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衝撃を受けたオリヴィアとヒロインマリアの邂逅①

 

 マリアとの衝撃的な対話を終えた翌日。

 なかなか寝付けなくていつもよりも早く起きてしまったので、癒しも兼ねて、私はクロに朝ご飯をあげに中庭へ行くことにした。

 

 いつもの定位置である木のベンチでしばらく待っていると、真っ黒な毛玉がどこからともなく現れ、私の膝の上にちょこんと座る。

 そしてすぐさま私の手にあったごはんに気付いたクロは、早く寄こせとばかりにニャアニャアと声を上げる。


「分かってるわよ、今あげるから」


 そう言って目の前に差し出せば、勢いよくごはんの入った入れ物に顔を突っ込んだ。

 そんなクロの触り心地の良い背中の毛を優しく撫でながら、ふと昨日のことを考えてしまう。


 マリアが男の子だったっていうのは正直予想外だった。けれど性別を気にしなければあれはゲームのマリアそのものだった。

 彼が私と同じく前世の記憶を持っているのかは分からないけど、おそらくラインハルトをはじめとした他の面々も気に入るだろう。それが男だから心配はない、とはやっぱり言い切れない。世の中にはいろんな形の愛もあるのだから。


 ……正直、面と向かってあんなにはっきりと可愛いって言われて戸惑ってしまった自分にもショックだった。

 私は将来公爵家を継ぎ、父のように宰相になるのを目指している。だからあんな言葉一つで振り回されるわけにはいかないのに。

 それだけマリアが男の子だったという事実に衝撃を受けてしまったからだろう。次こそはあんな失態は犯さない。


 それに、マリアの存在はまだ絶対に安心とは言えないけど、彼が男の子だったってだけでも肩の荷が少し下りたのは事実だ。

 だからこそ、私はそろそろ自分の婚約について考えないといけない。


 二人の婚約者に捨てられた欠陥品であろうと、氷姫と呼ばれていようと、爵位を持てない男性たちにとって、公爵家に婿入りというのはとても価値があるらしい。

 だから今でもそれなりに声がかかる。

 けれど、適当な言葉を並び立てて私を賛辞しつつ、婚約者に捨てられたのは私が氷姫と言われている通り、人の心が分からない冷酷な人間だからじゃないかと探ってくる人ばかりで、いつも心が疲れてしまう。

 

 確かに人前で感情を晒すのは苦手だけど、だからといってなぜ人間性まで否定されないといけないんだろうか。

 友人といる時は笑っているつもりだし、彼らに捨てられるまではそんなこと言われたこともなかったのに。

 そんなに私は悪いことをしたのだろうか。

 またあんな悲しい気持ちになるのかなと憂鬱になった私は、ふぅと大きく息を吐く。


 と。


「あれ、フォルダン様だ! おはようございます!」


 すぐ後ろから弾むような声が聞こえ、驚いた私が振り返ると、昨日ぶりの人物が嬉しそうににぱっと笑って私を見下ろしていた。


 この前とは別の位置に寝癖をつけたマリアは更に頬を緩め、私を見つめる。

 それが昨日彼がまっすぐ見てきた瞳と重なり、けれど揺さぶられそうになった感情を気合いでぐっと押し戻し、普段のオリヴィア・フォルダンの顔を作る。


「おはよう、フレイムさん。それにしても随分早いのね。あと、寝癖が付いているわよ」


 すると彼は、慌てたように髪を触り、バツが悪そうに頬を掻いた。


「あー、クロに早く会いたくてちゃんと鏡見てなかったかも……」


「その頭はみっともないわ。鏡と櫛を貸してあげるから、座って直しなさい」


「ありがとうございます」


 と、横に座ったマリアは、すぐさま私の膝の上の仔猫に気付く。


「あ、クロ! ここにいたのか! よかった、ごめんな、今日寝坊しなかったら試しに魚とってこようかと思ってたんだけど。けど代わりに昨日俺がなけなしの小遣いで買ってきたとっておきの高級猫缶をあげようと思って……」


 不意にマリアの台詞が止まる。どうしたのかと首を傾げると、マリアは少し残念そうに眉を下げ、クロを見つめる。


「フォルダン様の上で寝ちゃってます」


「あら、本当」


 いつもはご飯を食べたらすぐにどこかに行くのに、今日はやけにおとなしいなと思っていたんだけど、そういうことだったのか。

 吐息を立てて眠るクロをそっと撫でる。


「いいなぁ、俺も膝の上に乗ってくれるくらいクロと仲良くなりたいです」


「人懐っこい子だから、あなたならすぐにもっと仲良くなれるわ。それより、はい、鏡と櫛」


 クロを起こさないように最小限の動きで鞄から目当てのものを取りだし、マリアに手渡す。


「あなたも貴族の一員になったのだから、これまで以上に身だしなみは気を付けないと。あと、タイも曲がっているし、シャツも少しはみ出ているわ」


「わ、本当だ!!」


 慌ててマリアは私に指摘されたところを直す。

 ふわふわの髪だからなのか、櫛を何度か撫でつけるだけで、寝癖はすぐに馴染んでなくなった。

 羨ましい。私なんて、櫛だけじゃ直らない上に、かなりの時間を要するのに。


「どうですか?」


 指摘された部分を全て直し終えたマリアは不安げに瞳を揺らし、尋ねる。

 彼の頭の先からつま先までじっくりと確認するが、他に問題はなさそうだった。


「大丈夫みたいね」


 合格点を出すと、彼は大きく安堵のため息を漏らした。


「そういえばフレイム家でも、貴族になったんだから身だしなみのチェックは怠らないようにって口を酸っぱくして言われてたんでした。昔からそんな習慣がなかったから、つい後回しにして忘れちゃってて。以後気を付けます」


 一応彼のことは軽く調べてはいたけれど、四六時中張り付いていたわけでもない。

 マリアがここに来るまでの経緯が一体どういうものだったのか、本当にゲームと同じなのか興味が湧く。

 彼がゲーム通り、ラインハルトたちを攻略するかは分からないけど、今後の対策の為にもそのあたりのことを直接本人から聞いてみてもいいかもしれない。


「ところでフレイムさん、いきなり子爵家に引き取られて、馴染むのは大変だったでしょう」


 するとマリアはうーんと唸り、首を傾げる。


「確かに勉強面やマナー面はこれまでやったことがなかったことがたくさんだったのでそれなりに苦労しましたけど……。だけど、俺を引き取ってくれたフレイム家ってすごくいい人たちだったんですよね」


 そう言ってマリアはクロから目を離すと、遠くを見つめ、昔を思い出すように語り始めた。


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