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第65話 一回戦終了!

 しおんの歌声でノリノリの、オトコマエビーストことアンディは、フィールドから突き出たウルフズロックをでかい本体のまま引き抜いた。それを肩に担いでから一旦右手を高く上げて、欠損した指以外で拳を作ると、へろへろに弱ってるギアゲルギの顔面を狙って投げつける。

 獄炎に炙られ続けた上に血で目つぶしをされ、そんでドラゴンビームの雨から逃げ回って混乱してる相手にだよ、ごつくて硬ってぇ岩石の尖ったやつをぶつけるなんて、なんでそんな攻撃ができちゃうのさ。

 視界を潰されたギアゲルギは、どこからどんな攻撃が来るのかさえ分かんねぇ状況で、さぞかしピリピリしてたと思うんだよね。でも、機械っぽい見た目だからそんなの全然伝わってこねぇんだけどさ。


 ガシャーン! でっかい音がして、ギアゲルギはとうとうバトルフィールドに落ちた。三つのギアは外れかけて、折れた小さいネジがコロコロって転がっていくのがモニターに映った。


 俺が、あぁ……って思ったのと同時に、アンディとしおんは握った拳を振り上げる。

 最後の技を出す余力さえもなく、ギアゲルギは動けない。

 すぐに一村が駆け寄ってきてカウントを取り始めるが、フォーまで数えたところでギアゲルギの顔を覗きこんでから、頭の上にあげた両手をクロスさせながら大きく振って、試合続行は不可能だってことをみんなに伝える。


『ギアゲルギ、戦闘不能! よって一回戦第四試合の勝者は、牧内しおん選手とアンディのチームです!』

「うおおおおぉぉぉぉぉ!」


 俺たちと、そして観客席が大きく揺れた。

 ほとんど全員が大きな歓声をあげて、アンディとしおんの名前を呼んでる。しおんはその声援に生き生きと応えてるけど、さっさと試合を終わらせてアンディの指を治してやりたいだろうな。


『ギアゲルギ!』


 秋葉がギアゲルギに駆け寄って、顔面がある一番デカいギアを撫でてやってた。

 そうしたらギアゲルギはやっと目を覚まして、すまなそうな表情で秋葉を見上げる。それに応える秋葉は、泣きながら首を横に振った。

 さっきまでアンディの応援をしてた人たちが、秋葉とギアゲルギにも声援と拍手を送り始めた。


 試合を見てると、どうしたって動物モチーフっぽい方、それかより勝利に近い方を応援したくなっちゃうけど、どんな見た目でも、どんな素材でできてたって、ガーディアンにとっては唯一の、大切なモンスターなんだって思い知らされるよ。


 みんなが心配してたアンディの指は、しおんが傷薬を飲ませたら、にょきにょき生えてきてすげえびっくりした。

 その様子をモニター越しに見てた全員が、モンスターの生命力っていうか身体の不思議を目の当たりにして、客席のあちこちからため息が漏れてたよ。


 アンディは新しい指が早く馴染むように、握ってひらいてを何度か繰り返して、しおんに見せて嬉しそうだ。そのままアンディが屈んだら、しおんはその毛むくじゃらでムキムキの肉体をぎゅうっと抱きしめて、匂いを吸い込むように鼻をうずめてる。

 しおんのフリフリの衣装にアンディの血がついて、いまのバトルの過酷さを物語ってる。


 いや、血が出ねぇギアゲルギだって充分戦ったよな。あいつと秋葉だっていいファイトだったよ。

 なのに、やっぱ機械のモンスターって不遇だよな……。


『あそこでハイリスクギアが決まっていたら、もしかしたかもね』


 ギアゲルギを介抱しながらうな垂れてる敗者・秋葉に歩み寄って、しおんは右手を差し出した。

 のろのろとそれに応える秋葉と握手しながら、しおんはギアゲルギの健闘をたたえたけど、秋葉は数秒の間、暗くなった空を見上げてなんか考えたあと、吹っ切れたような笑顔で言った。


『いや、きみは……きみとアンディは強かった。俺は自分とギアゲルギを鍛え直すところから始めるよ』

『運も実力のうち、か。耳が痛いわ』


 くすくす、としおんは笑って、アンディと並んで秋葉に背中を向けた。


『あ、ねぇ!』


 その背中を引き留めた秋葉は、振り向いたしおんに手を差し出して大きく息を吸い込んでる。

 なんだなんだ? まだ諦めきれねぇのか? 顔が引きつってるぞ、秋葉。早く言っちゃえよ!


『俺たちがもっと強くなったら、またバトルしてくれるかな?』

『もちろん。何度でも返り討ちにしてあげる。だから強くなってくるのよ』


 言われた秋葉は、壊れたオモチャみてぇに首をコクコク動かして、アイドルに夢中になってる若者っていう顔してて、なんか、青春ぽくてくすぐったいぜ。


 しおんが背伸びしてアンディの腕に触れると、入場したときと同じような格好になるよう、アンディはしおんを自分の肩に担ぎあげて、細い二本のふくらはぎをそっと押さえた。

 そのアンディの肩の上で、しおんは両手をひろげて「みんなありがとー」なんて声を張り上げてる。

 客席の前をゆっくり歩いて、それから最後列まで目線を飛ばして丁寧にお手振り、アンドお辞儀を繰り返す。いやぁー、さっすが元アイドルだよな。客の心を掴むのがめっちゃ上手い。


 そして、俺はできるだけしおんとは目を合わせないようにしてたつもりだったけど、とうとう俺を見つけたしおんは、俺を指差して不敵に笑いやがった。

 え、それってどういう笑いだよ? って俺は冷たい視線で返したけど、わかってる、わかってるよ。

 二回戦第二試合の宣戦布告だろ? きっとひのまるは、ミミズバーとのまっっったく手ごたえ無かったさっきの試合には不満たらたらだろう。もっと実のあるバトルがしたい、身を焦がすような熱い戦いをしたいって、うずうずしてるはずだ。

 しおんが第二試合もアンディで来るのかはわかんねぇけど、もしもアンディが続投するとしたら、相手にとって不足はねぇよ。



 しおんチームと秋葉チームが退場したあと、ちょっとしたインターバルがあった。

 またフィールドの調整のあと、二回戦第一試合を始めるんだろうって、誰もがコートの襟をぎゅっと掴みながら、冷たい金属の客席で震えてる中、二階堂が登場して一村からマイクを奪った。

 それはいいんだけど、二階堂の横にはあのプランシャが一緒についてきてた。

 そうだよ、そもそものはじまりはお前じゃねぇか。

 あの禍々しくてヤバいかっこよさのプランシャと戦ってみたくて、俺だってこうしてバトルに参加したんだよ。モニターで見てるだけでも、プランシャのヤバさがビンビン伝わってくる。

 それは、「プランシャ」っていう種の問題なのか、それともあの個体が怪しい団体の幹部として動いてる奴のパートナーだからなのか、それは俺にはまだわかんねぇけど、あいつを目の前で見てみたくて、荊でぐるぐる巻きにされた顔に触れてみたくて、強烈な力に引き寄せられたように手を挙げてた。

 あー、悔しいけど二階堂とプランシャのコンビってサマになってるわ。


『客席や会場内のみなさま、お楽しみ頂けていますでしょうか。これで二回戦に進む四名の選手が決まりました。第一試合は、中野千代子選手vs水嶋奏選手。第二試合は宮本和真選手vs牧内しおん選手です。さて、十五分のインターバルのあと、続けてトーナメントを行う予定でしたが、各試合が想定以上にエキサイティングな内容となり、時間も大幅にかかりました。そのため、すでにこの屋外会場は非常に寒く、皆様の健康に害が及ぶ恐れが出ております。「異世界ナチュライフの会」は、すべての人に健康と幸せをお届けしたいという考えの元に活動しておりますので、それでは会の理念に反する事態となってしまいます。そこで、誠に恐縮ではございますが、二回戦と決勝戦は、来週開催する定例セミナーにて行わせていただきたと思います。準決勝に残った選手のみなさん、ご都合はよろしいですか? はい、では来週に改めさせていただきます。参加ご希望の方は、さきほどの場内受付にて、エントリーをお願いいたします』


「へくちっ、くちっ、くちっ!」


 二階堂の話を聞いていたら、三回連続でくしゃみが出ちまったじゃねぇか。

 まったくよぉ、鼻水ちょちょぎれそうだぜ。コジたんとみゅうまで、つられてくしゃみが出ちゃってるよ。

 いきなり始めさせて、勝手に来週に持ち越しだぁ? 

 二階堂ってほんとイライラすんなぁ。我がままっ子かよ、って思うけど、ま、確かにこのまま続けられるような気温じゃなくなってる。


 デカいモニターには会場内の様子が映って、そっちにいる人たちもこっちで寒風にさらされてる人たちも、二階堂の話術に煽られてか、ぱらぱらと拍手を始めた。


『それでは、一回戦を盛り上げてくださった選手とモンスターたちに、もう一度盛大な拍手を!』


 モニターには、一回戦から順に対戦した人間とモンスターの画像が映し出されて、それと交互に最前列の選手席にいる中野さん、あいり、奏くん、堀江さん、草野さん、それから俺んとこまでカメラが飛んできた。

 当然っちゃ当然だけど、見ごたえゼロのつまんねぇ試合をした俺と草野さんへの拍手と声援は、ほとんどなかった。

 なんだよ、俺、勝ったのになんでこんな恥ずかしい想いしなきゃなんねぇの! ひのまるは強いんだぞ、つまんなかったのはミミズバーのせいじゃねぇか! 

 なぁ、ひのまる……。左手に入ってるひのまるに申し訳ない気がして、俺は右手で左手の拳をさすったよ。



 で、そのあとはまた全員があったけぇ会場内に戻って、この日のセミナーの簡単なおさらいと、代表者サガラの挨拶をもってお開きとなった。

 出口で会員たちが作ったっていう無添加クッキーが配られてて、受け取るには受け取ったけど、さすがに俺と四條さんは口に入れる気にはなれなかった。

 なにか洗脳に使われる麻薬的な成分が入ってたりしたらヤバいってことで、捨てようって言ったんだけど、コジたんは過去の経験から、クッキーに何かを混入させることはないと思うって言って、駅までの道で俺らがあげた分を開けて食い始めた。


「みゅう」

『はい~』

「夜も食べて帰るって、ユイにメールしといてくれ」

『かしこまりました!』


 ピピピピッ、と音がして、みゅうが秒でユイにメールを送る。本当は早くカモ~イに戻ってゆっくり暖まりたいけど、本日の反省会と、来週の二回戦について三人で話す必要はある。ユイからすぐに届いた返信には、ソファでまったりしてるシャードネルの写真が添えられてた。

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