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モブに転生したとある令嬢ミラ(+一名)の目撃①

 

 いや、待て待て。

 なんでこんなことになった。


「……同じく、一年生のミラ・リズールです。生徒会に選ばれてかなり驚いていますが、色々頑張りたいと思います」


 なぜだ。どうして私は今、画面越しにしか会えなかったイケメンたちと共に生徒会室にいて、そして自己紹介なんてしているんだ。


 まあ、大いに嬉しいことではあるんだよ?


 目の前には今の最推しカップル(予定)のオリヴィア様とマリアがいて、二人の進展をこの目で見られる機会がぐんと増えた、という点において、転生してこれ以上幸せなことがあろうか、否ない!


 ……なんだけど、まったくもって心の準備をしていなかったので、未だに私が生徒会室にいるという現実を受け入れられず、緊張しまくっていた。

 ここ数日寝られなかったからね、嬉しさと緊張とその他諸々の感情に押し潰されて。


 っていうかミラ・リズールなんてモブキャラが生徒会メンバーにいたことすら記憶になかったよ。

 だって攻略に関係なかったし。イベントに名前くらいは出ていた……かもしれないけど、イベント時のイケメンたちの台詞は一言一句脳に刻み込んでいても、それ以外の情報なんて覚えてないよ!


 けどゲーム通り、オリヴィア様は相当意識しているように見える。顔は平静を装っているけど、マリアを見ている時にふと見せる瞳の揺らぎとか、私は見逃さないからね。


 一方のマリアは、オリヴィア様に、大好きなオリヴィア様の力になれるよう頑張ります! と言っていた通り、きちんと取り組むつもりのようで、すごく真面目に生徒会の先輩たちの話を聞いている。だけどオリヴィア様が口を開くと、非常に分かりやすくその相貌が崩れる。

 

 必死になって感情をひた隠すけど滲み出ているオリヴィア様と、大好きオーラ全開のマリア。

 よきですな、うん。いい感じに甘酸っぱい! 

 なんか口直しに塩辛い物が欲しいです。


 なぁんてことを考えていたら、これから新入生の私たちは先輩方について個別にお仕事を教えてもらうらしい。

 当然、マリアにはオリヴィア様がついたよ。これ、マリアへの好感度がその時で一番高い人になるから、オリヴィア様以外にはありえないよねっていうね。


 そして私の相方になったのは──。


「よろしくね、ミラ」


 出たっ!!

 キラキラ度百二十%増しの笑顔が眩しい、レイリー殿下だ。


 しかし腹黒だ。そして彼の笑顔が増すごとに危険度は増していくという仕様。

 つまりこれだけ光をまき散らすレイリー殿下には注意した方がいい。


「よろしくお願いします」


 とりあえず、私は彼が腹黒なんて全く知りませんよ的な感じでいこう。

 っていうかなんで私が彼と組まされることになったのやら。

 ミラはただのモブだから、生徒会の中でも同じくモブ扱いだった二年の先輩とかだと思ったのに。


 こうして眺めてみるとレイリー殿下のかんばせは本当に美しい。


 同じ兄弟であるラインハルト殿下は、次期王になるからか、威厳も兼ね備えた美形で、カッコよくて男前だけど、こっちはまるで彫刻の様に繊細な美しさだ。 

 なんというか、イケメンの種類が違うっていうのかな。オリヴィア様ともまた違った系統の柔らかい系の美人さんだ。

 相当容姿に自身がある人じゃないと彼の隣には立てないよなぁと思う。女性が自信なくすレベルだよ、これ。


 そんなレイリー殿下についた私だったけど、実は彼の話を聞きながら上の空だったりする。


 私たちが生徒会室を出た時、マリアとオリヴィア様が隣の部屋に入っていくのを見た。


 あれって、もしかするともしかするかもしれない。


 一定以上の好感度がある場合に起こる、激熱必至な特別イベント。


 何かの拍子で棚が倒れ、あわや倒れてオリヴァー様にぶつかる寸前、気付いたマリア(女)が彼を突き飛ばして、代わりに自分が身代わりになるシーン。

 棚に体が押しつぶされるのは免れたけど、マリア(女)は片足が棚に掠り、少しだけ怪我をしてしまった彼女に助けてもらったお礼と謝罪を述べながら、オリヴァー様がマリア(女)を保健室までお姫様抱っこで運ぶというニヤニヤイベントだ。

このお姫様抱っこスチルも最高で、何度見返したか分からない。


 まあ今回の場合男女が逆転しているから、さすがにオリヴィア様がマリア(男)を横抱きにして運ぶシーンがあるとは思っていないけど、これまでの感じからもしかするとゲーム以上の萌えが展開されてもおかしくない。


 見たい。是非見たい。そして私を悶えさせてくれ。


 が、今私はレイリー殿下とお仕事中である。職員室へと向かっているが、理由をつけて戻れば、収穫はあるかもしれない。

 

ゲームだと、開け放っていた窓から棚が倒れた大きな音が聞こえたことから、生徒会の役員が駆け付け、オリヴァー様と一緒に棚を持ち上げてマリア(女)を救出するという流れだ。その役員が誰になるかはこれまたランダム。

 

それ、私立候補します。ちゃんと役割は果たすんで、どうか神様、この私を選んでください。


 ということで、どんな言い訳をして生徒会室へ戻ろうかと考えていた私に、レイリー殿下はそういえばという言葉を最初につけ、私に声をかける。


「君さー、この間生徒会入りの打診をしに行った時、オリヴィアとマリアの様子を覗き見してたよね? もっと言うなら、それより前に裏庭であの二人が会話してた時も二回ほど、物陰から見てなかった?」


「だってあの二人、ゲーム以上の萌え展開繰り広げているんで。見に行けるならできる限り全てのイベントを網膜に焼き付けて置かないとだめですし」


「ふーん。……ちなみに君を呼んだ時、最初僕の名前の前に、腹黒ってつけようとしてたよね?」


「腹黒レイリー殿下、っていうのが、ユーザーにとってはもはや名前の一部のようなものなので、意識していないと自然と腹黒って単語が出ちゃうんです、よ、ね……」


 ……待って。今、すごくまずいこと、口走った気がする。

 完全に上の空だったから普通にゲームとか、本人を前にして腹黒とか言っちゃった。


 途端に汗が滝のようにだらだらと流れ出るのを感じる。

 ど、どど、どうしよう、怖くて隣が見れない。でも空気感で分かる。

 今のレイリー殿下、絶対に、確実に、最高にいい笑顔でこっちを見ている。


 どうする、勘違いでしたって誤魔化すか?

 ……いや、無理だ。これが脳筋ならいざ知らず、相手は弱みを見つけたら絶対に見逃さず、嬉々として、じわじわと、でも確実に息の根を止めに来るレイリー殿下だ。


 ゲームとかイベントとかっていう単語に関しては、おそらく意味が分からないはずなので、可能性は低いけどこの場は何とかしのげるかもしれないが、腹黒はまずい。

 一般生徒にアンケートを取ったら、彼が腹黒かもしれない、なんて回答をする人間はいないはず。そのくらいこのお方は、自身の腹黒さをしっかりと隠し通せているのだ。

 それを、学園で会ったばかりの私が気付くなんて、万に一つも想定していなかったはず。


 どうするか、どうすべきか。

 今すぐに誤魔化すことはもはや不可能。


 ということで私のとった行動は————。


「失礼します!!」


 その場から全速力で逃げた。


 廊下を走るなんて淑女としてNG行為? 知るか、こっちは命がかかってんだ!!

 これから起こるであろう盛りだくさんな二人のイベントを見ずして、力尽きるわけにはいかない!!


 逃げたって解決しないことは分かってるけど、後日、体調が悪かったからだとか、その辺の霊にとりつかれたみたいで訳の分からないことを言いましたとか、誤魔化すしかない。

 それが通じるかとか、そういう問題じゃない。それで押し切るのだ。


 が。


「どうして逃げるのかな」


 気付いたらすぐ隣で、私と全く同じ速度を出すレイリー殿下がいた。


「ひぇぇぇっ!」


 怖い、マジで怖いよ! 

なにこれ、なんでついてくる!? 

そして予想通り、満面の笑みだよ! 笑いながら私と並んで追いかけてくるとか、夢に出る!! しかも走っている私とは違い長い足を駆使して優雅な早歩きときたもんだ。


 もう嫌だよ、怖すぎる!

 正直涙目だよ。

 ゲームでは腹黒イケメン最高とか叫んでたけど、ひゃっほいと雄叫びあげていたあの頃の自分を全力で殴りに行きたい。

 

リアルはあかんって。イケメンだからいいとかじゃなくて、なにも良くないって!!


「あはは、まるで怖い物でも見たみたいな叫び声を上げるなんてひどいなぁ。僕、君に何もしてないよ? まだ」


 まだってなんや!!

 この後なんかする気満々じゃん!! 


 なんとか逃げ切れ、私。

 もはや今日逃げたところで何も解決してないけど、とりあえず目の前の恐怖から距離を取ることを最優先にしないと!!


 と、その時、耳をつんざくような叫び声が私の耳に届く。


「誰かぁ、助けて——っ!!!」


 それは紛れもない、オリヴィア様の声だった。

 思わず私の足が止まる。


「あれ、この声って……」


 レイリー殿下も気付いたのか、同じく立ち止まる。

 いつの間にか生徒会室の近くまで来ていたようだ。

 そしてこのタイミングでオリヴィア様のこの悲鳴ということは————。


「今行きます!!」


 この隙にレイリー殿下から逃げることもできたけど、それよりも重大なミッションが私にはあるのだ! 

そしてそれが今、目の前で拝める可能性があるのなら、私はそちらを選ぶ。

 すなわち、萌えイベントの鑑賞である。


 私がそっちに行った、というか、オリヴィア様のあの叫び声にただ事じゃないとレイリー殿下も感じたようで、私たちは二人揃って生徒会室に入ると、最奥の部屋を目指す。


 結果的に、私のこの判断は正しかった。


 だってその部屋では、ゲームの時とは比べ物にならないほどの惨事が起こっていたのだから。


 そう広くはない部屋の中央で、本棚が倒れている——正確には、倒れかけていた。完全に地面についていないのは、床に倒れたオリヴィア様を、マリアがその身一つで潰れないよう支えていたからだ。


「待って、今どけるから!!」


「私も手伝います!」


 足元に散らばる書類で足を滑らせないよう急いでそちらへ向かうと、レイリー殿下とは反対側に行って、二人で声をかける。そして、かなりの重さのそれを、こんな時の為にと鍛えた腕力を使って持ち上げ、何とか元の位置に戻す。


 すると、オリヴィア様に覆いかぶさっていたマリアがごろんと床に転がるのが見えた。


 オリヴィア様の金切り声が響く。

 無理もない。この重さの棚を一人で支えていたのだ。血も出ているようだ。


思わず血の気が引く。


 ゲームでは、こんなにひどい展開じゃなかったはずなのに。流れは同じでも、性別が変わっただけでこうも違うことが起こるというのか。

 同時に、ここは現実なのだと改めて思い知らされた。


「どうしよう、私、と、とにかく保健の先生を呼んで……」


 とりあえず、今はできることをするしかない。マリアを助けるのが最優先だ。


 ……って思っていたんだけど。


 どうも彼の傷はこちらが想定したよりひどい物ではないのか、むくりとマリアは起き上がると、あっけらかんと笑っていた——それどころか、気付けば二人だけのイチャイチャ空間へと早変わりし、私とレイリー殿下は完全に空気と化した。


 マリア(男)、その発言はもう、完全にヤバいって!!

 しかもオリヴィア様の頬に触れて、血を拭うところとか、これゲームだったら完全にスチル化決定のファン垂涎シーンじゃん!!

 

 てかオリヴィア様可愛すぎ!! 頬を赤らめてマリアを見つめて、対するマリアは、少し微笑みながらもまっすぐにオリヴィア様を見返して……。


「ぶぎゃぁっ」


 あまりの神シーンに遂に私は直視ができなくなり、手で顔を覆いながら奇声を上げてその場に座り込む。


 はい、ごちそうさまです。

 今日の晩御飯はおかず代わりにこのシーンを脳内再生しながらパンを食します。


 しかし、この幸せ空間も、レイリー殿下の一言で終わりを告げる。

 それでも私は、二人が保健室へと去った後もしばらく余韻で立ち上がれなかった。


 が、もう一つあることを思い出す。


 この後保健室では、スチルは出ないけど、次のイベントへと繋がる会話イベントが起こるのだ。


「!?」


 こうしちゃいられない。

 スチルがあろうがなかろうが、私は可能な限り二人の愛が育っていく様子を観察することをこの一年の目標として掲げているわけで、慌てて立ち上がって二人の後を追おうとしたんだけど、そんな私の前にあのお方が立ち塞がる。


「あ」


 ……忘れてた。そういや、この方から逃げてる途中だったってことを。


「きゅ、急用を思い出したので、そこを、どいていただけたら……」


「あはっ、逃がすと思ってるの?」


 とても愉快そうに笑ってそう言うと、レイリー殿下は目が潰れそうなほどのキラキラをまき散らしながら私を部屋の隅に追いやり、逃げられないように手をドンと壁につく。


 まさかの壁ドンだ!


 いやしかし、この状況に私はまったくもって萌えられない。だって怖いから。

 腹黒が笑って壁ドンとか、二次元以外でやられたら恐怖が半端ない。


 明らかに怯えまくる私を大層物珍しそうに見下ろされ、顔を背けようとしたけど、王子様はそれを許してくれなかった。


 ぐいっと私の顎をもって無理やり自分の方へ向かせ、そのまま近付き、耳元で囁く。


「まずはこの部屋を一緒に片付けよう。話はその後に、ね」


 その瞬間、私は悟った。

 この腹黒から逃げるなんて、到底無理だったんだと。

 

 私は泣きそうな顔で頷くことしかできなかった。


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