序章 夢の訪れ、力の目覚め
夜の闇に沈む街は、冷たく無機質な光を放っていた。
ビルの窓明かりが整然と並ぶ中、人々は疲れ切った顔で帰路につく。
終電を逃し、薄暗い歩道を歩く藤崎亮は、疲労で重い足を引きずりながら、ぼんやりと無意味な日々を振り返っていた。
ブラック企業での終わりなき業務、心を削る罵声とノルマ。
「人生とは、これほど無価値なものなのか……」
家に着くなりジャージに着替え、コンビニで買った缶ビールを一気に流し込む。
ほのかなアルコールの刺激が喉を通り過ぎると、微かな酔いと共に意識が霞んでいく。
いつものルーティンだ。ベッドに倒れ込み、何も考えずに眠る。
そして同じような朝が訪れる。
スーツに袖を通し、朝食も取らずに出社。
変わり映えのしない通勤風景を眺めながら、いつもと変わらぬ駅のホームへ。
——————のはずだった。
改札を抜け、電車を待つ。時間になり、アナウンス前のチャイムが鳴る。
ピンポンパンポーン♪
その瞬間——視界が歪み、世界が暗転した。
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「ようこそ、迷い子よ。」
闇の中に響く声は、冷ややかでありながらどこか優しい。
視界が徐々に明るさを取り戻す。
だが、それは現実の風景ではなかった。
目の前には漆黒の空間が広がり、中心にローブを纏った男が立っている。
「君は限界に立たされている。だが、この先に“選ぶべき道”がある。」
ローブの男——アレクシスはそう告げた。
心臓の鼓動が高鳴る。得体の知れない緊張感が体を支配する。
「……お前は誰だ? ここはどこだ?」
「私は“導く者”。君の魂が、この世界とあちら側の狭間を呼んだのだ。」
突如、胸の奥に熱が走る。
強烈な衝撃が体中を駆け巡り、手のひらが光を帯び始める。流れ込んでくるのは、“魔力”という未知の概念。
「力は、使い方次第で道を拓く。だが、覚えておくがいい。力は代償を求める。」
彼の言葉が脳裏に刻まれると同時に、再び視界が揺らぎ、闇が押し寄せた。
「——っは!」
目を覚ますと、そこは自宅のベッドだった。
汗ばんだシャツが肌に張り付いている。夢だったのか? そう思った矢先、手のひらに小さな青白い光が渦巻いていた。
現実が、非現実に侵食され始める瞬間だった。