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両想い、始めませんか?  作者: ペンギン
1/7

邂逅。

季節は巡っても想いは繋がる。


幾度となく夏が終わろうとも記憶は色褪せることなく。





「おばぁちゃん、この浴衣見て!」


今年で16になる結和は毎年この時期になると必ず浴衣姿を見せにやってくる。


「おやまぁ、今年もキレイな青だね。色もその花柄もよく似合ってるよ。」


おばぁちゃんが家の奥から顔をのぞかせて結和に言った。


「でしょ?夜になったら花火大会一緒に行こ!」


「あなたは本当に甘えん坊だねぇー。誰に似たのかしら。」


「うーん、多分おじいちゃんかな?」


結和はそういうと無邪気に笑った。おばぁちゃんも釣られて一緒に笑う。


「そういえば私も結和くらいの時は浴衣着て花火見に行ったわねぇ。」


おばぁちゃんが懐かしそうに結和に言った。結和は興味津々とばかりに食い付いた。


「そうなの!?」


「そうだよ。それに青い浴衣には特別な思い出があってねぇ。」


「青い浴衣に?どんな思い出?」


「私のね、とってもとっても大切な思い出よ。」





『あれはもう数十年も前のこと。なのに私はまだ昨日のことのように覚えている。』





『両想い、始めませんか?』





「あー、暑いなぁ!」


夏休み前の最後の1日、終業式の朝、夏木悠真はうなだれる暑さの中で学校に向かっていた。


「夏なんだから仕方ないでしょ!」


悠真と一緒に登校していた高城明日香が大きな声で悠真を諌める。小学校の頃からの腐れ縁である2人はいつもこうだ。


「それにしてもさぁ、温暖化ってどうにかならないもんなのかよ。」


「学者にでもなればいいじゃん。」


「この成績でなれると思ってんのか。」


「ドヤるところじゃないでしょ!受験まであと1年半あるんだし勉強しなさいよね!」


明日香が呆れながら悠真を諭す。もちろん悠真は明日香の言うことなど聞くことは無い。


「明日香は夏休みなんかすんの?」


悠真が話を変えた。勉強の話になるといつもこうなる。明日香は内心ではうんざりしていた。


「部活かなぁ。」


「あー、春大会のリベンジってやつ?」


「もちろん!」


明日香は小学校の頃から始めた陸上の400mで春の県大会2位。中学生の頃には全国にも行ったほどの実力だ。


「あんたは何かすんの?」


「今年こそは花火大会に!」


明日香の問いに悠真は満面の笑みをうかべて答えた。


「花火大会に、、、1人で?」


「なわけねぇだろって!」


「私誘われてないんだけどなぁ。」


「誘わねぇよ!とにかくお前は走れ!」


「何よ、それ。」


明日香が少し不貞腐れた。中学生の頃までは決まって市内の花火大会には2人で行っていた。それが去年、知り合ってから初めて悠真が断りを入れたのだ。今年こそはもしかしたらまた誘ってもらえるかもしれない、そんな期待が明日香の中にあったのだが、そんな期待は切り出す前に終わりを迎えた。


「でもあんたさ、今年こそは誘えんの?」


「いやぁ普通に話すのは出来るんだけどさぁ、誘うってなるとどうしても勇気出なくてさぁ。」


「また部屋から音だけ聞くことになりそうね。」


明日香はそう言うとニコッと笑い足早に悠真から離れていった。


「また朝からイチャついてんな。」


永瀬蓮、悠真のひとつ上の先輩だ。


「先輩にはわかんないっす。」


そう言うと悠真は蓮にムスッとした表情をぶつけたのだが、蓮は遠くを見ていて悠真の方などまったく見ていない。


「とっとと誘っちまえばいいじゃん。」


「聞いてたんじゃないですか!」


「去年散々聞かされたからなぁ。お前からも高城からも。収まるとこに収まっといたら楽なのによ。」


「別に明日香とはそんなんじゃ!」


「文武両道で将来有望。それに幼なじみ属性持ち。あーあ、羨ましいもんだ。」


蓮は視線を悠真に向けることなく、悠真をからかって笑っている。隣でいくら悠真がムスッとしようがお構いなしだ。


「なら先輩が明日香狙ったらいいでしょ!あー、夏はあちぃよ!」


悠真は蓮の返事を聞かないままに捨て台詞を吐き捨てて走って行ってしまった。


「そういう訳にはいかないっつーの。」


表情ひとつ変えないまま、視線も変えずに蓮は1人呟いた。



悠真から離れた明日香はクラスメイトの美希を見つけた。


「美希、おはよう!」


「あっ、明日香おはよう。今日は夏木くんと一緒じゃないんだね。」


「あー、さっきまで一緒だったけど。」


「幼なじみっていいよね。」


「良くない!年々無神経になってくだけだって。」


「それだけ心開いてるんだって。」


美希はとても素直だ。強がりな明日香とは違い、話し方も雰囲気もとても柔らかい。明日香はそんな美希の隣にいるのが心地よく、美希は美希で明日香の物怖じしないところが好きで、よく2人でいる。出会って1年少しだが親友と言ってもいい関係だ。


「美希はさ、今年は花火大会行く予定とかあるの?」


「花火大会かぁ。あんまり人混み好きじゃないしまた家から見るかなぁ。」


「そっか、すごい人だかりだもんね。美希には辛いか。あっ、でも大会は見に来てよね!」


「もちろん!」


女の子同士、楽しく笑い合う2人。その後、明日香は美希に大会の秘訣を自慢げに語り、美希は明日香の話を真剣に聞きながら校舎に入っていった。



―花火大会まで、あと27日―

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