小学生編・第10話(最終話) 「正解の先に」
春の終わりが近づき、学年最後の通知表をもらう日がやってきた。
教室の窓からは、やわらかい風が吹き込み、カーテンがゆらゆらと揺れている。
しゅんの席の上には、1年間使い込んだ教科書とノートがきれいに積まれていた。
担任の先生が一人ずつ名前を呼び、通知表を手渡していく。
「内田しゅん」
しゅんが立ち上がると、教室の空気が少しだけ変わった。
クラスメイトの何人かが、ちらりと振り向いて笑顔を向けてくれる。
あのいじめられていた頃の雰囲気は、もうどこにもなかった。
「はい、1年間よく頑張りました」
先生から通知表を受け取り、席に戻る。
(よし……)
封筒の中には、丁寧に書かれた成績と、先生の手書きのコメントがあった。
「明るく、周りをよく見て行動できるリーダーになってきましたね。この調子で、これからも挑戦してください。」
しゅんは、その一言に胸が熱くなるのを感じた。
(この1年、ずっと正解の選択肢を選び続けてきた。それで……ちゃんと変われた)
◇ ◇ ◇
家に帰ると、母が玄関で出迎えてくれた。
「おかえり! 通知表、どうだった?」
「うん、結構よかった」
母が封筒を開いて成績を見たあと、顔を上げて満面の笑みを見せる。
「ほんとにすごいわ! お母さん、嬉しい!」
しゅんは少し照れくさくて、視線を逸らした。
けれどその瞬間、また青い選択肢が浮かぶ。
【〇:母に素直に「ありがとう」を伝える】
【×:照れ隠しをする】
しゅんは、迷わず【〇】を選んだ。
「母さん、ありがとう。俺、もっと頑張るよ」
母の目が潤んだ。
「こちらこそ、ありがとう。母さんも、もっと頑張るからね」
2人で笑いあったあと、夕飯の支度を手伝いながら、この1年間を思い返した。
いじめられていた頃の自分。
陽一を助けて友達になったこと。
授業参観で母の背中を見つめたこと。
将棋大会に挑戦したこと。
どの瞬間も、選択肢が現れた。
正解の選択を積み重ねるたびに、周りも、そして自分自身も、少しずつ変わっていった。
(もしかして……正解って、誰かを喜ばせることなのかもしれない)
夕飯の後、母が洗い物をしている間に、しゅんはノートを開く。
ページの真ん中に、大きな字で書き込んだ。
「小学生編 完了。正解の先に、母の笑顔があった。」
その瞬間、いつもの青い選択肢ではなく、金色のメッセージが浮かび上がった。
【小学生編クリア。次のステージに進みますか?】
しゅんはノートを閉じ、窓の外の夜空を見上げる。
(もちろんだ。まだまだ、ここからだ)
深呼吸をして、心の中で答えた。
「はい」
金色の文字が静かに消えていき、胸の中に新たな決意が灯った。
(次は中学生編だ。もっと難しい選択もあるだろう。でも、俺はきっと乗り越える)
しゅんは笑顔で母のもとに戻り、台所の片付けを手伝った。
明日のことを考えると、少しだけ胸が高鳴る。
(正解の先に、もっと大きな未来がある)
そう信じて、しゅんは母に「おやすみ」と告げ、自分の部屋に入った。
布団に入りながら、目を閉じる。
もう一度、金色の文字が心の奥に浮かんだ。
【中学生編、スタート】