中学生編・第2話 「陽一の変化」
新しいクラスにも少しずつ慣れ、サッカー部の練習も始まった頃。
しゅんは昼休みに校庭の隅でボールを蹴りながら、ふと遠くのベンチに座る一人の男子に気づいた。
(……陽一?)
小学校の頃からの友達、陽一だった。
同じ中学に進学したが、クラスが違ったため、入学式以来顔を合わせていなかった。
陽一は元気がなさそうに、俯いていた。
胸の中に青い選択肢が現れる。
【〇:声をかける】
【×:そっとしておく】
迷わず【〇】を選び、しゅんはボールを持って近づいた。
「陽一! 元気か?」
陽一が顔を上げると、少し驚いたように目を見開いた。
「あ……しゅん……」
◇ ◇ ◇
二人並んでベンチに座る。
「最近どう? 部活決めた?」
しゅんが話題を振るが、陽一は苦笑いをするだけで、あまり答えようとしない。
「……俺さ、なんか、うまくいかなくてさ」
ぽつりと陽一が言った。
「クラスでも浮いてるし、部活も決められなくて。みんなすぐ仲良くなってるのに、俺だけ置いてかれてるみたいだ」
陽一の言葉に、しゅんは胸がチクッとした。
かつての自分も、同じように感じていたからだ。
(あの時、俺は正解を選び続けて少しずつ変われた。陽一にも、その手助けができるかもしれない)
◇ ◇ ◇
「大丈夫だよ、陽一。俺だって最初は緊張してたし、まだうまくいってるわけじゃない。最初から全部できる奴なんていないしな」
そう言うと、陽一は少しだけ笑った。
「……しゅんは、変わったな」
「そうか?」
「うん。なんか、前より自信があるっていうか、頼りがいがあるっていうか……」
しゅんは少し照れながらも、陽一の言葉を素直に受け取った。
「俺さ、部活見学、一緒に行ってみようか?」
陽一の目が驚きに見開かれる。
「え……いいのか?」
「もちろん!」
再び青い選択肢が浮かぶ。
【〇:陽一をサッカー部に誘う】
【×:他の部活も見せる】
ここは慎重に考え、【×】を選んだ。
(陽一に合う部活を探してやりたい)
◇ ◇ ◇
放課後、しゅんと陽一はまずサッカー部の練習を見に行った。
「やっぱりみんな上手いな……俺は無理かも」
陽一が呟くと、しゅんは笑った。
「じゃあ、次行こう。バスケ部も見てみるか?」
体育館では、バスケットボール部が活発に走り回っていた。
陽一はじっと見つめていたが、ここでも首を横に振る。
「動きが早すぎて……俺には向いてないな」
しゅんは次に文化部を提案した。
図書室の一角にある将棋部を覗くと、陽一の表情が少しだけ変わった。
「……ここなら、なんか落ち着くかも」
しゅんはニヤリと笑う。
「決まりだな」
◇ ◇ ◇
翌日、陽一は将棋部に入部届を出した。
放課後、部室の前で陽一を見送ると、彼が小さく手を振りながら言った。
「……ありがとう、しゅん。俺、頑張ってみるよ」
その表情は、昨日までの暗い顔ではなかった。
(これでいい。俺が正解を選び続けることで、陽一も変われる)
帰り道、空に浮かぶ雲を見上げながら、しゅんは深く息をついた。
ノートにこう書き記した。
「陽一の変化。俺が一歩踏み出したことで、陽一も前に進めた。これからも、正解を選び続ける」
ページを閉じると、金色の文字が一瞬、心の中に浮かんだ。
【陽一との絆が強まった】
しゅんは笑みを浮かべ、青空を見上げた。
(正解の選択は、いつも誰かの未来につながっている)