第49話 トーナメント開始!
ぱっと客電がついたら、場内は急にざわざわし始めた。客席にいる参加者たちは、ナチュライフの会に来てモンスターのバトルを見ることになって興奮してるらしい。
座ってる中で、一匹もモンスターを持ってない人はそれほど多くもねぇだろうが、トーナメント制のバトルとなると印象が変わったんだろうな。
八人がじゃんけんでもして、それで勝ったやつがプランシャとバトルできるって、それもエキシビション的な軽い感じを想像してたのが、なんと二階堂が出してきたのは勝ち抜き戦のトーナメントだ。
みんながみんな、モンスターのバトルが好きだとは思ってねぇけど、それでも試合形式でのバトルを観戦できるって貴重な体験だと思うぜ。
俺ら八人のうち、誰がどんなモンスターを出してくんのか、そしてどのガーディアンが頂上に立ってプランシャとのバトル権を獲得すんのか。連れがいるやつはそいつと予想し合ったりして、たぶん、誰も見たことのなかった本物のプランシャがステージにいるのを、信じらんねぇ思いで見てんじゃねぇか?
「会場係」って腕章をしたスタッフが、俺たちをセミナー会場隣の野外イベントスペースに誘導した。
しおんはアイドルの性なのか、それとも楽しんでやってんのか、ステージからハケるギリギリまで笑顔で客席に手を振り続ける。「歌ってー」「かわいいー」なんて声援が飛んでくると嬉しそうだった。
「それでは皆様、準備が整うまで二十分少々お待ちください。プランシャとのバトルを賭けたトーナメントは、隣の野外イベントスペースにて行います。ただいまバトルに適したステージに調整中です。安全確認が出来次第、観覧ご希望の方をご案内いたしますので、このあとスタッフの案内に従って移動してください。また、こちらのモニターでもライブ中継いたしますので、そのまま座っていただいてもバトルはご覧になれます。観覧席は百席しかありません。希望者多数の場合は抽選となりますので、ご希望の方はその場で手を挙げてお待ちください。スタッフが参ります」
一気に話した二階堂がマイクを下ろして礼をした。
並んでたプランシャは顔をまっすぐに上げたまま、荊で覆われた目はどこを見てんのかまったくわからねぇ。
ステージの袖から見てたら、プランシャが顔をこっちに向けた。一瞬、目が合ったような気がしてぞくっとした。腕にトリハダ立っちゃったじゃーん。もう、なんなの、これ。ビビったんじゃなくて、凄ぇものを見たときにも立つでしょ、トリハダ!
トーナメントを制した俺が、ひのまると一緒にプランシャと向き合う様子を想像したんだよ。あー、早く戦いてぇ。
四條さんとコジたん、野外の席は取れたんだろうか。さっきのあの厳しい表情って、どんな意味だったのかな。俺はどうすればいいのかって、全然読み取れなかったよ。
まぁ、もうここまで来たからにはやるっきゃねぇんだけど、そこは腹も括ってるし、いいんだけどね。
仲間の意見を聞かないと、今日なんのために来たのか本来の目的を見失いそうでさ。
ステージを下りて出口に向かうとき、まだ客席にいるふたりとチラっと目が合った。俺とひのまるを心配してんのか、四條さんの顔は明るくない。コジたんは、「ガンバ!」って口を動かしながらグーにした手を俺の方に出す。
四條さんは両手を挙げてるから、二人とも観覧席で直接試合を見ることにしたんだな。
スタッフが近づいてきて、その手にたぶん抽選券を押し込んだ。四條さんて、悪りぃけどくじ運なさそうな感じ……。当たりますように! そこで俺は外に出た。
二階堂が深く礼をしてマイクを置くと、場内からはふたたび大きな拍手が巻き起こる。
四條と小島は、この人数は教団員のサクラだけではないと直感した。
セミナー開始から約一時間。早くも洗脳され始めている者が少なからずいるのだ。
「あの二階堂というイケメンはカリスマを持ってますね。すでに信者ができてるような……」
小島が小声で四條に話しかける。
「そうですね、ここから見ても得体のしれない何かに圧倒されるような、引力の強さを感じます。いや、それはあのプランシャのおかげかもしれませんが」
そうだ、二階堂とプランシャが並んで立つあのビジュアルは、強烈な印象を精神に刷り込むだろう。
そしてこれから二階堂のパートナーとして、プランシャがあの中の誰かのモンスターと戦う姿を見せられるのだ。果たして参加者のうち何割ほどがその様子に心酔してしまうのか。四條はますます和真が心配になった。
「ツヴァイ様」
「ここでは二階堂と呼びなさい」
「申し訳ありません。二階堂様、バトルフィールドの準備が整いました」
二階堂の脇で膝をついていたスタッフが、立ち上がってタブレットを起動させる。
コンクリートが敷かれただけの野外イベントスペースに、簡易的ではあるがラインが引かれ、試合の様子をより鮮明に詳細に移せるよう、撮影用のカメラを搭載したドローンがいくつか飛んでいた。
「ここまでは順調です。各々指定の位置につき、観察を続けてください」
「はっ」
タブレットは、スタッフの胸元に吸い込まれるようにして消えていった。そして二階堂は、ステージ下で待っていたサガラと合流する。
「サガラ様、大変お待たせいたしました」
「いいえ、今来たところです」
「突然のトーナメントに、参加を辞退する者も出るかと思いましたが、運よく事を運べました。およそ十分後に第一試合が始まります。サガラ様もぜひ観覧席へ。最前席を用意してございます」
「ご苦労でした。果たして手を挙げた八人の中に適正者はいるのか……、バトルを見ながら考えるとしましょう」
二階堂に促され、サガラも野外イベントスペースへと進んでゆく。
女性スタッフがサガラにガーディアンの説明をする。サガラは小さく頷きながらそれを聞き、和真の写真を見ると、一瞬動きを止めてぱちぱちと瞬きを繰り返した。
いきなりスピーカーから「テス、テス」って聞こえてきた。実況席を見たら、二十代後半くらいの女が、若干の渋ヅラを隠すようにしながらマイクに向かってた。
さっき会場の後ろに整列してたようなモブっぽいのじゃなくて、明らかに幹部クラスって感じの服を着て、なんか気取ってる。
ただのマイクテストかと思ったら、インカムの位置なんか調整しちゃってるから、あの女が実況もするんだろな。
近くで観覧できんのは百人か。三百人参加したうちの百人ていうことは、三分の一だろ。モニターで見るより、やっぱ生で見たい人が多いんじゃねぇの? クレームが出かかってたらしいけど、暴動が起こったりしたら俺やだよ。
そんで、さっき二階堂は二十分後って言ってたよな。もう三十分経ってるじゃん。それなのに抽選に時間がかかったのか、まだ全員が入場もできてない。段取り悪すぎじゃね?
それよりあれだよ、四條さんとコジたんが無事に生で観戦できんのか、だよ。こっちに来られたなら、並んで座りたいじゃん。心細いもん、俺。
第一試合の選手、あいりちゃんと中野千代子さん以外は、バトルフィールドの外で待ってろって言われたけど、言われなくたって当たり前だろ。人のモンスターが戦ってる場所にいるバカはねぇよ。
で、少しずつ着席していく人たちを見てたら、やっと四條さんとコジたん発見。五列目の席に着こうとしてるから、俺もそこに向かった。
「すいません、一人ですか? この最前列のチケットと取り換えてもらえませんか」
トーナメント出場選手の席と交換だぜ。イヤって言うやつはいないと思うけど、そのおじさんは快くチケットを差し出してくれた。
あー、やっとまた三人並んで座れたよ。
「よかった……二人とも、恋しかったす。牧内しおんに懐かれて大変だったんすよ」
「カズマさん。しおんちゃんはやっぱり自殺だったんですね」
暗いイケボでコジたんが言う。
「えっ、コジたん、三次元のアイドルもいけんの?」
「いえ、しおんちゃん自身にさほど興味はありません。しおんちゃんは、僕の推しキャラの声優をしていたんです」
コジたん、涙声になってるよ。そうか、そういえば、夏ごろに劇場でやってたアニメ映画の『君の声は。』で、ヒロイン役の声優をpalleteのメンバーがやるとかなんとか、そんな噂きいたっけな。
はっ! その件がpallete内でのいじめの引き金になったとか? いや、もっと前からあの事務所のアイドルのいじめ問題は囁かれてたよな。今となってはしおんも別に隠さないだろうし、あとで訊いてみよう。コジたんのためにも。
第一試合に出ない俺以外の五人は、勧められた席で観戦することにしたらしい。
反社のおっさんの横に座ってんのに、表情が変わらない美少年すげぇな。よっぽど肝が据わってんのか。
あちこち見てきょろょろしてたら、まだ昼間だから目立たないけど、バトルフィールドに七色の光が集まっては散り……って、ピンスポットでぐるぐる照らされ出した。で、その真ん中にさっきの女がマイクを持って立ったから、いよいよ始まるらしい。実況じゃなくてリングアナだったのかな。いや、どうでもいいけど。
トーナメント第一試合、あいりvs中野千代子。モンスターに的確な指示を出して勝利へと導くことができんのは、果たしてどっちのガーディアンだ?




