売上を数えてみると、仕入れを差し引いても去年の利益を大きく超えていた。
「……やったな!」
3人は思わずハイタッチした。
◇ ◇ ◇
片付けが終わり、夕暮れの校庭で一息つく。
工藤先輩が近づいてきて、しゅんの肩を叩いた。
「よくやったな。今年の文化祭、間違いなくお前たちの勝ちだ」
しゅんは嬉しさと誇らしさで胸がいっぱいになった。
ノートを取り出し、今日の一日を記す。
「文化祭本番。仲間と共に挑んだ結果、最高の形で終えることができた。」
ページに金色の文字が浮かぶ。
【挑戦の成果を知った】
(やればできる。そう信じ続ければ、きっとどこまでも行ける)
そう心に刻みながら、校舎を後にした。