俺詐欺 番外編ワンスの枕おまけSS 【千ルドで買ったもの】
X(Twitter)からの転載です(2022年12月30日ポスト分)
番外編 ワンスの枕 4話おまけSS
4話↓
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「で、これが枕カバーか」
「はい! これ、とっても希少な枕カバーなんですよ」
「……お、おう」
「キショーシュの皮で出来てるんです!」
どうみてもただの綿素材の枕カバーだが、ドヤ顔で説明してくる彼女が割とツボだったため、少し掘り下げたくなる意地悪ワンス。
「希少種? 何の動物?」
「? キショーシュです」
「なるほど」
キショーシュという動物の皮だと思っている様子に、さすがに笑いそうになるが、ここも堪える。
「俺、知らないから教えて欲しいんだけど、キショーシュってどんな動物?」
フォーリアは感激で震えた。『知らない』と言っているワンスを初めて見たし、教えて欲しいなんて言われたのも初めて。初めて尽くしの快挙に大興奮!
「は、はい! キショーシュっていうのは、」
「うん」
そこまで言ってハッと気付く。フォーリアもキショーシュのことは何一つ知らなかったのだ。当たり前だ、そんな生物はいない。
でも、フォーリアは知らないとは言えなかった。言いたくなかった。ワンスに教えてみたい、その欲が彼女を知ったかぶりにさせてしまう。
「キショーシュは、その、……鳥みたいな?」
「なるほど」
彼女の思惑が透けて見えるワンス。もちろん、吹き出しそうになるが、ここもどうにか堪える。彼女の目がスイスイと泳いでいるところを見るに、希少種に関する質問をこれ以上投げたなら、彼女の頭が爆発してしまうだろうと、名残惜しいがここで打ち切る。
「で、これいくらだったんだ?」
贈り物の値段を明け透けに聞くワンスに、「枕と合わせて千ルドでした」と素直に答えるフォーリア。
「……千ルド?」
今度は笑えなかった。むしろ心配になった。
「はい。枕カバーだけで二千ルドのところを、千ルドで買えたんです~」
「待て待て。そもそも、枕はいくらで買ったんだ?」
「えっと、初めに四千ルドで買って」
「四千」
「三千ルド返して貰いました~。なので千ルドです」
「なるほど?」
「ふふっ、とっても頑張りました!」
ワンスは『まじでやべぇな』と思いつつ、どうするべきか迷った。ここはやはり、ちゃんと教えておくべきだろう。教え込まなければ、彼女はまた同じ事を繰り返す。
今回、枕カバーを二千ルドで買わずに済んだことだって『サインをするな。するときは俺を呼べ』と毎日毎日教え込んできたのが功を奏したわけだし、今回は千ルドというワンス的端金だったから良かったものの、そのうちワンディング家の資産を食い潰す可能性だってある。伝説的カモの実力、侮るなかれ。
「あのさ、フォーリア」
「はい?」
「枕のことなんだけど」
「はい!」
褒めてもらえると思っているのだろう。エメラルドグリーンの瞳がキラッキラのキラーだった。キラーされた。
「あー……よく三千ルドも取り返せたな。すげぇじゃん」
「~~っ! はい!」
ワンス・ワンディング、元詐欺師。彼女の笑顔、千ルドでお買い上げ。
四六時中、キラーされてる主人公