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アリ先輩とキリギリス後輩

アリ先輩とキリギリス後輩(通勤電車編)

作者: 柳屋

挿絵(By みてみん)


アリ「キリギリス君、そのチュロス……電車内での“攻撃力”高すぎないか? 周囲の眉間が怒ってるの、見えないのか?」


キリギリス「え、マジっすか!? このシュガーたっぷりチュロスが、まさか凶器になるとは!てっきり、この甘~い香りで、みんなの殺伐とした空気を和ませてるんだと思ってました! あ、先輩も一口どうっすか? これ、ホームの売店で並んで買ったんすよ!」


アリ「並んで買ったその情熱を、なぜ業務マニュアルに向けられないのか……。しかも今、“一口どうっすか”って、この満員電車でどう渡す気だ? 落とした瞬間、君、物理的にも社会的にも詰むぞ?」


キリギリス「あ、そうか! 満員電車だと、物の受け渡しも高難度ミッションになりますもんね! 危うくチュロス落としのギネス記録保持者になるところでした! いやー、アリ先輩の危機管理能力、マジ半端ないっす! 僕、先輩がいなかったら、とっくに社会的に詰んでましたね!」


アリ「いや、その“社会的に詰みそうな瞬間”を生み出してるのは常に君だからな? 危機を回避してるんじゃなくて、君がまず“危機を育ててる”んだよ。いっそ“トラブルのたまご職人”って名札でもぶら下げとくか?」


キリギリス「なるほど! 僕って、もしかして『トラブルのたまご』だったんすね! じゃあ、アリ先輩は、僕というたまごを完璧に孵化させてくれる『危機管理の親鳥』ってことっすか! なんか、僕らの関係性、エモいっすね! じゃあ、今度から名刺に『トラブルのたまご職人 兼 キリギリス後輩』って入れときます!」


アリ「それ名刺もらった瞬間、取引先が警戒モードに入るやつだぞ……。というか、“孵化させる親鳥”の役目、俺は望んでないからな? 毎朝この電車で、君の“社会性の殻”を割らされる俺の気持ち、少しは察してくれ」


キリギリス「えー! そんなこと言わないでくださいよ、アリ先輩! 僕の社会性の殻、先輩にしか割れないんすから! ていうか、先輩がパパっと割ってくれるから、僕ものびのびと社会性ゼロの卵として存在できるんすよ! これぞWin-Winの関係じゃないっすか! あ、でも、まさか先輩、この満員電車の中で、僕の殻を割ろうと物理的に突っついてきたりしないっすよね?」


アリ「安心しろ、物理的に突っついたら今度は俺が社会的に終わる。だがな、内心ではもう何度もスクランブルエッグにしてるよ、君を。……っていうか、君の“社会性ゼロ卵”理論、Win-Winじゃなくて“ギリギリ”だからな?」


キリギリス「うわー、スクランブルエッグっすか! それはそれで美味しそう…って、ヤバいヤバい! ギリギリ理論っすか! でも、そのギリギリの綱渡りが、僕のアドレナリンを刺激するんすよねぇ!


アリ先輩、もしかして、僕がギリギリで生きてるの、楽しんでません? まさか『キリギリス観察日記』とかつけてないっすよね? あ、でも、それなら先輩が僕の社会性の殻を割るのがうまいのも納得っすね!」


アリ「誰がそんな日記つけるか。“今日もチュロスを電車で食う勇者、現る”とか書いてる暇があったら、業務報告書を早く出せって話だ。……そもそも君の行動、観察じゃなくても“強制視認”なんだよ。存在感が渋滞並みに濃いんだよ」


キリギリス「えー! 僕の存在感、渋滞並みっすか! それってつまり、みんな僕のこと見ちゃうってことですよね? もしかして僕、満員電車のマスコットキャラ的な存在に!?


よし、じゃあ今度から、通勤電車内で『キリギリスを探せ!』ってイベントでも開催しますか! 見つけた人には僕特製の“今日のポジティブワード”をプレゼント! ……あ、でも、アリ先輩は多分、毎日僕を見つけちゃうから、毎日強制的にポジティブになっちゃいますね!」


アリ「残念ながら俺、君を見つける前に“音声だけで判別”できてるからな。“おはようございまーす!”のボリュームで駅三つ前から察知できる。……っていうか、その“今日のポジティブワード”、たまには“報連相”とか“締切”とか混ぜとけ」


キリギリス「うわー、僕の『おはようございまーす!』、そんなに広範囲に届いてましたか! もはや『おはようビーム』っすね! じゃあ今度から、通勤電車内で『キリギリスを探せ!』じゃなくて『キリギリスの声を探せ!』にタイトル変更しますか!


そして、『報連相』と『締切』! それはポジティブワードというより、『社会人の呪文』じゃないっすか! でも、アリ先輩がそこまで言うなら、混ぜてみます! たとえば、『今日のポジティブワードは、「締切を守って、報連相でみんなハッピー!」』とか! どうっすか、これなら完璧じゃないっすか!?」


アリ「まさか“締切”で“ハッピー”をねじ込んでくるとは思わなかったよ……。でもまあ、悪くない。むしろそのテンションで会議資料も仕上げてくれたら、こっちもハッピーだ。……あ、ちなみに今の“おはようビーム”、車両全体が一瞬静かになったぞ。伝説はまたひとつ増えたな、キリギリス君」


キリギリス「やったー! 締切でハッピー、アリ先輩のお墨付きっすね! よし、このテンションで会議資料も爆速でハッピー仕様にしちゃいますよ!


え、マジっすか! 『おはようビーム』で車両が静寂に包まれたと!? それって、僕のポジティブオーラが強すぎたってことっすよね!? まさに『静寂を呼ぶキリギリス』! これもまた新しい伝説の幕開けっすね! アリ先輩、僕の伝説はまだまだ終わりませんよ!」


アリ「うん、できれば“伝説”より“提出物”を優先してくれ。あと“静寂を呼ぶキリギリス”は響きが綺麗だけど、実態は“周囲が一瞬言葉を失った”だからな? そのうち“沈黙のチュロスマン”とか呼ばれないよう、電車内チュロスは封印しとけ」


キリギリス「がーん! 『沈黙のチュロスマン』! それはさすがに避けたいっすね…。了解しました! 今日のところは、チュロスは完全に封印! カバンの中に厳重にしまっておきます!


『静寂を呼ぶキリギリス』も、実は『周囲が一瞬言葉を失った』だったとは…。アリ先輩、いつも冷静なツッコミ、ありがとうございます! 僕、先輩がいなかったら、とっくに『伝説の勘違い野郎』になってるとこでした!


よし、これからは『伝説』よりも『提出物』に全集中っすね! アリ先輩、僕の『提出物優先モード』、今日の午後の会議でぜひ見ててください!」


アリ「おう、しっかり見届けるよ。“伝説の勘違い野郎”から“提出物の鬼”への進化、期待してる。……まあ、君が“提出物優先モード”に入った瞬間、社内カレンダーに“珍しい現象”って書き込まれないことを祈ってるがな」


キリギリス「えへへ、『提出物の鬼』ですか! その称号、僕、気に入りました! でも、社内カレンダーに『珍しい現象』はちょっと…!


よし、アリ先輩、僕の『提出物優先モード』は、もうデフォルト装備ですから! 今日から毎日が『珍しい現象』じゃなくて、『当たり前の提出物』になります!


じゃあ、このままの勢いで、今日も一日頑張りますか! アリ先輩も、どうか僕の進化を、温かく見守ってくださいね!」


アリ「了解。“当たり前の提出物”を“奇跡”から“日常”に変えてくれたら、それこそ伝説だ。……じゃあ今日もこの満員電車を降りたら、社会の荒波って名のオフィスへ突撃だな。チュロスはバッグの中、提出物は心の中。行くぞ、キリギリス君!」


──終──

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