始まりと終わり
―――美希vision―――
先輩、待ってるかなぁ。
もう夏休みになって10日が過ぎてた。私はまだ先輩に連絡出来てない。花火大会まで2週間ちょっとしかないのに、いい加減返事しないとせっかく誘ってくれた先輩に悪い気がする。
「美希〜、電話よぉ!」
「はぁーい!」
誰からだろう。
「もしもし?」
「あー、美希、俺、悠真だけどさぁ。」
悠真くんか。明後日の明日香の応援のことかなぁ。
「いきなり電話してごめんな。」
「ううん全然大丈夫。どうしたの?」
そういえば悠真くんから電話来たの初めてかも。そう思ったらちょっと緊張する。
「あのさ、花火大会なんだけど、どうするのかなぁって。」
悠真くん、私が人混み苦手って言って気にしてくれたのかな?あっ、永瀬先輩に誘われてるの聞いたのかな?
「あー、うん、まだどうするか決めてないの。」
「そっかー。あのさ。」
「どうしたの?」
しばらく無言になっちゃった。悠真くんどうしちゃったんだろ。
「あのさ、あー明日香でも誘おうかなぁって思って。」
「うん。」
ほんとにどうしちゃったんだろう。悠真くんが何を言いたいのが全然分からない。
「美希もそのさ、1回くらい行ってみろよな。」
やっぱり永瀬先輩とのこと聞いてたんだ。返事してないから心配してくれてたんだ。
「うん、ありがとう。ちょっと勇気出たかも。」
悠真くんはいつでも優しい。
「じゃあ、明日香の応援の時にまた。あー、この電話は秘密な!」
恥ずかしいのかな?
「うん、じゃあまたね。」
悠真くんの電話でちょっと勇気が出た。電話を切ってすぐにすぐに部屋に戻り、紙切れを持ってまた電話の前に戻ってきた。
よし、ちゃんと返事しよう。そう思って私はダイヤルを回した。
―――悠真vision―――
先輩を怒らせた。いつもはなんだかんだで許してくれてるけどあんなこと言ってしまったらもう許されないかもしれない。
美希はもう先輩に返事したのかな。ネガティブな感情ばっかりが頭の中をグルグルする。
(あー、くそっ。あの時誘っとけば。)
後悔してももう遅い。
『くそ雑魚だなお前。』
分かってる。情けないのも雑魚なのも全部分かってる。分かってるのに。
しばらく悩んだあと、俺は意を決して美希に電話することにした。もう遅いかもしれないけど、やってみよう。
「もしもし?」
美希の声を聞いてまた怖くなった。
「あー、美希、俺、悠真だけどさぁ。」
声を出せ。やってみるって決めたばかりじゃないか。
「いきなり電話してごめんな。」
違う。そうじゃない。
「ううん全然大丈夫。どうしたの?」
そういえば美希に電話したの初めてかも。やっぱり緊張する。
「あのさ、花火大会なんだけど、どうするのかなぁって。」
終業式の日のことが頭にうかぶ。あの日はここまでは言えたのにこの先が言えなかった。
「あー、うん、まだどうするか決めてないの。」
「そっかー。あのさ。」
決めていないのならまだチャンスはある。今しかない、言えよ、思ってること言ってしまえよ。
「あのさ、あー明日香でも誘おうかなぁって思って。」
違う違う違う違う違う違う違う違う。
そうじゃない。明日香は関係ない。俺は美希と。
「美希もそのさ、1回くらい行ってみろよな。」
俺と行って欲しい。でもまた心にも無いことが口から出てくる。こんなんじゃダメなのに。
「うん、ありがとう。ちょっと勇気出たかも。」
その言葉を聞いて俺の気持ちは折れてしまった。
「じゃあ、明日香の応援の時にまた。あー、この電話は秘密な!」
ほんとに俺は『くそ雑魚』だ。
力なく俺は受話器を置いた。