突然現れた男。
虫の羽音さえ聞こえるほどの、のどかな場所に俺と母さんは二人で住んでいる。
少し離れた場所にある海の音が時々ザバーーンと聞こえるほど、のどかだ。
俺の家は、いわゆるポツンと一軒家。
だだっ広い草原の中にポツンと立っている。
ここは、母さんのお父さん。
俺からしたら、じいちゃんに当たる人が残した土地だ。
こんな広大な土地を残したって事は、資産家なのかと母さんに聞いた事がある。
じいちゃんは、いたって平凡な人だったと教えてくれた。
資産家でもなく、普通の会社員で。趣味で、農業をしていたらしい。
郊外であっても、これだけの土地を買って家を建てたじいちゃんは凄い人だ。
本当に、静だ。
「雨が強くなってきたら、うるさいだろうね」
「確かに、怪しい天気だね」
「だから、早めに雨戸閉めてね。凛太郎」
「わかった」
雨、風が強くなる前に、雨戸を閉めないとうるさくて眠れないのだ。
静だからこそ、自然の音のうるささを感じる。
だけど、それが嫌じゃないのが不思議だ。
雨の音も、風の音も、ダイレクトに感じられるこの場所が好きだ。
そんなのどかな日々は、次の日終わりを告げるなんて夢にも思っていなかった。
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ピンポーン
じいちゃんの遺産のお陰で、俺も母さんも毎日家にいる。
ポツンと一軒家に訪れる来客は、80キロ離れた先に住む自治会長か郵便局の山川さんか荷物の配達員さんぐらいしか来ない。
水道やガスの検診票は、ポストに入っているが会った事はない。
今日は、荷物が届く予定はないから郵便局の山川さんだ。
「はい」
ドアを開けるといかにもって人が立っている。
強面の男は、ポケットを漁る。
ヤバイ!俺、殺されるのか?
体を強ばらせて、目を細める。
「私、鯖山不動産の五井と言います」
「何のようですか?」
「実は、お宅の横の土地を……」
「売りませんから!」
お断りして閉めようと思ったのに、五井は足を出して閉められなくする。
「明日から、家を建てる工事を始めるので、そのご挨拶に来たんです」
「売ってないのに、家を建てるってどういう事ですか?犯罪ですよ」
「犯罪ねーー」
「凛太郎、どうしたの?」
「母さん、この人が隣の土地を売ってないのに家を建てるとか言い出すんだよ」
「どういう事ですか?」
五井は、母さんを見るとニタニタと気色悪い笑みを浮かべる。
「倉田武彦さん、ご存知ですよね?」




