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第66話 ボイスコミックやろうよ!

 コジたんの言うことによると、この漫画の主人公はごく普通の社会人。

 死んだ目をした社畜でもくたびれたおっさんでもなく、そこそこ見た目のいい二十代半ばの青年だってことで、頭の中でいろんな顔のパーツを組み合わせてみた結果、俺と四條さんを足して割って、コジたんのかわいい目をイメージした、キラキラ瞳のキャラを作った。

 髪型や鼻の形なんかは、いくつかバリエーションを用意してみたんだけど、コジたんは一番最初に描いたのを気に入ってくれて、主人公の外見はその場で即決定した。


 あとは一緒に旅をする仲間と、モンスターはこの、異世界ヨコハマに存在する子たちをそのまま登場させるから、細かいデザインなんかは図鑑のとおりに描くだけでOK、ってことで、まぁ、俺の手にかかればってカンジだな。

 人物の似顔絵とか、漫画やアニメキャラの簡単な二次創作なら、俺に描けないものはねぇぞ、って言えるけど、人間以外の生き物やアイテムなんかを一から創作すんのはあんまりね、得意じゃないんだわ。だから図鑑は大変にありがたい。


 大白熱のトーナメント一回戦から一夜明けて、今日は二月十二日土曜日だ。

 またもカモ~イの俺たちん家で、コンビニで買ったお菓子を食いながらコジたんと二人きりで漫画の相談チュウ。


「仲間の性別や外見に希望はありますか? ちなみに俺が生きてた現実だと、異世界転生モノにはハーレム要素が含まれるものが多かったです」

「そうでしたね。でも僕はオタクですが、男性向け異世界のお約束モノは、どうも好きになれなくて……。かといって、あまりにも流行りから外れるようなキャラや設定では、読者の心を掴むことは出来なそうだし、イラストと違って、漫画って難しいですね」

「読者? えっと、この漫画ってコジたん個人の趣味用? じゃないですよね。『読者』を想定するってことは、SNSに投稿する予定とか?」


 ここまで自分で言っといて、俺、はっと気づいちゃった。

 さっき寄ったコンビニの書籍コーナーに、週刊少年ゼクスとか、人気の漫画雑誌がいくつも置いてあったんだけどさ、ビニールに入ってない見本用のやつを開いてみたら、中には俺が生きてた現実とは全然違う、おそらく異世界に住んでる作家の作品が並んでて、なんと新人賞の募集まであったのよ。



 プランシャとのバトル権を賭けたトーナメントが予想以上に長引いたり白熱したりして、すでに忘れてる人もいるんじゃねぇのってことで、一応の確認。

 俺がここで稼がなきゃ、現実に残してきた家族が金で苦しむんだったじゃねぇか。

 怖い借金取りが家にまで押しかけてくるんだから、俺が頑張って稼がなきゃ、母さんや真帆に嫌な思いをさせることになる。

 まぁ、こっちでも漫画家を目指す……って手もあるけどな、きっとまた挫折すんのは目に見えてる。

 んで、いま俺が思いついたのは、MeTubeだよ。「MeTubeにボイスコミックをアップする」、これでしょ!


 コジたんが考えたストーリーを俺が漫画にして、ユイや四條さんも巻き込んで、キャラのCVをやってもらう。

 あとはセリフを録音して、紙芝居みてぇにすすめればいいだけだ。

 四條さんとコジたんがいれば、声ヲタの女性人気はすぐに出るだろうし、ユイだっていつものキンキン声じゃなくてトーンを抑えれば、それなりにかわいい声をしてると思うんだよ。

 そうすればちまちま日銭を稼ごうとしなくたって、広告収入で俺たちも俺の家族も安定した暮らしができんじゃん! 

 思わずコジたんの方に向き直って、ふっくらした両肩を掴んでゆさゆさしながら、俺は興奮してまくし立てた。


「コジたん! ボイスコミックですよ!」

「えっ、ボイスコミック……?」


 キャラクターのラフを描きかけだったパソコンの別窓を開いて、MeTubeで最近流行りのボイスコミックをいくつか再生してみる。

 実録系、TL、ファンタジーなんかの色んなジャンルがいっぱいあって、どれも一万再生は軽く超えてる。


「漫画のキャラに命を吹き込む……それはCVを決めてやることです。幸いうちには、イケボが二人もいるんだから、やってみるしかないでしょう。すぐに人気が出て収益化できれば、コジたんが俺に支払ってくれる報酬だって抑えられますよ」


 コジたんは腕を組んで目をつぶった。想像してるらしい。


「うーん、すぐに人気が出れば……ですよね」


 俺が言ったことを繰り返して、また唸ってる。

 そうだよな、実力があってもそれが多くの人に認められなくて、続けられなくなるヤツだっている。

 まさに俺がそうだったじゃねぇか。それこそ狂ったように漫画を描いても描いても運にすら見放されて、それで命を絶っちまったんじゃねぇかよ。


『いいと思いますよ。やってみないと反省もできませんからね』


 パソコンデスクの横で休んでたみゅうが前に出てきて、まだ迷ってる感じのコジたんに言った。

 そうだ、みゅう、もっと言ってくれ。俺の語彙は乏しくてコジたんを説得する自信がねぇ。その調子で、あとで四條さんのことも誘ってくれよな。


 コジたんは、突然口をはさんだみゅうの方を見た。

 これまでなんだかんだで会議や反省会の時には意見を出してたみゅうだ。

 いちばん客観的な目でものごとを俯瞰できんのがこいつかもしれねぇ、と思ったのか、みゅうの画面から俺の顔に視線を移したコジたんは、かなりやる気になったらしい。


「主人公のCVは、そのまま僕でいいんでしょうか」


 いやいや、モロチンですよ! 四條さんもそうだけど、コジたんも普段は無自覚なイケボなのよ。それがキメ台詞モードになると、男の俺でも胸を抑えて悲鳴をあげたくなるほどかっこいい、超イケボ。

 台詞の内容によっては、本当に死……かもしれないと思うほどで、もう主人公はコジたんしかいねぇと思うのよ。


「コジたんの作る物語です。もちろんコジたんの声で主人公に命を与えてあげてください!」

「わかりました。それではカズマさん、仲間のヴィジュアルも決めていきましょう!」


 はぅわっ、やる気のコジたんだ。今の「わかりました」は、腕の立つ殺し屋みてえでトリハダたった。やべぇ~。



 死ぬ前の俺はさ、とにかく漫画家になりたくて、そのために何が必要なのか考えて、色んなタッチの絵を描いたり、ストーリーもキャラクターも、俺にしか描けないものって気張ってたっけな。

 今の流行りは読者におもねるようなものばっかで、出版社サイドがそれを煽って儲けることしか考えなくて、どんどん堕落してった結果が「異世界ファンタジー」の大流行だって、とにかく「異世界ファンタジー」ってジャンルを嫌ってた。

 けど、いざ自分が異世界に転生してみたら、流行りのジャンルを取り入れたって、俺の個性を死なせずに描くことも出来たんじゃねぇかって気づいたのよ。


 犯罪の目撃者が、犯人の顔を思い出しながら細かく伝えるみてぇに、コジたんにそれぞれのキャラの特徴を聞いて、それを紙に描きだしてみた。

 コジたんは、リビングで追いかけっこするひのまるとマリリンを見て、目じりをさげてる。


「マリリンとひのまるちゃん、きょうだいみたいに仲良しですなぁ」


 俺たちと知り合うまで、コジたんとマリリンはヒト1、モンスター1の暮らしだったらしい。

 リアルマネートレードで稼いでるコジたんは、あんまり行きずりのガーディアンとはバトルしない。

 マリリンは完全室内飼いのペットみたいにかわいがられてたけど、きっとひのまるとバトルした時、目覚めたんだろうな、その楽しさにさ。まして負けちゃったから、闘争心が芽生えたんだろう。

 ここのモンスターたちは、戦って強くなる、強くなりたいっていう意欲が、あらかじめ脳にインプットされてるんだ、たぶん。


「みゅう、野生のモンスターって、どんな子でもゲットできるのか?」

『カズマさん、雪風さんをゲットしたとき、そのためにどんな苦労をしたのか、もう忘れちゃったんですか? 野生のモンスターは、自分の主になる人間を認めなければ、絶対にその人の手の中に入ることはありません。無理矢理入れようとして、腕ごと食いちぎられた人間だっているんですから。カズマさんはラッキーだったんですよ。ヨコハマ洞窟が近くに出現し、本来なら雪山にしか棲息していないシャーグラスに出会えて、仲間にすることまで出来たんですから』


 みゅうが「雪風さん」と言った、自分の名前に反応した雪風が、水を飲んでた顔を上げてこっちを見た。

 例えるなら……マリリンはキュートな美少女だけど、雪風はミステリアスなクールビューティーって感じで、すごくかわいい。


「雪風がバトルしてるとこも、また見てみたいな……」


 ケント紙に目を落としたら、雪風を擬人化したような少女が完成してた。俺、無意識に描いてたのにすげえじゃん! やっぱ俺の雪風愛とひのまる愛って本物だよな。フフフ。


「おぉーっ! これは高貴なイメージの美少女ではないですか! 通学には高級車で送り迎えされるような超・お嬢さま学校に通う、セレブ風ですなぁ。雪風ちゃんに似ていて美人です。ちなみに、マリリンもこんな感じで擬人化できますかね?」


 大喜びのコジたんは、鼻息も荒く俺の手元を覗きこんでる。

 よしよし、もちろんできますよ。かわいくてお茶目なマリリンは、雪風よりちょっと年下のイメージだよな。


「はいっ、これでどうですか? コジたんが見て、マリリンに似てますかね?」

 

 ちょっとだけマリリン色に塗った絵を両手で持って、コジたんはぷるぷる震えた。


「カズマさん、あなたやっぱり天才じゃないですか! マリリンちゃんが人間になったら、絶対にこんな少女ですよ!」

「それ、練習なんで、よかったら持って帰ってください」

「いいんですか! いやいや、これは……」


 コジたんの様子がもっとおかしくなる前に、今日やる予定のことだけはやっちまいたい。あとは、そうだ、主人公の目的はなんだっけ? それを知ってなきゃ進められねぇぞ、と。


「そうですよね、僕は雪風ちゃんのバトルを見たことがないので、ぜひあの美しさにひれ伏したいですなぁ」


 あっ、コジたんが暴走し始める前になんとかしなきゃだぜ。


「氷属性のモンスターって、どんなバトルが向いてんのかな?」


 とりあえずみゅうに話しかける俺。みゅうの返答次第では、オタクの暴走を止められるはずだ。


『雪風さんのことですか? 氷のモンスターは、土属性のモンスターにはとても強いです。たとえば……あぁ、昨日のミミズバーとかね』


 みゅうは語尾にウフフッと笑いを付け加えた。あのキモいミミズバーと雪風がバトルって、想像すんのもイヤだけどな。


「けど、あんな弱いヤツと戦ったってなんにもならねぇじゃん」

『それは昨日の個体が弱かっただけで、強いミミズバーだって当然存在します』

「なるほど。んじゃさ、土属性の奴とバトルしたいと思ったら、どこに行けばいいんだ?」

『えぇ、ですからタクラマカン砂漠ですね。ヨコハマにあるはずなんですが、このぼくにさえ正確な場所はわかりません』


 いや、ちょっと待てって……。

 俺が異世界で目を覚ましてすぐ、誰かからタクラマカン砂漠って単語を聞いたんだよ、絶対。どこで聞いたんだっけな。


「カズマさん?」


 難しい顔して考えこんでる俺の顔を、コジたんが覗き込んだ。コジたん、いま話しかけないで。もうちょっとで思い出せそうなのよ。


「あぁっっっ! 思い出した!」


 大声にびっくりしたコジたんが飛び上がって、マリリンがかわいい顔で近寄ってくる。


「わかったよ! タクラマカン砂漠。みんなで行けるぜ。そこで雪風の特訓しよう!」


 コジたんは目を丸くしてるけど、雪風のバトルが見られるかもって期待で、かわいい目をキラッキラに輝かせた。

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