↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/7

N.怨嗟の円環

 無い筈の右腕が、焼けるように痛む。


指を曲げようとした。だが、曲げられる指はもうない。


(そうだ。関節を断たれ、宙を舞ったんだ。)


瞼を開ける。視線の先は、白い天井だった。


意識がはっきりしてくると、血と消毒液が混ざった臭いが、鼻孔を刺した。


「ノービリス様……!お気づきになりましたか!」


ドルミーレだった。


目の縁が赤く腫れている。泣き腫らした跡だ。


「水を...」


掠れた声に、彼女は慌てて杯を口元へ運んだ。


水は喉を通り、熱をわずかに奪っていった。


「私は、どれだけ眠っていた?」


「半日と、少しでございます。医術師の方が縫合を終えられて、まだ間もない頃合いで」


半日。ならば、城の外では既に話が独り歩きしている。


起き上がろうとして、左肘をついた。


瞬間、断端から痛みが駆け上がり、視界が白く弾けた。


「つっ……」


「お動きにならないでください!血が、滲んでしまいます!」


本来なら、シーツを押さえているはずの、右手の位置に腕がない。


あるのは、何重にも巻かれた包帯の感覚と、捩じきられるような不快感。


切られた腕の指が、まだ剣の柄を握っている。


「ウルティムスは」


「ご遺体は、地下へ運ばれました。頸部を断たれ、背中にも弾の痕がございます」


「そうか」


言うべき言葉が、どこにも見当たらなかった。


仲間を殺した。正しいことをしたのかどうかも、今は分からない。


「銃は、お前が撃ったのか」


ドルミーレは杯を持つ手を止めた。


「はい。振りかぶられた剣が、私の首へ落ちてくるのが見えて。考えるより先に、指が動いてしまいました」


「それで良い」


「良い、なんて。騎士様を撃ったんです。私は召使いです。そんな資格は...」


「資格が人を殺すのではない。剣も銃も、同じだ。お前は生きるために撃った。私は、止めるために斬った」


(それだけの話で済むのか?いや、済む訳がないだろう...。)


子供を殺し、女を殺し、そして仲間を殺した。床に接吻する番は、幸運にも回ってきてはいない。


ただ、それは罰のようにも思えた。


「他に、誰が知っている」


「王の間に入ったのは、私だけでございます。シンドロイゼが扉の前まで来たとき、隙間から漏れた血の臭いに気づきました。私は、王様が急に吐血なされた、疫の恐れがあるので入らないで、と申し上げました。中はまだ誰にも見せておりません」


「よく咄嗟に嘘をつけたな」


「ノービリス様が、まだ息をしておられたので。」


彼女の声は震えていた。だが、目は逸らさない。


「イニティウムは。なぜ、あの場に来なかった」


ドルミーレの顔から、血の気が引いた。


「……裝備室で、見つかりました。喉を掻き切られて。アルドル様と同じ殺し方です」


相棒を先に殺してから、王の間へ向かったのか。


来る筈の人間が来ないのは、怠慢などではない。あの時には既に肉片になっていたからだ。


「新聞には、クィーンクェが四人死んだと書くぞ。アルドル、アリクアンド、イニティウム、そしてウルティムス。殺した者も、殺された者も、同じ行に並べる。」


「それは、悪いことでございますか」


「悪いとも良いとも、言えん。ただ、奴らの十八番は脚色だ。脚色だけで飯を食ってる連中だからな。」


窓の外で、遠い雄叫びがした。


言葉までは届かない。届かなくても、内容には想像がつく。


王と騎士が死に、勇者一行の1人は右腕を失って気絶している。


「やつらが飛びつかないはずはない」


そう言って不敵な笑みを浮かべた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。