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長編小説のSS雑多置き場  作者: 糸のいと
■名もなき画家のオールオーバー
10/11

名も画家 58話おまけSS【ヴィントの空き瓶】

若干ですが、61話のネタバレを含みます。

読んでない方は注意!


58話↓

https://ncode.syosetu.com/n4481iv/58



「絶対バレた」


 自室に戻って扉に鍵をかけ、ヴィントはずるずると床に座り込んだ。


 カノラで埋め尽くされたスケッチブック。誤魔化しきれなかった赤い顔。これは確実に、好きバレしてしまったと思われる。まじでやばいやつだ。


「さっさと燃やしておけばよかった……俺のバカ」


 今でこそ彼女への気持ちは上手く隠して昇華しているが、あれらは初めての恋に浮かれまくって描いてしまった恥辱の産物。


 絵には興味のない子だから、スケッチブックを見ることなんてないと思って油断していた。カノラへの恋心と同じように、スケッチブックを捨てようにもどうしても捨てられなかったのだ。だって、好きだから。


 はーあ、と深いため息をついて絵の具だらけの白衣を脱ぐ。どうにか落ち着きたくて、テーブルの上に置かれた水を飲もうとした。瓶の縁に唇をつける寸前、先ほどの出来事が思い出される。キスをしたのだ。


「……はじめてした」


 そりゃあヴィントだって男だ。事故とはいえ好きな子とキスできちゃったのだから、心が舞い上がって全身の体温も急上昇。心臓がばくばくして死ぬかと思った。


 こうして部屋で一人になってみても、思わず顔を覆ってしまうくらい恥ずかしい。頬がゆるむ。

 だが、カノラからしたらどうだろうか。こんな絵の具だらけの男と、はじめてのキスをしてしまったなんて。


「……最悪だ」


 熱は急激に引いていく。その寒さで瓶を持つ手が震えた。がくがく。

 この世で一番美しいものを、その美しさのままにしておきたかったのに……なんて激烈に重いことを考えてしまう。


 震える手でどうにか水を飲み、ふーっと一息つく。固い瓶の縁に唇をつけてみると、ひんやりとして心地良い。でも、固い。


 この世に生まれたことを呪っちゃっているヴィントは、天使であるカノラに恋をしちゃった関係上、他の誰かを身代わりにして発散するわけでもなく、どうしようもない劣情を抱えて今日も元気に十代男子をやっている。

 キスというのは、とても気持ちが良いものだと友人Dが語っていたはずだ。


 カノラの唇には触れたけれど、非常に短い時間だった。その柔らかさはしっかり覚えているけれども、とっても短い時間だった。とにかく短かった。短すぎる夢だ。


「……キスって言えるのか?」


 ともすると、あれはギリギリセーフなのではないか。彼女のファーストキスは、まだ守られているような気がしてくる。


 ヴィントはもう一度水を飲んでみた。やはり固い。

 水を飲むときに瓶の縁と唇が触れたからといって、『空き瓶とキスしちゃった!』とはならないだろう。空き瓶からしたら超メモリアルだろうけど。


「よし、俺は空き瓶だ」


 先ほどの事故チューは彼女の中でノーカンになっていることを願って、眠れぬ夜を跨いだ。


 



本編が重め展開なので、SSで息継ぎしたかった

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