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冷淡な『氷姫』と呼ばれた悪役令嬢の姉は、一家断罪の未来を回避すべく奮闘する  作者: 春樹凜
《イベント0 断罪の未来を変えるための奮闘》
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悪役令嬢の姉(?)に転生したオリヴィアの受難

 

 私に大きな異変が起きたのは、忘れもしない、まだ八歳になったばかりの時だった。

 

 天使も卒倒するほどの愛くるしい笑顔を浮かべてこちらへ駆け寄ってくる妹を頬を緩ませ見守っていると、急に天使の顔がぐにゃりと歪み、凄まじい頭痛と眩暈に襲われ手倒れ、そのまま三日三晩寝込んだらしい。

 

 そして意識を取り戻した時、私は既に以前の私ではなくなっていたのだ。

 

 今の私は、このキルギルド国で宰相職を務める父親と、数多の貴族にも見初められた美貌の母親を持つ、フォルダン公爵家の長女・オリヴィア。

 

 けれど私には前世があり、とある事故に遭って天に召された後この世界に転生してしまったらしい。 そしてその過去の記憶から、ここが死ぬ直前にコンプリートした乙女ゲームの世界だということに気が付いた。

 

 件のそのゲームは、子爵家に引き取られた元庶民のヒロインが多くの貴族が通う学園で出会った男性たちと、育ちや身分差の障害を乗り越えハッピーエンドを目指すものだった。

 

 そこに公爵家の令嬢のレティシアという人物が登場するのだが、ヒロインが第一王子ラインハルトを選択すると、二人の仲を邪魔する障害、もとい悪役令嬢として登場するのだ。

 

 ラインハルトの婚約者だったレティシアだが、性格は極悪で陰湿、気に入らない令嬢をいじめるのは日常茶飯事。

 何が残念かって、彼女、王妃になるための教育どころかあらゆる勉強をさぼりまくっていたせいで、かなりのお馬鹿だった。

 それでも彼女が婚約者として君臨できたのは、政治的な何かとかゲームの仕様だろう。

 

 ともかく、そんなレティシアを当然のごとく疎んでいたラインハルトは、お約束なことにヒロインに惹かれ、密かに恋心を抱く。

 王子の心を知ったレティシアは当然邪魔をして、遂には暗殺者に命を狙わせる。

 が、計画は失敗し、しかもその情報をどこかから聞きつけたのか、ヒロインを守る為にその場に駆け付けたラインハルトに、暗殺者たちは怪我を負わせてしまう。

 それをきっかけにこれまで行ってきた悪事が明るみになった結果、特に王子に剣を向けたことが問題となって王家への反逆罪が適用され、レティシアは婚約者の座を下ろされ、代わりにヒロインが王子の隣に収まる。

 

 で、極悪非道な令嬢のレッテルを貼られてレティシアは処刑。

 そして生家である公爵家もまた、責任を取る形で彼女と同様悲惨な最期を遂げるのである。

 

 そんな悪役令嬢──レティシア・フォルダン──もとい私の妹のことだ。

 

 国の名前も家名も世界観も同じ。

 おまけにレティシアはつい先日、彼女の二つ年上の第一王子ラインハルトの婚約者に決まったばかりだ。

 他にもヒロインの相手役となる騎士団長の息子や第二王子、留学生として将来学園に編入してくる隣国の王子の名前まで一致している。

 そう、認めるしかないのだ。ここはあのゲームの世界だと。

 

 つまり、このままいけば私を含めて家族は皆死ぬ。

 

 もしもヒロインがラインハルトを選択しなければレティシアも悪役令嬢にはならないはずだが、それだけ性悪なら、いつ向こうに離縁されて私たち家族も巻き添え食らうか分かったもんじゃない。

 せっかく与えられたこの人生、あっさり死ぬのはごめんだ。

 

 ならやるべきことは決まっている。

 レティシアが歪み切った悪役令嬢にならないよう、まっとうに育てることだ。

 

 それから私は頑張った。

 

 まず、レティシアがあれだけ性悪で頭の足りない子になってしまったのは、激務の父が母に教育を丸投げし、その母が可愛い盛りの妹をでろでろに甘やかしたことが大きかったので、飴だけを与え続けようとする母に対して行動を起こす。

 八歳の娘に正座させられ、娘の教育方針がいかに間違ってるかをこんこんと説教される大人、という図柄は端から見たらシュールだろうが、私の言ってることは至極まっとうなものであり、彼女も認めざるを得なかった。

 

 母を陥落させた後は、嵐を起こす張本人になりうるレティシアの矯正である。

 改めて妹を観察すると、顔は可愛いが、とにかく顔だけは可愛いし、数年先にはそこに母の美貌も加わってとんでもなくハイスペックになると予想できるが、今はちょっとだけお馬鹿だ。

 性格こそまだねじ曲がっていないけど、このままでは無事に生き延びても、王妃としては少し足りないと婚約破棄される可能性も否定できない。


 だからこそ、私は妹には厳しく接し、けれど時には飴を与え、根気よく接し続けたし、王妃教育のあまりの厳しさに泣きながら屋敷に帰ってきた時は優しく受け止めた。


 そんな日々を繰り返していくうちに、気付けば彼女は愛らしさはそのままに、ゲームとはまるで違った素晴らしい淑女へと変身を遂げた。

 その為か、婚約者のラインハルトは、彼女を嫌うどころか大切に扱い大いに愛情を注いでくれた。

 第三者の目から見たらむしろ行き過ぎだと思うが、まあいい。


 一方で、私は将来公爵家を継ぐ立場だったので、跡取りとしてふさわしくあろうと努力を重ねた。まして私の妹は将来の王妃なのだから、足を引っ張るわけにはいかないという気持ちと 未来への不安からか、常に気が張っていたように思う。

 

 だけどそれが原因なのだろうか。私には未だに婚約者がいなかった。


 ……いや、本当はいたのだ。


 けれど、一人目はソファで浮気相手と睦み合うところを目撃して破談になった。


 彼曰く、私には可愛げがなかったらしい。


 確かに私の見た目は、可愛いとか愛らしいとかとは程遠いものだ。

 冷酷宰相と噂される父に似て、黙っていると感情が読めず冷淡に見えると、元婚約者に言われていた。

 私自身、感情を表に出すのが苦手だったのも理由かもしれない。


 彼はいつも私とレティシアを比較してきた。

 レティシアと私は似たような髪色と瞳を持っているのに、与える印象が全然違う、彼女を見習うべきだと。


 私とレティシアは違う。

 それなのに、私には公爵家の跡取り以外の価値はないとばかりに好き勝手に私をなじり、けれどそんな言葉に屈したくなかった私は毅然と彼と対峙し、それがまた可愛くないと反論され、彼はいつしか私のことを、『氷姫』と呼んでくるようになった。

 氷のように冷たく、人間味がないと言いたかったらしい。


 そして、浮気現場に遭遇した私に開口一番、君の氷の視線にやられて心が氷漬けになりそうだったから他の女性に走ったんだと、さも自分の行動が正しいと言わんばかりに責められた。


 勿論そんな理論は通じず、すぐに婚約破棄されたのだが、その後に決まった二人目の婚約者も似たような感じだった。


 それどころかその男は、嫌がるレティシアに無理やり手を出そうとしてして、レティシアの助けを呼ぶ声で彼の行動に気付き、すぐに彼との婚約は破談になった。


 当然どちらもあちらの有責での破談だったのだが、流石に二人も続くと私自身に瑕疵があるのではと囁かれた。

 

 けれど、あれ以上私はどうすればよかったのか。

 私だっていっぱいいっぱいだったのだ。

 それでも会いたいと言われれば忙しい中でも時間を作り、欲しいものがあればプレゼントだって送って、なのに私が会いたいと言っても無理だと突っぱねられ、誕生日には私の好みなんて無視した贈り物が家に届くだけ。


 冷たそうに見えると言われたから、鏡の前で笑顔の練習をしたり、けれどその笑顔を見せたら、怖いからやめろと一蹴されたりもした。


 一人目の時はあまりにもショックだったけど、二人目の時は諦めの気持ちと、そして妹に手を出したことへの怒りの方が強かった。


 だから私は自分の婚約者のことは一度諦め、ヒロインの件に集中することにした。

 そしてそれが解決してから婚約者については考えようと。

 両親はとんでもない人間を選んでしまったと自分達を責めていて、無理に三人目を探すことはしないので、私の心の準備ができたら教えてほしい、と言ってもらえていたから。

 

 そして私はヒロインとなる人物が本当に存在するのか、その動向を探ることにした。

 するとゲームと同じく、ピンク髪の子どもが孤児院にいること、そして学園に入学する一年前に、マリアと呼ばれるその子供が、件の子爵家に引き取られたということが分かった。

 

 ちなみにヒロイン名は変更可能だったが、デフォルト名はまさしく『マリア』である。

 彼女が存在していたこと自体は喜ばしくはないが、最善の手は尽くした。

 今のラインハルトなら、マリアが何か仕掛けてきたとしても他の女性に目移りしないと信じたい。そしてレティシアが悪役を演じることも。

 勿論油断は禁物だけど。

 

 こうして一抹の不安を抱えながらも、舞台はマリアが入学してくる時間軸に突入することとなる。


 ただ、一つだけ気になることがあった。

 そのほとんどがゲームと同じ設定であるのに、唯一違う点。

 



 それは、悪役令嬢レティシアにいたのは姉ではなく────兄だったはずだ。



 

 公爵家の次期当主であった男の名前はオリヴァー。

 が、うちには兄はいないし、将来この家を継ぐのは長子であるこの私、オリヴィア。

 

 彼はゲームではモブキャラで、ラインハルトルートでのみ、名前とその姿が少しだけ出てくるだけの人物だった。

 

 ────────。

 

 大丈夫。

 たかだかモブキャラの性別が変わっているなんて、きっと些細なことだ。そう、自分に言い聞かせ納得させた。


 けれど、既にこの世界に……というよりもヒロインに不具合を起こしていたなんて、この時の私は思いもしなかった。


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