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長編小説のSS雑多置き場  作者: 糸のいと
■潜入騎士の『愛してる』には裏がある
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潜入騎士 55話おまけSS【国一番の釣り師クロル】

55話↓

https://ncode.syosetu.com/n3358ii/55/


 潜入作戦で配役を決めようと相談中。相談が激化する中で、クロルはバタリとテーブルに突っ伏した。


「疲れた……。配役、全然決まんねぇじゃん」

「ふぅ、困ったな。俺としてはクロルに金髪美女役をやってもらい笑い者にしたかったのだが」

「ばかデュール。よく見ろ、金髪美女役は黒く塗りつぶしてあるだろが。あと、美しくて笑えないと思う」

「しばくぞ美形男」


 そこでむくれたトリズが、クロルとデュールをなじる。


「あ~、早く帰りたいよ~。僕が三人いれば丸く収まるのに~!」

「トリズが三人もいたら死人が出るな」

「みんな、こだわりすぎじゃない? 仕事の選り好みは良くないよ!」

「さすがベテラン……ド正論ぶちかますじゃん。なぁ、一旦休憩しよーぜ。俺、王城に行って、室長後任の件を保留にしておいてもらうように打診してくるわ」


 宝物管理室の文官役を作るために、調整が必要なのだ。


「理由はテキトーに濁しておいてね~」

「当然」

「あと、ソワールちゃんも連れてってね~」

「当然……じゃねぇよ。なんで?」

「デュールは煙草吸いに行くでしょ? 僕は珈琲飲みたいから食堂行ってくるし、誰も面会室にいなくなるから。四の五の言わずに連れて行って~」


 本当はカドラン伯爵からの指示があったからだが、そこは濁すトリズ。


「ったく、わかったよ。ほら、レヴェイユいくぞ。ブロンはどうする?」

「デュールと煙草吸ってくるー」

「そう……お前、煙草も吸うのか……」


 金髪美人のレイの姿が懐かしい。



 こうして、クロルとレヴェイユは二人で王城に向かった。

 とは言え、王城は騎士団本部の隣。しかも行き来がしやすいように、騎士団の中に渡り廊下があったりする。


「クロルは王城にお友達が多いの?」

「友達っていうか、仕事上の知り合いだな。捕縛したときの手続きとか、潜入してた騎士本人がやらなきゃいけないことがあるから」

「へ~、そうなのね。私のときも?」

「まあ、色々とな」


 そんな雑談をしながら歩いていると、前から王城文官が歩いてくる。クロルがそちらに視線を向けるとそれは知り合いの文官だった。


「おぉ、クロル・ロージュ氏ではないか! お疲れさま」

「よお、お疲れ。騎士団に用事?」

「そう。この前の残務処理でね」

「そうだったな。色々と動いてくれて助かった」


 彼は裁判室の担当文官だった。レヴェイユの司法取引をゴリゴリに進めてくれたのが彼だ。


「こちらにも利益があることだから。そうだ! 例の件、わかってるよな?」

「へ? あ! あー……覚えてる覚えてる。落ち着いたらな」

「クロル・ロージュ氏? 君、さては忘れていただろう? あの日、朝イチで突然話がしたいと僕のことを捕まえて、資料を見せろだとか言っていたのは誰だったかな。おかげで余計な仕事が増えて、残業になったんだが?」


 クロルは内心で焦る。この文官くんは、司法取引の張本人がいることに気付いてない様子。というか、レヴェイユが騎士服を着ているせいか、ただの騎士だと思っているのかも。どうかよく見てくれ、手枷を付けた女だぞ。


「あー、わかった。とりあえず、急いでるからまた今度な」


 適当に話を切り上げて王城に足を進めると、王城文官くんが「セッティングよろしくな」と軽い声で告げる。


「条件は、美人でスタイルが良くて何でも言うこと聞いてくれる子。お前のお下がりでもいいから上手く引っ掛けてくれよ、ははは! アデュー!」


 クズ文官くんは去っていった。ひゅーっと風が吹いた。


「ねぇ、クロル? 王城に行かないの?」

「あ、行きます(敬語)」


 スタスタと歩く。今日は風が強いな。木々がぐわんぐわん揺れている。


「……一応、言っておく。別に、そういうのじゃないから」

「え、なぁに?」

「今回は仕方なく、そういう約束をしただけだから。プライベートではそういうのないから」

「?」

「分からなかったならいい。何でもない」

「う、うん」


 ひゅーー。風が少し弱まってきたようだ。


「……男の人って、美人でスタイルが良くて何でも言うこと聞いてくれる子がいいのかな?」


 びゅーー。急に風が強くなったな。飛ばされそうだ。早めに王城に入ろう。


「人それぞれじゃん?」

「クロルはどうなの?」

「俺はプライベートでは一切そういうことないから」


 そりゃ、好きな子が恥じらいながら何でも言うこと聞いてくれて好き勝手させてくれるのが一番だろ。言わずに飲み込んだ。


「でも、黒髪とか美人とか、やっぱり大事よね……」

「は? なにそれ」

「ううん、ナンデモナイ。ねぇ、今の話って、あの文官さんに女の人を紹介するってこと?」


 ぶおーー! うわぁ、強風だ! 飛ばされるぞ、しがみつけ!


「……まあ、その可能性もなくはない」

「へ~、素敵ね!」

「は?」

「クロルは恋のキューピッドなのね」


 恋のキューピッド。まさかそんな可愛らしい話に変換されるとは。だって、これは司法取引の件をゴリゴリ推し進めてもらう代わりに、クロルが酒場でテキトーに女の子をひっかけて上手いこと言いくるめて、あのクズ文官くんにキャッチ&リリースするという話だ。国一番の釣り師・クロル。


「キューピッド。そうだな、うん、そうかも」

「クロルって優しいね、ふふ。上手くいったら教えてね~」

「ははは」


 無風だ。平和だった。




 


実際に一本釣りしてるところを、たまたまレヴェイユに目撃されてしまって……みたいなSSを書きたくてたまらない。

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