困惑を隠せないオリヴィアの後悔①
本日は新しい役員の子達との初顔合わせ。
ラインハルトから順に、現メンバーの自己紹介が終わると、次は新しい子たちの番だ。
「一年のレティシア・フォルダンですわ。この度は生徒会に選んでいただいてとても光栄に思っております。至らないところがあるかもしれませんが、ご指導のほど、よろしくお願いいたします」
月光を編み込んだようなさらりとした銀の髪を後ろに流し、理知的な光を宿した新緑の瞳を持つ私の最愛の妹のレティシアは、耳に心地よい透き通った声で挨拶をする。
ラインハルトも、ここが公の場だと認識している為か、あからさまに彼女への好意を駄々洩れさせることはなかった。
その後も新メンバーの挨拶は続いていく。
「わ、私は一年のピクシー・デイジドルです! このような素晴らしい方々と一緒に働けることを、緊張していますが光栄に思っています!」
「……同じく、一年のミラ・リズールです。生徒会に選ばれてかなり驚いていますが、色々頑張りたいと思います」
そして最後を務めるのは。
「一年のマリア・フレイムです。知らずに失礼なことをしてしまうかもしれませんが、その時は厳しく指導していただければ嬉しいです! 勿論、生徒会に選ばれたからにはしっかりその役目を果たすので、よろしくお願いします」
そして彼はぺこりと頭を下げた後、皆に視線を向け、最後に私に目線を送ると、あきらかに私に向かって笑いかけた。
あの勧誘の日以降、マリアは私を見つけると嬉しそうに名前を呼びながら駆け寄ってくるようになった。
廊下の先に私の姿を見つければ、隣に彼の友人がいるのにも構わずまるで小走りのようなスピードの早歩きで、
「フォルダン様こんにちは!」
と、ニコニコと挨拶をしにやってくる。
食堂で会えば、
「ご迷惑でなければ、一緒に食べてもいいですか?」
と、声をかけ輪の中に違和感なく入り、私の友人たちともあっという間に仲良くなってしまう。
教室から何気に外を見た時に、外を歩いているマリアを見つけると、彼はすぐにこちらに気付いて、
「フォルダン様ぁーっ!!」
と名前を大声で叫びながら、手をぶんぶんと大きく振る。
さすがに無下にすることはできないし、一応当たり障りない会話をしているけど、その様子を見た他の生徒達からはマリアが私に懐いているのがバレバレで、最近友人たちからは、
「忠犬ね」
「懐かれてるわね」
「あなたに会えて嬉しいって、すごい勢いで振っている尻尾が見えるわ」
「可愛い後輩兼新しい婚約者候補ができて良かったじゃない」
「身分の差なんて愛の力で乗り越えられるわ」
「応援してるわ!」
と、ニヤニヤした顔でからかわれる始末。
その度に私は違うって否定しているのに、みんなちっとも信じてくれない。
マリアだって自分は偉大な先輩として勝手に慕ってるだけです! と宣言しているにも関わらずだ。
マリアがにこにこでこちらにやってくる姿は確かに可愛いし、クロに会いに行った時にそこにいるマリアと一緒の空間で会話をするのも楽しいし、慕われているのは嫌ではない。
だけどまっすぐに私を見つめる彼の瞳を見ていると、なぜだかむず痒くて、そして無性に恥ずかしくなる時がある。
というわけで、今日も今日とて嬉しそうな顔をしているマリアと目が合って、思わず色んな感情に飲み込まれて顔が崩れそうになりながらも、気合で耐え、表面上は冷静さを装い、挨拶の後続けてラインハルトの口から語られるこれから一年間の大まかな生徒会としての仕事内容に耳を傾ける。
こっちでの生徒会は私が日本にいた時と同じようなものだ。
メンバーはそれぞれ役を割り当てられ、今年で言うとラインハルトが会長で私が副会長、ダリアンは風紀、レイリーは会計といった具合で、一年生はそれぞれの補佐につく形だ。
一年間の生徒会の仕事のうち特に大きな行事は、全校生徒参加のガーデンパーティー、希望者を募って行われる闘技場での模擬戦と、社交界デビューで失敗しないように、練習を兼ねて学園の広間で行われるプレ舞踏会の三つだ。
他にも外部の人間を招く音楽鑑賞会や、様々な分野の講師を呼ぶ講演会、入学式や卒業式の準備に、クラブ活動の取りまとめ役などがある。
今回で言うと、まず初めに取り組まなければならない仕事は、一年生に私達が通常行っている業務内容の説明だ。
「ではこのような人員の割り振りで行こう」
誰が誰の補佐に着くかをラインハルトが発表し、私の下に就くことになったのは、マリアだった。
ゲームだと一番好感度が高い人と組むことになり、該当者がいなければランダムで選ばれることになるんだけど……。
「私はレティシアと組ませてもらう」
「僕はあのミラって子がいいかなー」
「俺はピクシー・デイジドルと組ませてくれ! 最近一緒に筋トレをする仲間でな」
一年生を除いたメンバーでの話し合いの中、まさかの全員がそう主張してきた。
ゲーム通りではないけど既に色々違っているし、マリアとの接触は少ない方がいいので、私もそれを了承し、結果私がマリアを補佐にすることになった。
その時三人とも私の友人と同じようにニマニマしていたから、絶対に誤解してると思う。
でも誤解であろうとなかろうと、ラインハルトにもマリアを直接見張れって言われてたし、そうなるとは思っていたけど。
「よろしくお願いします、オリヴィア様」
改めて挨拶をしてきたマリアに初めて名前で呼ばれ、なんとも言えない気持ちになる。
ちなみに名前呼びになったのは、生徒会にフォルダン家の人間が二人いるからだ。家名で呼ぶとどっちか分からないので、メンバーには名前で呼ぶようにと伝えてあったのだ。
しかし同じように王子も二人いてそっちもずっと名前呼びだったので、こうなったら親睦を深めるという意味も込めて、生徒会のメンバーは下の名前で呼び合うことになった。
「ねぇオリヴィア、僕今からミラと先生の所に行ってくるから、悪いんだけど会計関係の書類も出しててくれないかな」
「いいですよ」
レイリー以外にも頼まれていたので彼の言葉を了承し、
「とりあえず、行きましょうか」
いつまでも生徒会室の真ん中に突っ立ってても仕方がない。
私はマリアを伴って、まずは生徒会室の奥にある扉の前に彼を連れていくことにした。




