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両想い、始めませんか?  作者: ペンギン
2/7

交差

終業式が終わった。季節としての夏の到来から遅れること1ヶ月。学生たちの夏はここから始まる。





放課後、2年D組の教室で美希はクラスメイトと仲良く談笑していた。柔らかい雰囲気が好まれるからか自然と友だちも多い。


「ねぇねぇみんな夏休みどうする?暇だったらさ旅行でも行かない?」


佳奈が美希を含めた仲良し達に旅行の提案をした。いつもこのメンバーで何かをする時はだいたい佳奈が発信源である。


「旅行!?行く行く!」


このグループのムードメーカー、彩奈が真っ先に飛びついた。


「おっ、ノリがいいねぇ。じゃあ私も!」


遥香もそれに続く。


「どこ行くの?」


美希だけは即答出来ずにいた。なにせ人混みが苦手なのだ。混むような場所なら考えないといけない。


「それはこれから決めよ!」


「大丈夫だって、混まないとこ選ぶから!」


佳奈も遥香も、もちろん彩奈も美希を置いていこうなどとは考えていない。4人で行くことに意味があるのだ。


あーでもないこーでもないと4人が和気あいあいと旅行の計画を話している時だった。クラスメイトが美希を呼んだ。


「美希ー、呼ばれてるよ!」





時間は少し遡り2年A組。


「明日香ー、今暇か?」


悠真が隣の教室まで明日香を呼びに来た。


「部活までなら暇だよ。今行くからちょっと待って。」


「なら下にいるわ!」


帰り支度を整えたあと、正直めんどくさいと思いつつ明日香は悠真のところへ行った。


「で、何か用?」


「用ってかさ、花火大会なんだけど。」


「なになに、私と行きたいって?」


「違うっての。」


「分かってるって。でもあの子、人混み苦手だし花火大会とか無理だと思うけどなぁ。」


悠真の意中の相手は美希。明日香を通じて話しているうちに気になり始めたものの、イベントごとに誘おうとするものの、勇気が出ずに1年が過ぎていた。進展したことといえば下の名前で呼べるようになったのみだ。


「だからさ、とりあえずその前に3人でどっか行かない?」


「月に1回はみんなで遊んでるでしょ!」


学生時代の恋愛は難しい。明日香のような一緒に遊ぶほどの共通の友人がいれば特にだ。


「うだうだ言ってないで誘ってきなさいよ!」


見かねた明日香が悠真の背中を押す。


「あーもう!友だちやめないでくれよな!」


「はいはい、行ってらっしゃーい。」


明日香と別れ悠真は美希の教室に向かった。





その夜、明日香の携帯が鳴った。美希からだ。


「もしもし、こんな時間にどうしたの?」


美希から電話ということは悠真がちゃんと誘えたということなんだろうと明日香は思い込んでいた。


「えっ、嘘!!」


美希からの報告に明日香は声を失う。


「私からはなんとも言えないけど、悠真と同じかなぁ。チャレンジしてみるのもいいんじゃないかな?」


「うん、また聞かせて!じゃあおやすみなさい。」




―――美希vision―――



「美希ー、呼ばれてるよ!」


「今行くー。」


なんだろう。せっかく楽しく話してたのに。他のクラスに友だちもいないし。あっ、明日香かなぁ、なんて思って教室の外に出た。


「悪いな、呼び出して。」


えっ、なんで?3年の永瀬先輩がそこに立ってた。


「いえ、全然良いんですけど。」


永瀬先輩、明日香の中学生の時の先輩で明日香を応援しに行った時に何度か話したことがある。もちろん2人きりってことはなくて、悠真くんとかも含めてっていう程度。


「あー、回りくどいのとかめんどくさいからさ用件だけ言うわ。花火大会、一緒に行ってんくんね?」


「えっ、でも、その。」


いきなり過ぎて返事に困る。それに花火大会とか行くつもりもなかったし。


「予定とかある?」


「いや、特になんにも無いんですけど。」


「じゃあ仮押さえってことで。ほい、これ。」


そう言うと永瀬先輩は紙切れを私に渡してきた。開けてみる。電話番号が書かれていた。


「いきなりだし、まぁとりあえずの仮押さえだからさ、無理でも本決まりしたら連絡ちょうだい。」


勢いで仮押さえされちゃった。それにちゃんと断れるように気まで使ってくれた。


これまでも永瀬先輩に悪い印象は特になかった。明日香の応援の時も、明日香が勝ったら子どものように喜んで、明日香が負けたら自分のことみたいに悔しがって。みんなで話してる時も周りに気の使える人って印象。でもそれだけしか知らない。


あぁどうしよう。そうだ、明日香にでも相談してみよう。


私は電話番号が書かれた紙切れをポケットにしまって、先輩の後ろ姿を見ていた。





―――悠真vision―――


まぁ、誘うだけなら大丈夫だろう。告白するわけじゃないし。でも2人きりってことはやっぱ意識するんだよなぁ。そんなことを考えながら美希の教室に向かう。


3階まで階段を昇る。こんなことなら明日香を下で待たなければよかった。


2階を過ぎて踊り場まで来た時に、蓮先輩にあった。なぜか上から降りてきた。視線こそ合わせたけど、頭の中は美希のことでいっぱいだ。会釈だけして横をすり抜けた。


それにしても先輩はなぜ上から来たんだ?3年の教室は2階なのに。明日香でも探してるのかな、そんなことを考えながら3階に着く。運がいいことに目の前には教室に入ろうとする美希がいた。


「美希ー。」


俺は美希を呼び止めた。


「悠真くん、どうしたの?」


振り向いた美希は驚きながら、すぐにいつもの笑顔になる。



「あー、暑いよなぁ。」


違う、そんなこと言いに来たんじゃない。


「夏だからねぇ。」


「そうだよなぁ。夏だもんなぁ。」


「うん。」


美希が俺にかわいく微笑む。ここまで来たんだ。あとは誘うだけ。


「夏休みってなにしてんの?」


回りくどい自分に苛立ちを覚える。


「夏休み?佳奈たちと旅行でも行こうかぁって話してたとこ。」


「へぇー、旅行いいな。どこ行くの?」


「まだ決まってないんだ。今から決めるとこ。」


言えない。誘えない。目の前に美希がいて、一言言うだけなのに肝心なことは声にならない。


「悠真くんは?」


「俺はまだまだなんの予定もないかなぁ。」


「そっか。」


「行きたいとこはあるんだけどさぁ。」


チャンス。この話の流れで花火大会の話題を出して、そのまま誘うだけだ。


「行きたいとこ?」


「ほら、その、花火大会、とか。」


よし、1つ目のハードルはクリアした。


「あー、花火大会かぁ。」


「美希は花火大会とか行くの?」


少しだけ美希の表情が曇ったような気がした。聞いたらダメだったんだろうか。


「人混み苦手でね、花火大会は毎年家から見てる。」


ていうことは今年も予定は無いはずだ。


「誘われたりはするんだけどね、あんまり気乗りしないんだよねぇ。」


美希の表情がさらに曇ったように見えた。ここで誘っても印象は悪いんだろうなぁ、そう思い誘い文句をグッと飲み込んだ。まだ日もある。少しづつ、そして最後に誘えばいい。


「まぁ誘われたりしたらさ、ちょっとだけ勇気出してみるのもいいんじゃない?」


「そうかな?」


「人混みだって、絶対少ないとことかもあるだろうしさ。」


「あー、それもそうだね。」


「じゃあ、俺行くわ!じゃあな!」


「うん、ありがとう。」


そして俺は階段を駆け下りた。

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