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第59話 シャーザブル?

『ミミズバー、戦闘不能! 何ということでしょう、名勝負となった第二試合の興奮も冷めやらぬうちに、早くもミミズバーの負けが決まりました! よって勝者、宮本和真選手とシャーヴォルのチーム!』


 一村の実況が空に響き渡る中、俺は呆然としてた。ひのまるだって、何が起きたのかわからず、ぽかーんとしてる。

 いや、一村先生、何がどうなったのか説明してくれませんかね? 俺たち勝っちゃったみたいなんですけど、手応えがなさすぎて実感ねえっす。


『ぐねぐね!』


 草野さんがミミズバーのところに駆け寄る……ていうか、ミミズバーが倒れてんのは草野陣地ほぼ全域っつーか、ミミズバーのだらーんと弛緩した身体でフィールドが覆い尽くされてるっつーか、とにかく駆け寄るまでもねぇ、ミミズバーの身体のどこか一部なら、誰の位置からでも手を伸ばせばすぐに届きそうだよ。

 けど、倒れたパートナーを心配して掛けよるなら、やっぱ顔のところに行くのが普通だと思うんだけど、ミミズバーの顔? ってどこにあんの? 

 あの、ひのまるの一発でただだらしくなく伸びちゃっただけのミミズバーなのに、そんなに可愛がって撫でることもねえんじゃ……。

 いや、ちょっと待ってくれ、俺とひのまるのやる気をどうしてくれんのよ! って喚きたい気分だぜ。


 一村先生さぁ、今のナシにして、最初からバトルやらしてくんねぇかな? これじゃひのまるが可哀想だよ。




 まあまあ、俺がなに言ってんのかわかりませんよね? 一応説明すると、遡ること数分前。そう、たった数分前の出来事だよ。



 カッチコチに緊張した俺がバトルフィールドにインすると、遠くから四條さんとコジたんの声援が聞こえた。ひのまるはまだ手の中にいたけど、二人の声を聞いて喜んでるらしくて、そこがちょっとあったかくなった。

 そしたら俺の名前を呼ぶ声に、女の子のものも混じってるのに気づいた。一瞬ユイか? と思ったけどそんなはずはねぇわな。

 声のした方を見たら、牧内しおんが笑顔で手を振ってたんだ。アイドルだから、かわいいかかわいくないかと聞かれればかわいいんだろうけど、見るからにメンヘラっぽくて苦手なタイプ。

 そうだ、しおんは一回戦で俺と対戦できないことを残念がってた。これから始まる第三試合と、続いて第四試合。俺としおんが無事に勝ち進めば、二回戦・準決勝で当たることになる。だとしたら自分の戦い方を研究されんのは不利じゃねぇかって、そう思って俺ははっと気づいたね。


 せっかく第三試合、俺は三番目だったのに、バトルのシミュレーションしてなかったじゃん! 

 今までほとんど負け知らずのひのまるだからって安心して、頼り切ってたぜ。

 もしひのまるの相手が苦手な土属性のモンスターを出したら? ピンチになったら? 俺は、ひのまるを守れんのか?


『大変お待たせいたしました。ただ今より、一回戦第三試合を始めます。宮本和真選手、草野崇選手、それぞれパートナーのモンスターを出してください』


 一村が右手を前に差し出して、モンスターを呼びだせって言う。

 ここまで来たら、もう腹くくるっきゃねえじゃん。絶対勝つ。どんなモンスターを出されようと、ひのまるは強いって、信じて戦うしかない。


 ひのまる、出ておいで!


『宮本選手、シャーヴォルを繰り出しました! 属性は炎。プランシャと共に「十二にゃん」と呼ばれる猫型モンスターの一種です。果たして宮本選手は勝ち上がり、夢の十二にゃん対決まで駒を進めることができるのか! そして対する草野選手のモンスターは……?』


 あれっ? 俺の前に堂々と立ってるひのまるみてえに、草野さんのモンスターもガーディアンの手前で待機してると思ったのに、モンスターが見当たらない。

 チュピッチみてぇに小さいタイプのモンスターなのかな。それとももっと小さいミクロモンスター? 

 俺も一村も何が起きてんのかわかんなくて、そんで客席もざわざわし始めた。


『草野選手、モンスターはどうしましたか? 早く出さないと失格になりますよ』


 一村が早くしろ、と草野さんを急かすと、草野さんは自分の表情を撮影しようと寄ってきたドローンのカメラに向けて、ふふ、とイケボで笑いながらフィールドラインの内側の地面を指差した。

 えっ、これってもしかして……。


『草野選手のモンスターは、いまだに姿を見せません! これは土のモンスターのバトルがもう始まっているということでしょうか? ゴングはまだ鳴っていないのですが……!』


 一村も心なしか困ってるみてぇだ。やっぱ、まずはそのモンスターの全身を見せて、ちゃんと紹介させてやんなきゃだよな。


 って、そりゃ俺だっていっぺんに見せたくはねぇよ。かわいいひのまるを大勢の目に晒すのは、本当は勿体ないと思ってる。けど、ここはもうそんなこと言ってる場合じゃねえぞ。


 フィールドの地面がうねうね動き出した。いや、ちょっと待て……。地面が動き出したんじゃなくて、これはその下をモンスターが這ってるんだ! 

 これは、こ、ここここここれはもしかしてあの! 例の! 俺がもらいそこなったあの! 

 シャ、シャーザブルじゃねぇの? 「夢の十二にゃん対決」は、今ここでも行われるんぢゃないんですか!


 俺は内心では大興奮で、足がバタバタ勝手に動いちゃいそうだった。

 ここで草野さんに勝っても、他人のパートナーのシャーザブルをもらえるわけじゃねえけど、それでも嬉しい。もちろん洞窟で会った個体じゃないけど、なんか懐かしくて嬉しい。


 ふと関係者席の方を見たら、数メートル先で優雅に観戦してる二階堂の目の色が、ひのまるを見て変わったように思える。

 四條さん、コジたん、十二にゃんを持ってるガーディアンっていう印象、二階堂にひとまずつけられたみてぇだよ。俺はふたりに見えないことはわかってたけど、その場で小さくガッツポーズをした。


『カズマくん、運が悪かったかもしれないよ』


 草野さんがふっふっふと笑いながら、第一試合のあいりと同じようなことを言った。

 ええ、ひのまるが苦手な土属性ですよね。でもシャーザブルとは一度戦ったことがあるから、少しは攻略法も見えてきてると思うんです。


 俺はそれより、シャーザブルの姿を早く見たくて、早く、早くってわくわくしながら待ってた。そして、草野さんのシャーザブルが土の下で動きを止めて、いよいよバトルフィールドに現れる時が来た……、いや、来た? はずなんだけど。


 ゴゴゴゴゴゴ、って太いロゴ文字でも背景に付けてやりたいくらいだった。

 どう考えたってシャーザブルの大きさじゃない地響きと共に、地面に大きな穴を開けながら這い出てきたのは、え……、コレなに? キモいんだけど! いや、まさか。


『草野選手はミミズバーを使用! 属性は土、と炎属性のシャーヴォルに対しては有利に戦えます。注目すべきはこの大きさ! 全長の約三分の一、二メートルほど身体を起き上がらせたミミズバー、横にも広がっています。この巨大な壁と化した超巨大ミミズを相手に、シャーヴォルは一体どう戦うのでしょうか?』


 ぎぃやぁぁぁぁ巨大ミミズでたーっ! 

 ヨコハマ洞窟にはいなかったくせに、本当に巨大ミミズモンスターが存在するなんて、俺は知らなかった。

 いや、四條さんに訊いたら知ってたかもしれねぇ。俺が『モンスター図鑑』をよく読んでなかっただけで、ヨコハマ洞窟にもミミズバーはいて、俺らが入ったときにはすでに、誰かにゲットされてたのかもしれねぇよな。

 って、なんとか理由をつけないと、とてもじゃねえがシャーザブルと戦う気満々だった俺の心が可哀想だ。

 なんか俺、すでに涙目。

 ひのまるが振り向いて俺を見た。

 その瞳は、心なしかうんざりしたような色を見せつつも、やっぱりひのまるはいつでも元気でやる気満々、オールOK。全然怯んでなんかいねぇ。俺はひのまると向き合って、寄ってきたドローンのカメラに答えた。


『俺のひのまるは、特別に強いんです。属性の相性なんてそれほどあてにならないですよ!』


 向こうも気合いが入ってる草野さん&ミミズバー。でかい上に、目がないからどこを見てんのかわからなくて超怖え。

 まずは相手がどんな動きをするのか見極めようと、俺は遠距離からの炎技で攻めることに決めた。


『どちらかが戦闘不能になるか、ガーディアンがタオルを投げ入れた時点で試合終了とします。また、モンスターがラインの外側に出ると失格になり、負けです。それでは宮本選手、草野選手、位置についてください』


 人が使う言葉もかなり覚えてるお利口なひのまるには、ラインから出ちゃだめだって教えるまでもない。いや、ラインの外に出る? それって、すでにフィールドから溢れんばかりにデカい巨大ミミズがかなり不利なんじゃねえかって気がするんだけど、どうなの? と思いつつ、俺はラインの外側に出てひのまるの凛々しい背中を見つめた。


 初めて会ったとき、ヨコハマ洞窟で、そして街ゆくガーディアンからバトルを申し込まれた時も、何度も掴んできた、ひのまるとの勝利。

 マリリンともバトルしたよな。俺たちは負けない。根拠なんかなくても、それでいい。


『一回戦第三試合、宮本和真選手vs草野崇選手、はじめ!』


『ひのまる、バーニングドロップ!』


 先手必勝。あまり効果はないってわかってはいるが、俺たちで作った技で小手調べだ。

 そしたらミミズバーは、身体の前面で受けたバーニングドロップでその皮膚なんだか粘膜なんだかわかんねぇ、ちょっと赤黒くてぬらぬらした感じの表皮が焦げて、あたりにいや~な臭いをまき散らした。

 そんでその勢いに押されて声にならない呻きをあげた。同じくいや~な、すげえ不快な音。


『ぐねぐね、ストーミーマンデー!』


 草野さんが指示したけど、見た目通りに鈍いミミズバーは、砂嵐も起こせずにバランスを崩し、途中で自分の身体がぐねって折れても立て直せるでもなく、近くを飛んでたドローンが避けきれずに巻き込まれて、それが破壊されるバキバキっていう音を響かせながら沈んでった。

 ひのまるの技の中でも軽めのバーニングドロップ一発だぜ? 

 そんで全身が起き上がれないほどのダメージ受けちゃうって、えっと、なんでこんなに弱ぇの? 

 いや、ひのまるが強いのか! とにかく試合終了だ!

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