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終わるころ、僕らは春を見る  作者: 肌附大樹
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そして、5年前の春がくる

 須藤が『救世主』に捉えられてしまったのですぐに須藤の元へと向かった。久保田が須藤につけたというGPSは県内にあった。ここからもう少し遠くではあるが早く行かないと何をするかわからない。『救世主』のアジトならそれを壊滅したらいい。でも、それだけで済むだろうか。僕の目的は咲良を殺したことへの復讐。誰がなんと言おうと許すつもりはない。ここで決着をつけたい。5年間。長かった。なんの情報も得られぬまま5年が経ったのだ。そして、つい最近進展があった。日本で銃を持っていることは銃刀法違反になる。誰もが知っているようなことだ。カッターを持ち歩いてもいけないと子供でもわかる。咲良が撃たれた時只者ではない何かが動いていることはすぐに理解できた。ただ、その規模がわからないのだ。県の中で動いているのか、日本全体で動いているのか。それとも、世界規模なのか。そもそも咲良を撃ったそいつはどれくらいの地位なのか。壇真人の言っていた団体が大規模なら潜入は大変だろうな。

「今向かってる場所、の前に30分くらい止まってる場所がある。どうする?そこも行くか?」

「いや、多分気にしなくていい。トイレにでも行ってんじゃね?」

「は?」

「だって、人だろ?他の生命体がいるんならまだしも人なら気にしなくてもいいじゃん」

「そんな能天気な・・・」

「きっと、あいつは父親を警察が逮捕すると踏んでるはずだ。それならあいつは多少の時間は設けられるはずだ」

「ややこしくなって考えることを放棄したのか?」

「それもある。けど、大体の目星はついてる」

「俺はさっぱりだ」

「咲良を殺した犯人とあの仮面を被ったやつが同じなら一番楽だ。口調が類似してるからきっとそうだとは思う」

「で、誰が犯人なんだ」

「・・・鬼頭さんだ」

「は?冗談だろ?」

「いや、筋は通ってる。まず、天音の事件の時に壇は署を脱走してる。鬼頭さんがいる署を抜け出すのは困難なはずだ。鬼頭さん、女性の割に圧があるし」

「一言余計だ」

「そして、あのあと、安間が天音を撃った。安間は鬼頭さんに撃たれた。安間は最後に国家権力が関わると言った。それってつまり国がバックについてる職のはずなんだ。わざわざ国家権力というなら警察、検察、裁判官、知事、総理、他にもまだいると思う。そこで思い出して欲しいのが栗林さんの言葉だ。身近にいるということ。きっと、栗林さんは壇の脱走に鬼頭さんが関わってることにいち早く気づいた。鬼頭さんは深山たちのことを殺すつもりできたんじゃない。きっと、栗林さんがくるように細工したんだ。それで、栗林さんが学校に来たんだ」

「なぜか須藤もきたけど」

「事務所に来てたんじゃないか?まあ、憶測に過ぎない。でも、鬼頭さんはあの撃たれた数日後に栗林さんのお通夜であっただろ?その時、足が痛いと言ってた。ここまで筋が通る話もなかなかないだろ」

「確かにそうだけど。『救世主』の人間ならそこらへんもうまくやったんじゃないか?」

「会うタイミングとかが悪かったんだろう。身近にい過ぎて隠すのも疎かになったんじゃないか」

 きっと、そうだ。栗林さんが名前を言えなかったのは証拠が足りなかったから。僕が怒り任せに動くことは何度もあった。だから、鬼頭さんの名前を出さなかった。怒りに身を任せて鬼頭さんを殴り込みに行ってれば、5年前の事件に終止符を打てない。

「このまま、浜松インターを使おう。そっちの方が早い」

「その前にガソリン入れていい?」

「入れとけよ」

「いつも栗林さんがやってくれてたろ」


 □

 目の前には『仮面』が置いてある。怖くも感じるし哀しくも感じる。そのなんとも言えない『仮面』は私を見ているよう。

「さ、そろそろ、お前を調教して行こうか」

「・・・調教?」

「そうだ。お前には間宮晴人、久保田朝陽を殺してもらう。そのための調教だ。ま、洗脳に近い」

 椅子に縛られている手足を強引に揺らす。

「やめとけ。血が出るぞ」

「いっ・・・」

「ほら、言った通りだろ」

「な、なんで、あなたがここに・・・」

「私だからだよ。バレないと思ってたんだけどな。思ったよりも『信仰者』が口を滑らせたんだ。きっと今頃勘づいている」

「な、なんで『救世主』が鬼頭さんなの・・・」

「あ?『救世主』は私以外にもいるぞ。それと私に属性がないだけだ。くそっ、話し過ぎた。全く、お前に無駄話するつもりはない。お前には殺してもらわないといけないからな」

「いや!」

「はあ、その痛々しい顔でそんなこと言われてもなあ」

「嫌なものは嫌なの!」

「ったく、今の状況を理解しろ。おい、こいつに猿轡をつけろ」

 そこで動いたのが深山くんだった。深山くんは噛ませるタイプの猿轡を持って私に歩み寄った。

「な、なんで、深山くんがここに・・・」

「悪いけどこれでも一枚演技を噛む必要があったんだ。『信仰者』の1人だからね」

 深山くんみたいに『救世主』に遣わされるのが『信仰者』になるのだろうか。

「口を開けろ。手荒な真似はしたくない」

「じゃ、じゃあ、なんで青井ちゃんもいるのよ!」

「俺もそれは意外だった。でも、気にしなくていい」

 なんで?何が起きてるの?青井ちゃんがなんで?あんなに優しい笑顔の青井ちゃんがなんで?深山くんもなんで?

「さ、口を開けろ」

「いやだ!まだ、聞きたいことがいっぱいある!」

「ああっ!」

 深山くんは私の頬を殴った。

「いぃっっ・・・!!」

 こんなにも力があるのかと思うくらい痛かった。晴人さんの父親に殴られた痛みもあって余計に痛かった。

 深山くんは強引に私の口を開けて猿轡を噛ませた。後ろでチャックをつけて取れなくなった。

「んんんんっっ!!」

 無理矢理喋ろうとしても声が出せない。

「どうします?」

 深山くんは鬼頭さんに尋ねた。

「このまま騒がれても困る。ただ、殺しても意味がない。ここで痛めつけろ。もちろんお前ら2人で、だ」

 青井ちゃんは無言で私の前に立った。

「んんっ!」

 助けて!と目で訴える。

「安心しろ。大人しくするならこいつらに殴らせたりはしない」

「早く終わらせよう」

 深山くんは私のお腹を殴った。

「んっ・・・・・・!」

「全く。俺たちにこんなことさせていいと思ってるのか?できれば仕事を増やさないでほしい」

「深山と今同じ気持ち。演技だって大変なんだから」

 と、青井ちゃんは頬にビンタした。

 その後も声が出なくなるまで嬲られた。

 意識が曖昧になってから猿轡は解かれた。手足の拘束も解かれた。深山くんが私を立ち上がらせるが思うように力が入らずその場で倒れてしまった。

「・・・はあ・・・・・・はあ・・・・・・」

 もうだめだ。助けて、晴人さん・・・。


 □

 進んでいるのかわからない殺風景な高速道路を突っ走る。

「なあ、GPSはもう止まったままなのか?」

「ああ、このまま三ヶ日のほうだ。なんで県外には行かないんだろうな」

「行かない理由がないからじゃない?」

「・・・ん?行く理由じゃなくて?」

「あ、そっち。わざわざ県外じゃなくてもいいって思ったんだろ」

「逃げることに執着するなら県外に行った方がいいと思うんだけどな」

「・・・逃げることが目的じゃ、ない?」

 逃げるならこのままGPSが動いてるはずだ。気づかれて捨てれられた可能性もなきにしもあらずだけど。

「僕らを誘き寄せることが目的・・・」

「もしそうなら、最悪、アジトに着くかもな」

「それでやっと終われるならそれでいい」

 5年もの長い時間をやっと終わらせられる。咲良を殺したと推測できる鬼頭さんを捕らえ、犯人ならこの手で殺す。

「どうする?格闘家とかがいたら」

「僕が囮になる。久保田が持ってる銃で撃ち殺せ」

「俺が撃つのか?」

「大丈夫。練習したろ?」

「ああ、したけど・・・」

「一対一にさせておけばいい。久保田が視界に入ってなければチャンスが生まれる」

「わかった。お前の冬を終わらせようか」

「バリバリ、夏だけど?」

「・・・お前に合わせたんだろうが」


 □

 今はどれくらい経っただろうか。意識が遠のいて倒れ込んだ気がする。ここは?どこ?牢みたいなところに入れられている気がする。

「・・・だ、誰か!」

 柵みたいなやつに手をつけて声を上げる。こんなところで1人は嫌だ。早くここから逃げないと!

「うるさいなあ。起きてから速攻で叫ぶなよ」

「み、深山くん!ここから出して!」

「無理だ。こっちだって命令には従わなきゃいけない。出たかったらこの柵の隙間から出てみろよ」

「わ、わかった」

 柵の間は狭いけど出れるなら出てやる。こんなところにいてたまるか。

「んっ・・・」

 出れない。やっぱり抜け出せない。

「無理に決まってるだろ。馬鹿なのか?少しでも痩せねえと無理」

「こ、これでも、ダイエットしてる!!」

「っうるさいなあ!したところでもう時期死ぬんだから意味ねえだろ」

「・・・え?」

「あ?いや、お前の出番は間宮晴人がどうするか次第で変わるけど、ま、死ぬでしょ」

 死ぬ・・・。嫌だ、そんなの嫌だ。まだ、死にたくない。

「おいおい、そんな顔すんなよ。そんな腫れた顔で悲しまれても深海魚が海から出てきた時の顔みたいで笑えてくんだよ」

 ハハハッと深山くんは笑った。前にあった時はこんな人だっただろうか。そんな深山くんを睨みつける。

「それもいそうだ!ハハッ、写真撮ろ〜」

 ポケットからスマホを取り出した深山くんは連写してくる。

「や、やめてっ!」

 慌てて顔を隠した。

「おいおい、なんだよ。こんな写真じゃ面白くねえな」

「やめてよっ!」

「じゃ、ラスト一枚」

 撮り終わった深山くんはスマホをしまった。

「起きたか?」

 その声は鬼頭さんのものだった。

「ええ、起きましたよ。ですが、あまりいい写真は撮れませんでした」

「ま、そうだろうな」

「どうします?洗脳か調教するんですか?」

「ここで間宮晴人を殺すというならしなくて済む。だが・・・」

「私は晴人さんを絶対に殺さない!」

 何があっても、殺さない。

「って、いうと思ったからいいやつ連れてきた。こいつに犯されるといい。その後でもう一度聞こう」

「・・・こいつ?」

「まさか、僕がやっていいの?」

「ああ、君に任せるよ、安藤康くん。君なら多少の暴力、気にならないだろ?」

「もちろん。すぐに始めますよ」

 鬼頭さんは牢の鍵を開けた。安藤さんが入ってくる。鼻息が荒い。まるで興奮しているよう。

「や、やめて・・・。来ないで・・・!」

 小太りでそれでいて筋骨隆々。鼻息が荒いせいで気持ち悪く見える。

「鬼頭さんがいいって言ったから・・・ねえ、ねえ・・・」

 気持ち悪い。最悪。壁の方へと逃げる。

「あ、ちょっと待ってよ」

「きゃっ!」

 足を掴まれて前に倒れ込む。

「そういう声出さないでよ・・・。興奮するからさあ・・・」

 安藤さんは脚を舐め回すように触った。

 いや!やめて!

 そして、肩に触れ、頬に触れた。

「いっ・・・!」

 安藤さんは顔を近づけてくる。キスでもするつもりだろうか。

「や、やめて・・・」

 安藤さんの顔を反射的に別方向へと移動させる。

「おい!まだ須藤が殺すとは言ってないだろ。犯す前にも聞くって鬼頭さんが言いましたよね」

「うるさい!お前は黙ってろ!」

 安藤さんは私から離れ深山くんを突き飛ばした。

「・・・・・・っ」

「そうだった。忘れてた。安藤、少しの間我慢しろ」

 鬼頭さんは私の頬に触れた。

「いっ・・・」

「君は間宮晴人を殺せるか?」

「無理、だよ・・・」

「・・・そうか。なら仕方ないな」

 鬼頭さんは私から離れていった。

「安藤、もういいぞ」

「本当に?」

「ああ」

 ゆっくり安藤さんは歩み寄ってくる。

「鬼頭さん、須藤は俺が見ろっていいましたよね?だったら、俺の権限で安藤をどうにかしてもいいですよね?」

「・・・そうだな。お前がこういうの興味なかったらこの銃で殺してもいいぞ」

「ありがとうございます」

 そんな話も聞こえず、私は後ずさりしていた。

「いやあ、高校生に触れるなんて最高だなあ・・・」

 扉の対角線上に下がっていく。やがて、角に着いてしまった。扉側にしか柵がない。どうしても逃げきれない。

「ちょっと、逃げないでよお」

 恐怖で声が出ない。鬼頭さんと深山くんは外に出て扉を閉めた。もうこれで逃げ場がない。

「はい、捕まえたあ・・・」

 安藤さんに足を掴まれた。

「さっきの続きからでいいよねえ」

 はあ、はあ、と興奮した表情を隠そうともしない。どうしよう、このままされるのは嫌だよ、晴人さん・・・。


 □

 十分くらいしてGPSの止まった場所に辿り着いた。こんな山の中にあるのかよ。車で行けない道でもない。ギリギリまで車で行きあとは歩いていくことにした。

「体力は大丈夫か?」

「それなりにあると思う」

「しっかし、こんな場所で何をするつもりだ?」

「とりあえず、須藤と鬼頭さんがいることに違いはない。犯人が鬼頭さんであるなら。もしそうだとしたら警察は呼べない。その場合は・・・」

 警察も鬼頭さんと繋がっている可能性がある。

「どんなやつでも迷わず撃つ。俺にできるだろうか・・・」

「できなかったら、僕たち2人とも死ぬね。誰がいるかわからない。チュパカブラがいるかもしれない」

「そんなの飼育されてたら間違いなく勝てないな」

 そんなくだらない話をしていると山の中にドアのようなものがあった。この奥にGPSが止まっている。

「行くぞ」

「わかってる」

 扉を開き中に進んだ。怪しい動きがなかった。壁は全部、コンクリートのようだった。中は両隣に一つずつ部屋につながる扉がある。その奥に大きな扉が見えた。先に二つの扉を調べたほうがよさそうだ。

 まずは左側の部屋を確認する。特に怪しいものがあるようには見えない。ベットが一つあるくらいか。

 そして、右側の部屋も確認する。ここには生き物がいた。

「うわっ、本当にいるのかよ」

「チュパカブラではないんだな」

「当たり前だろ」

 他にも何かないかと探したがこれと言って今欲しい情報はなかった。終わった後でもう一度確認しよう。

 部屋を出た時銃声が響いた。そこには誰もいない。大きなドアの中かもしれない。急いで走ると通路のような場所が見えた。そこには銃を持った男の人が立っていた。

「動くな!!」

 銃を構えて男の人に向ける。その顔には見覚えがあった。それは、深山透の顔だったからだ。

「なんで・・・」


 □

 声が聞こえる少し前。

 安藤さんに足を掴まれていた。脚を弄ってくる。ふくらはぎの次は太もも。段々とお尻の方にも近づいていた。

「やめてっ!!」

 足で安藤さんの顔面を蹴った。素早く動いて深山くんのいる扉の方へと動いた。

「お願い!助けて!こんなの嫌だ!お願い!ねえ!ねえ!!」

「悪いけど君が間宮晴人を殺すと言わないと許さないらしくてね。前まではこちら側に連れてくるつもりだったらしいけど今は何がしたいのかわからない。まあ、檻の中で獣に襲われないように頑張れ」

 ほらっと目で促した。その先にいたのは安藤さんだった。急いで逃げようとするが肩を掴まれて壁に激突する。

「きゃっ!!」

 顔面も壁にぶつかりフラッとする。早く逃げないとと思っても体がいうことを聞かない。

「さっきはよくも・・・」

 またしても肩を掴み壁に激突させる。その勢いで床に座り込んでしまう。

「まだ前戯も終わってないよ」

 こんなの辛すぎるよ。

 髪の毛を引っ張り私を立たせてくる。

「いやあっ!!」

 髪を引っ張られ痛みが増す。また、肩を掴まれて壁にぶつける。今度は倒さないようにするためか壁と安藤さんに挟まれるような体勢になった。

「く、苦しい・・・」

 そんな言葉も虚しく響くだけだった。

「僕を蹴ったことお仕置きしないと・・・」

「・・・お仕置き?」

 疑問に思うも束の間、私のお尻をバチンバチンと叩いてくる。

「やめて!!」

「だめだよ。これはお仕置きなんだから」

「やめてってば!!」

 そんな言葉も聞かずに何度も叩いてくる。

「子供にお仕置きするにはこれがちょうどいいんだよ」

 と、威力はどんどん増していく。

 誰か、誰か助けて!誰でもいいから助けてよ!!どうせ届かない。こんなことを思ってもこの環境じゃ誰も助けてくれない。

 そして、その時銃声が鳴った。と同時に壁に挟まれる感覚と痛みがなくなった。何が起きたのか。

「全く、そんな長々遊ぶ暇があると思ってんのか?」

 深山くんが持っている銃口からは煙が出ていた。深山くんが撃ったんだ。でも、私にその痛みはない。もしかして、安藤さんに?

「痛ってなあ!!」

 予想も当たったらしく安藤さんは右のふくらはぎを抑えている。そこからは血が流れていた。

「悪いけどさ、さっきから扉が開閉さる音が鳴ってんだよ。ヤるなら早くヤって欲しかった」

「何してくれてんだよ!」

「なんでお前が『救世主』の団体に所属しているのかは知らないがそんなくだらないことに女子高生を使うほど暇じゃない。こっちは監視しなきゃ行けないんだからさ」

「お前・・・」

「『救世主』の目的はあくまで『子供を救う』ことだ。あんたの子供時代は知らんがそいつを苦しめればお前を殺すことも許可される。よかったな。足だけで済んで」

 これは深山くんが守ってくれたってこと?

「動くな!!」

 別の声が聞こえた。

「ほらやっぱり。間宮晴人だ」

 深山くんの目には晴人さんが映っているらしい。助けに来てくれたんだ!これで一安心できるかも・・・!

「残念だけど間宮晴人の相手は俺じゃない。こいつだ」

 深山くんは鍵を開けて足を抑える安藤さんを引き摺り出した。

「今からの遊び相手はあいつだ、安藤。好きなように殺してこい」

「お前は絶対に許さない」

「それはこのゲームが終わってからにしろ。それまで生きているかどうかだけどな」

 ほら行け!と深山くんは安藤さんを蹴り飛ばした。安藤さんは晴人さん目掛けて猛スピードで走り出した。

「あの・・・。助けてくれたんだよね?」

「は?その痛々しい顔でケツ叩かれてるの見ても面白くないだけだ」

「そ、それは・・・、どう捉えればいいのか・・・」

 私を救ってくれたのかそれとも見るに耐えなくて撃ったのか。

「そもそも今回はあの時、知沙を殺せなかったペナルティだ。本来、あの時知沙も殺して栗林?ってやつを殺すまでがプランだった。まあ、まさかここまで欲に駆られてるやつがここにいたことに驚きだがな」

「じゃあ、私があの時庇ったのは?深山くんを助けようって思って庇ったの・・・」

「あれがあっての今だ。もしあの時撃たなかったら鬼頭さんに殺されてた。でも、君が庇ったことによってここにいる。君への借りは返したつもりだ。もっと、早く撃つべきなのはわかってる。でも、うまくやらないと行けないんだ。犯されるよりはマシだと思ってくれ」

「じ、自分勝手だよ!そんな、無理だよ!怖い思いしたのに、それをマシだと思って・・・」

「犯されたほうがよかったか?」

「・・・それはもっと嫌だ」

「だよな?ここにいる奴らも『救世主』の団員も全員助けてくれないなか待ってたんだよ。家族を恐れそれでも助けてくれない惨劇から。『救世主』は救ってくれた。『救世主』がいるから今がある。自分を殺さなくていいんだ。君に迷惑をかけたことはわかってる。でも、俺はそれでも『救世主』側の人間だ」

「私を意識がなくなるまで殴ったのもそういうことなの?」

「そうだ。本当は洗脳するって言ってたのに計画が変わった。流石に知沙の友達だ。できるだけの配慮はしたつもりだ」

「・・・青井ちゃん!青井ちゃんと一緒にいた。なのに、なんで・・・」

 うまく言葉でない。だったら、なんで私のことを深山くんも青井ちゃんも一緒になって殴ったの?

「ああ、そういうこと?まあ、気にしなくていい。全て間宮晴人のためだから」

 そう言って、深山くんは視線を晴人さんのいる方向へと目を向けた。


 □

 いきなり出てきた筋骨隆々のそいつに有無を言わせぬ速さでもろにタックルを食らってしまい壁に激突した。

「お前たちのせいだ!お前たちのせいで女を最後まで楽しめなかったんだ!」

 何を言ってるんだこいつは。思ったよりもキモオタのような雰囲気を感じた。怒りに燃えるそいつは足から血を流しているにもかかわらず突っ走ってきた。こいつはなかなか厄介そうな相手だ。

 と、考えていてももう意識がふらふらしている。こいつ強すぎ。

「間宮!!」

 もうだめだ、と合図を送る。なら死ね、という目で見られたので死んだふりをして久保田と筋骨隆々の勝負を見ていた。

「お前、名前なんて言うんだよ」

 久保田が挨拶したいのかそんなことを聞いている。

「安藤康だ」

 なんとなく、ああ、という反応になってしまう。こんな人いそうだわという感慨深いものを感じた。

「お前、強いの?」

「は?お前より強いに決まってる!」

 あからさまの煽りに応える。こいつ、体で動くタイプだ。自分の欲のままに動くようなやつだ。

 久保田と安藤はなかなかにいい動きをしていた。安藤の勢いある右ストレートを久保田は華麗にかわし顔面を狙う。安藤はひたすら殴るフォームを崩さない。これは久保田1人で行ける。

「お前、さっきから本気出してないな?」

 安藤の探りに久保田は激しく動揺した。久保田、舐めすぎ。

「冗談のつもりで言ったのにか!?」

 その動揺に堪忍袋の尾が切れたのか動きが激しくなる。

「俺はお前らの相手をしてやってんだぞ?!せっかく、今が旬の女とやれると思ったのによー!!!」

 今が旬とは誰のことかと気にあるがどうせロクでもないやつだ。

 その後は動きが早くなり久保田も流すことができずストレートパンチを喰らってしまう。顔に当たりよろけあともう一発食らったら終わりだろうというところまで来ていた。

「お前みたいな奴は殺してやる!」

 殺されるのはお前のほうなのにな。呼吸が整ってきて銃を素早く拾う。そして、壁にもたれた状態で安藤の頭部を狙う。

「残念。先に殺すのは間宮の方だ」

 久保田が指で示す。安藤はそれに釣られ僕に目を向けた。急いで避ける構えをしたが、久保田が起点を効かせて右膝を蹴った。安藤の足から血が流れていることをいいようにうまく利用したわけだ。安藤は驚いた表情を僕に向けた。

「お疲れ」

 ボソッとつぶやいて銃弾を放った。それは運良く安藤の頭部に命中しそのまま倒れた。

 スッと立ち上がり久保田の元へいく。

「こいつ、起き上がったりしないよな」

「もう一発やっとけ」

 久保田の助言に従いもう一発放った。


 □

 銃声が二発聞こえた時、深山くんは私に問いかけてきた。

「君の環境がどんなものか知らないが、家庭環境が最悪な場所で育つとあまりいい人間にはならない。これが俺の持論だ。実際、俺は家庭内いじめに気づくまでにそこそこ時間が必要だった。俺は求められるままに従い生きた。天音咲もそうだ。母親が浮気して父親は海外出張で自分の居場所がないように感じた。もっと私を見てと私にも愛が欲しいと願う子供は多い。もちろん、俺もその愛が知りたかった。家族の愛というものを。間宮晴人もそうだ。夏なのに長袖を着ている。決して悪いことではないが一般的には半袖だ。日焼けがだめな人も中に入るが。お前はその理由を知っているはずだ」

 そして、と深山くんは続けた。

「そんな奴にも救いが必要なんだ。逃げたところで場所がない。児相に相談する手もある。でも、それを嫌がる人もいる。生活保護もそうだろ。生活保護を受けたくなくてホームレスになる奴もいる。お前はどうだ?その人の性格を疑い敬遠する。関わらないでと。その人を取り巻く環境を知ろうともせずに。お前ならわかるはずだ。クラスで天音咲を殺した疑いを、罪を着せられたこと。それを経験したお前なら少なくとも俺たちのことがわかるだろ?」

「・・・やめて」

「あ?」

「それと一緒にしないで・・・」

「ああ、悪い。もう時間だ。今から間宮晴人を殺す」

 深山くんは私の話も聞く気はなくて、そこにいるのであろう晴人さんを睨みつけていた。銃を構えて歩き出した。

 私は疲れて座り込んでしまう。安藤さんが怖かった。さっきの話だと、晴人さんは生きてる。深山くんが動くということは安藤さんは動けない。

 どうなっちゃうんだろう。このまま助かるのかな。

「ここで何してる」

 その声で視線を上に向ける。そこには青井ちゃんがいた。

「もう動ける気がしなくて」

「あっそ。まあいいわ。そこで惨めに死ね。間宮晴人は鬼頭さんが殺すよ」

「・・・ねえ、なんで私を助けたの?」

「・・・は?」

「クラスでいじめに遭ってた時青井ちゃんたちが助けてくれたじゃん」

「知るか」

 覚えてない?それとも、そんなつもりはなかった?

「答えてよ・・・。助けてくれたのになんで暴力なんか・・・」

「めんどくさいな。もう忘れろ。黙ってろ。私はもう行く。鬼頭さんに深山と協力しろって言われたばかりなんだ」

 スタスタ行ってしまった。なんで、忘れてるの・・・。なんだろう、この違和感は。


 □

 深山は銃に恐れることもせず歩いてきた。

「お前はここで殺す。それが命令なんでな」

「やっぱり、読みは当たってる」

「そうか、それはよかったな。俺はただ自分への平和を享受したいだけだ。そのための犠牲はつきものだろ?」

 銃を使う気は無いのかおろしたままだ。何か細工をしてくるのか知りたいが見た目ではあまり変化を感じない。

「お前は年中長袖なんだってな」

 深山と雑談するつもりはない。須藤を奪還して仮面のそいつを殺すだけだ。

「おいおい、少しくらい話そうぜ」

「わかった、でも、その話には乗れないな」

「そうか・・・。そりゃそうだ。親につけられた傷なんて知られたくないもんな」

 なんで深山が知っている。家族について話した覚えはあれど傷については触れなかった。

「全部聞いたんだよ。いいか?俺を殺さなきゃ次には進めない。須藤も今頃犯されてるかもな」

「は?」

「あんたの父親に」

 父親に?何を言ってるんだ。

「お前の父親、最高だな。俺の家族よりも狂ってた。そりゃあ、両親を殺したくもなるよなあ」

 須藤にまた傷を負わせたのか?でも、父親はすぐに警察に捕まったはずだ。・・・あのGPSが止まったタイミングで父親を連れてきたのか?

「お前も俺たちと一緒だなあ。俺たちと一緒に『子供を救う』んだ!そしたら子供の平和は保たれるぞ!」

「悪いけど、俺は咲良の復讐をしたいだけだ」

「いつまでも過去に囚われるのか?」

「ああ、永遠に引き摺るさ」

「交渉決裂だな」

「僕からの質問もいいか?深山があの時青井を殺さなかった理由はなんだ?」

 有無を言わせず質問する。

「は?」

「深山があの時言った言葉は嘘じゃないはずだ。『知沙を殺せない』この時の声音は明らかに撃てない時の発言だった。そして、君は言った。『警察に自首をする』と」

「ああ、なるほど。俺も最初はそのつもりだったさ。でもね、国家権力はすごいんだ!『救世主』の中にも国家権力に関わる人はたくさんいる。この県の知事もそうらしなあ」

 それまた新しい情報を。

「俺はその時に気づいたんだ。家族がいなければこんなふうにはならなかったとね。ただ望んでもないのに生まれて気づけばそれが当たり前と教わった。自分の立場というものも存在した。ただ生まれただけなのに。そんなの理不尽じゃないか?だから、俺はこの手で壊せるものは壊そうと決めた。知沙のことは本当に好きだった。あんたのいう通り嘘じゃない」

「なら、なんで、青井との約束を守らない。『待ってる』と言った青井の顔を忘れたのか?お前はその時の顔を知っているはずだ。それでも、『救世主』に関わり続けるのか?」

「この仕事が終われば問題ないんだ。あんたら2人を殺すことが上の命令だ」

 深山は銃を素早く構えて久保田を撃った。久保田はバランスを崩し倒れた。当たった場所からは血が流れている。

「久保田!」

 叫ぶのも遅かった。これ以上の話をするつもりはないらしい。

「深山、お前を殺す。依頼に来たのも『救世主』の目的があったからだろ?」

「正解!」

 喜ぶように言った。そのまま走って右ストレートを決めにくる。足で蹴り飛ばし距離を取る。ここで銃を使うのも簡単。でも、なかなか口を割らない上の存在が1人とは限らない時点で安易に撃つことができない。

「お前も随分焦ってるように見えるなあ?」

「深山の話が本当なら須藤が危ないからな」

「それだけじゃないだろ?」

「うるさい」

 怒りが増してさっきよりも強く蹴り飛ばす。その勢いに負けた深山は大きく飛ばされた。その後ろに青井がいた。

「・・・なんで?」

 なんでここに青井がいる。まさか、青井も『救世主』の1人なのか?

「苦戦してるのね。深山」

「お前・・・、ああ、高校生1人じゃ武が悪い」

「その割にはあのイケメン倒れてるけど?」

「見てるだけでイラっとしたから撃った」

 どうやら久保田のイケメン度は敵であってもイラっとするものらしい。

「非モテの僻み?」

「これでも彼女はいる」

「・・・そう。で、あと1人かしら?」

「ああ、協力してくれるか」

「そのためにきた」

 何かが違う。もともと『救世主』の人たちで僕たちに『救世主』を彷彿させるためにカップルを装ったのか?いや、違う。

「お前、青井じゃないな?」

 賭けに出た。ここで青井じゃないと証明するのは難しい。

「・・・・・・バレるのが早いねえ。流石は探偵」

 青井のふりをしていた人がマスク破った。緻密なマスクだ。ぱっと見でもずっと見ても気づくことはできない。

「私は篠原ハル。よろしく。と言っても、すぐに終わるけどね」

 失礼だがブスが出てくると思ったがそうじゃなかった。モデル級の美人だった。こんな人まで『救世主』にいるのか。悪いが咲良の方がいい。何言ってんだ。

「2人で間宮晴人を殺そう。そっちの方が早い」

「了解」

 篠原は片手にナイフを持ち、深山は銃を持っている。篠原はサッと距離を詰めてきた。ナイフを顎めがけて振りかざす。が、ぎりぎりのところで交わした。そして、ナイフの持つ手を掴み腹蹴りを食らわせる。

「うっ・・・・・・!!」

「悪いけど、女子だからって手加減はしない」

「これでも高校生よ」

 女子じゃん。と突っ込みたくなったが突っ込んでいる暇はない。決して、暇があれば突っ込むという訳でもないのだが。

「ぐっ・・・!」

 深山がよろけた。銃声がなり篠原も深山もその音の方へと目を向けた。久保田が深山の脚を銃で撃ったのだ。最後の時のために銃を2人とも持っていてよかった。これも栗林さんのおかげだ。栗林さんは裏社会とも繋がっているため、といっても勝手に突っ込んでるだけ、だが、銃の売買を行いそこそこ銃弾も銃も買っていたのだ。栗林さんの悪評の一番の原因はこれだ。裏社会に繋がってるかもという噂が流れたからだ。

 篠原にもう一発腹パンして手に持つナイフを深山に投げた。久保田に鉛玉を撃たせないためだ。

「久保田!」

「・・・・・・っ」

 久保田は撃とうとしない。

「・・・無理、だ」

「・・・久保田!ここでやらなきゃ久保田が死ぬんだぞ!?」

「それでも無理だ。俺は嫌いなんだ。『救世主』の話を聞いてからずっと。子供が親を殺すという掟が、嫌いだ。倫理に反してる。親の歳まで生きれない人だっているのに・・・」

 それは、久保田が経験したことに関係するんだろう。久保田の彼女が病気で早く死んだことに。

「・・・人は死ぬ。わかってる。でも、俺はもっと普通にこれからもいつまでも一緒にいるものだと思ってた。ただ普通に大人になるものだと・・・」

 今も亡くなった傷が癒えないのは知ってる。だから、彼女を作ろうとしないんだ。それ以上の人を見つけられないから。

「でも!この事件はいつもいつも殺す!死ね!の繰り返し!おかしくないか?なんで、家族を殺そうって思うんだ!逃げ場はたくさんあるだろ!児相とか施設だってある!なのに、なんで!人を殺してまで自由になろうとするんだ」

 久保田は銃を向けながらも苦しそうに声を出す。今まで何も聞かなかったのが悪いのかも知れない。

「どんな形でも親と過ごせるのが当たり前なのに、それができない人だっているんだぞ!」

 なのになんで産んでくれた親を殺すんだよ、と言われているような気がした。

「そんなの知らん。逆もまた然りだろ?家族を死ぬほど恨むやつはいるんだよ」

 深山は聞く耳を持っていない。久保田を撃ったのにしゃべっていることの方が驚いているようにもみえた。

「親って自分勝手だろ?子供に選択の権利を与えない。親同士で勝手に決めて解決した気になってる。いつも子供は邪魔者なんだよ」

 深山は自分の過去がそうだったと手に力をこめている。このままじゃ久保田が殺される。先に深山を殺すしかない。すぐに銃で狙いを定める。篠原は手を離そうとするが止めない。

「・・・なんてな。今の大体嘘」

 序盤だけ本音だったんだろうなと思った。いきなりそんな話するようなやつだとは思えなかった。

 深山の頭部を狙いすぐに銃弾を放った。深山は逃げるタイミングを逃し壁に血飛沫を上げて倒れた。

「きさ・・・・・・まっ・・・」

 篠原は顔面を殴ろうとしたがすぐに止まった。それは久保田の撃った銃弾が篠原の背中にあたったからだ。

「な、なんで・・・」

 撃たれたことがないのか、すぐに倒れ込んでしまった。

「僕たちがどれだけ一緒にいるか知ってればこんなことしないのにな」

 とカッコつける。久保田ばっかりカッコつけてもらっては困るから。

「なあ、この血糊どうする?」

 撃たれた部分の血糊を取り出して言った。2人して篠原を見る。

「や、やめろ!このまま死ぬわけにはいかない!み、深山を!よくも!」

 うつ伏せになりながらも訴えかける。

「あんたらのボスは鬼頭さんか?」

 篠原を仰向けにして問う。

「・・・は?いうわけないね」

 そうか。なら仕方ないと久保田にやっちゃって、と目で促す。

「マジで?」

「まじ」

 その反応に困惑な表情を見せる篠原。美女はどんな表情でもサマになるらしい。

「ちょ、ちょっと、何を、するつもり・・・」

 久保田は容赦なく篠原の顔に血糊をかけた。

「や、やめ・・・!やめろ・・・!」

 嫌がる篠原に一発銃弾を打ち込んだ。床は真っ赤に染まった。

「これで、いいのか?」

「ああ、あとは須藤と鬼頭さんだ」

 あの時否定していない時点で確定したようなものだった。他に人がいないことを望む。


 □

 扉が開きっぱなしだったことに気づき牢からでた。ここから晴人さんは見えない。どこにいるのだろう。右に行けばいいのか左に行けばいいのか。深山くんは右に行った。右に晴人さんがいるのかも知れない。

「誰が外に出ていいと言った?」

 後ろから声がした。鬼頭さんだ。この声の感じは絶対にそうだ。後ろを振り向くとそこには予想通り鬼頭さんがいた。銃を片手で構えている。

「・・・あ」

「逃げるなら今のうちだぞ?ま、もう死ぬと思うがな」

 嫌な予感がして晴人さんがいると思われる場所へ全速力で走る。お腹や脚などいろんなところに痛みがあるけど気にしている暇はなかった。

「・・・全く」

 そんな声が聞こえたが気にせずに走った。ここで死にたくない。もしここで死ぬのなら晴人さんにわがままを言って死にたい。恋したんだ。あの時に、助けてくれたから。私も咲も久保田さんも庇って先に逃した。あの時の姿はカッコよく見えたんだ。痛みを我慢しながら進む。走る。止まらない。広い場所についた。晴人さんを見つけた。止まることなく走る。晴人さんは久保田さんを盾にして逃げようとした。けど、私の方が早かった。晴人さんはいつもそうだ。予想してないことが起きてそれが私だとお化けを見た時のような表情で声を上げる。失礼だ。だから、今日こそは捕まえた。いつも嫌々許してくれてるようだけど今回もそれでいい。私は晴人さんの首に腕を絡めて抱きついた。勢いが余って床に倒れこんだ。怖い。怖いけどこのままじゃだめだ。晴人さんに最後のわがままを言おう。

「・・・須藤?」

「いい加減、名前で呼んでください・・・」

 拗ねたように言った。鬼頭さんはきっと殺すことに容赦はしない。情はない。なら、晴人さんにわがまま言って困らせて少しでも私を思い出させたい。独占欲があるのかも知れない。それでもいい。それでいい。

「・・・無理だ」

「でしょうね。でも、よかった。やっと会えた」

「お前が大丈夫そうでよかった」

 そんなことない。襲われてたんだ。好きでもない人にお尻を叩かれたんだ。そんなの大丈夫じゃない。

「・・・そんな、わけ、ない、じゃないですか」

「まあ、そうか。お前は父親にあったのか?」

 父親?

「なんですか?それ」

「ならいい。もう離れてくれ」

「離しません!」

 無理やり抱きつく。さっきよりも強く。離れたくない。晴人さんの温もりを感じたい。

「私は、あの日、鬼頭さんに言われてここに来ました。それはよかったことでもあり悪かったことでもありました」

 そうだ、晴人さんに会えたことは嬉しかった。今はこんなに好きなんだ。でも、晴人さんの周りではいろんなことが起きた。もちろん、私にも。現にこの状況がそれを語ってる。

「でも、会えてよかったと心から思ってます。晴人さんたちが一番です。私が心を開くことができたのは」

 今までの私ならこんなふうに抱きついたりしないだろう。人の目を気にするから。でも、晴人さんたちなら許しくれる気がした。

「わがままをたくさん言いました。晴人さんをいじりました。調子乗っていろんなこと言いました。結局、そのわがままが叶うことはなかったです」

 私の気持ちにも気づいてもらえず。

「だから、最後のわがままを言わせてください」

 痛い体を起こし、晴人さんに向かい合う。晴人さんは助けるように久保田さんを見た。晴人さんの頬を触り私と向き合わせる。戸惑ってる。

「目を逸らさないでください、もう時期私も終わると思います。だから、お願いです。私のわがまま聞いてください」

 目を閉じて晴人さんの唇に向かって顔を近づけた。躊躇いはなかった。晴人さんの唇と私の唇を合わせた。もっと長くこうしていたい。もっと、晴人さんを感じていたい。でも、そっと唇から離れた。

「・・・・・・うっ!!」

 銃弾が当たったんだ。今の痛みは絶対にそうだ。もう終わりだ。最後の力で晴人さんに抱きついた。もう私はどうなってもいい。だから、こうやって・・・。でも、力がもう残ってなくって晴人さんの横に倒れた。仰向けになって晴人さんを見る。戸惑ってる。そうだよ。いきなりキスしたんだもん。

 晴人さんの袖を掴んで目を見る。

「ありがと・・・う・・・・・・ございまし・・・た・・・」

 もう終わりでいい。私は目を閉じた。さよなら、久保田さん。さよなら、晴人さん。栗林さん、咲、今からそっちに行くね。


 □

 いきなり出て来たと思ったら須藤はキスをしてきた。そして、鬼頭さんに撃たれた。挨拶なんかいらない。最後の挨拶なんかいらない。お前がそんなこと言うな。これが最後になるなら名前くらい呼ぶべきだったな。今の僕が呼んでいいのかは知らないけど。

 唇を袖で拭って立ち上がる。

「やっぱり、鬼頭さんが咲良を殺したんだな?」

「よくわかったね。って、もう気づくと思ってたけど正解だった」

「答えろ。なんで殺したんだ」

「掟を守らなかったから」

「そうじゃない!僕は経緯を知りたいんだ」

「なるほどね。ま、いいか。安心しろ。軽く説明してやるよ」

 良心的だと思った。


 咲良と鬼頭さんは咲良が2年生の時に接触していたらしい。咲良の家庭は世間体を気にするタイプだった。子供が良い高校に行くこと、身だしなみ、言葉遣い、礼儀、何に対しても『良い人』、「お利口さん』を強要した。高校生にもなれば反抗期が来る。自分らしくなりたい。自分らしく生きたい。でも、今までの生活で周りに迷惑をかけないように人の目を気にして生きてきた咲良は自分らしさがなかった。アイデンティティの拡散だ。中身もなく生きてしまい、親の言いなりになっていることに気づいた咲良は何かが壊れたのだ。今までのこと、両親のこと、それらが怖くなって咲良は逃げ出した。この頃の僕はスマホを家で使うことは禁止されていたため、電話に気づかなかった。電源を切っていたからだ。そして、夜中に逃げ出したせいで警察に補導。そのとき、初めて鬼頭さんに出会ったそうだ。自分が思っていたこと、今思っていることを鬼頭さんに打ち明けた。誰かに話さずにはいられなかった。それからは何度か会うようになった。どうやったら自分らしく生きれるか相談するようになった。そして、ある時、鬼頭さんは『救世主』として動き出した。「君が自分らしく生きられないのは親のせいだ。逃げても意味がない。ここで終わらせたほうがいい」いつの間にか語られていたのだ。乗せられた咲良は両親を殺すことを決意する。夜中、両親が寝静まった頃に部屋を開けてナイフを両手で握る。でも、咲良にはできなかった。ナイフを落とし両親に気づかれそれが何を示すのか両親は分からなかった。咲良は全てを話した。自分を変えるために両親を殺そうとしたこと、自分が何なのか分からなくなったこと。人の目を意識していたこと。そして、好きな人がいること。しかし、それらは全て『救世主』には不都合なこと、いや、鬼頭さんとしては不都合極まりないことだった。


「だから、殺したのか?」

「・・・ああ」

「そうか・・・」

 やっぱり、咲良は根が優しいんだ。僕はいつも甘えてきた。その優しさが、咲良だと思った。咲良を傷つけないように接していくうちに上品さがあったのは確かだ。でも、苦しそうで、だから、それを壊したかった。咲良が見たかった。咲良のもっと奥底にある良さが知りたかった。それはすなわち・・・

「僕のせいだ・・・」

 僕が咲良の内面を知らなかったから。バームクーヘンみたいに側面だけが綺麗で上から見れば空洞の、それに近いものがあったのだ。なのに、僕はそれを知ろうともしなかった。

 咲良が殺されたのが『救世主』が関係すると知った時、それに関係する人は全員殺す。そう心に誓った。咲良を殺したのがどんな人であれ身近な人であれ殺す。この手で絶対に殺そうって決めた。でも、一番許してはいけないのは誰がなんと言おうと僕のせいだ。

「殺す・・・」

 そうだ。もともと、殺すつもりだったんだ。こいつを殺せばすぐに終わる。長い冬もやがて春になる。それを望んだのだ。それが僕への救済だと。

「あんたを殺す。そして、完全に終止符を打ってやる」

 銃を構える。残る銃弾は二発。装填時間はくれないはずだ。ここで決着をつける。

「待ちなよ」

 昔から聞き馴染みのある声がした。ありえない。こんなところでそんな声が聞こえるはずない。幻聴だ。頭が狂いはじめてるんだ。早く終わらせる。

「5年ぶりだね。晴人」

 幻覚だ。いるはずがない。5年前に、ナイフで滅多刺しにしたはずなんだ。それなのに今ここで生きてるはずがないんだ。

「忘れちゃった?私だよ?お母さんだよ」

 なんでここにいるんだ。忘れるわけない。あの忌々しい家で死んだはずだ。怒り狂っていたのもある。でも、確実に心臓を刺した。今でもあの時の感覚は忘れない。

「・・・なんで?」

「死んでないからよ。晴人に刺された時はどうなるかと思った。でもね、助けてくれたの。鬼頭さんにね。いつか会わせるから待つようにってベットを用意してくれたのよ」

 あの部屋にあったベットだ。使われていると思ったがまさか母親が使用してたのか。

「俺も忘れないでほしい」

「なんで、お前まで・・・」

「お前って失礼だな。まあ、今更叱ったりはしないけど」

 父親までいるのか。GPSが止まったのは多分、父親を警察から奪いに行ったんだ。鬼頭さんの権力ならきっと余裕だろう。壇真人が脱走したのもこれで確信に変わったな。

「俺たちは晴人に悪いことをしたと思ってる。だから、やり直そう。今まで晴人を思い出さない日はなかったよ。だから、もう一度、家族3人でやり直さないか?」

 やり直す?そんなことするわけないだろ。そんな、こと、できるわけがないだろ。

「さっきまでは母さんが死んだと思ってたけどでも、ここにいたのならよかった。どうだ?俺も心を入れ替える。また新しく家族になろう」

 入れ替えるわけないだろ。今までの過去が消えるわけじゃない。咲良が戻ってくるわけじゃない。新しく家族になったところでそこに家族の愛を感じることはできない。もう、終わりにしよう。ここで両親と、鬼頭さんを殺して終わろう。

「無理だ。俺が許すと思うのか?いいや、それはできない。過去は消えない。咲良も戻らない。そんな世界で俺はあんたらと過ごしたいとも思わない」

「なんで?やっと家族が再会したんだよ?一緒にやっていこうよ」

「苦楽を共にしよう。これからを生きよう」

「ふざけるな!!お前らがやっと過去の出来事を忘れることはできない。忘れられない。消えない。消えることは一生ない。トラウマを、タトゥーのように残り続ける。舐めたこと言うなよ」

 こんな馬鹿げたことに付き合ってられるか。鬼頭を殺してこいつらも殺す。両親を先に殺すかどうか・・・。

「晴人は俺たちと一緒は嫌なのか?」

 嫌に決まってる。

「お父さんは、悲しい・・・」

 くだらない。父親も母親も嫌いだ。

「母さんを殺そうとしたこともなかったことにするからさ」

 始めたのはどっちだと思ってる。

 もういい。埒があかない。

「まずは父親だ。生かすべきじゃなかった」

 父親に標準を合わせる。ここで殺そう。なんて、大嘘だ。

「・・・・・・なっ」

 父親に合わせていた標準を鬼頭さんに合わせる。きっとここで両親を殺していれば鬼頭さんは逃げ続けるだろう。

「これで俺の復讐は終わりを迎える」

「それでいいのかっ・・・・・・、あんたが私を殺しても後で、そこの2人を殺せば『救世主』の一員になるんだぞ?・・・お前はそれを嫌がってたはずだ・・・」

「咲良を殺したやつに俺の気持ちを理解されてたまるかよ」

 そして、もう一度銃弾を鬼頭さんの頭に撃った。鬼頭さんは床に倒れて動かなくなった。

「なんてことをしてるんだっ!まさか、晴人がここにいる人たちを・・・」

「あんたが嬲った須藤はあいつに撃たれた。そもそも、あんたが須藤を傷つけてる時点で家族に戻る気はない」

「晴人っ!多くの人を殺したの・・・?」

「そうだ、もういいだろ。こんな環境に生まれてなければもっと人間らしい感情はあったのかもしれないのにな」

 銃弾を装填した。動揺を隠せない両親を尻目に須藤を見る。まだ耐えてくれ。必ず助ける。お前は生きていいんだ。僕らのような人間になる必要はない。お前みたいに根が明るくて人おもいなやつは生きていいんだ。待ってろ。すぐに終わりにしてやるから。

「待て!!」

 久保田は銃を掴みながら面と向かっていった。

「離せ。すぐに終わらせる」

「さっきも言ったろ。摂理に従えって」

「十分従ってる。俺が両親を殺すことは摂理に反してない。ここで全部を終わらせたいだけだ」

「それでも倫理に違反してる。・・・全部を終わらせる?よりを戻そうとしてくれてるんだぞ?お前はもう大人だ。大人の付き合いをするべきだ」

「あの時から成長は止まってるかもしれない。でもな、いつまで経っても呪縛は消えない」

 親の怒鳴り声、暴力、暴言。いきなり陳謝されても困る。これからはなかったようになんて生きていけない。

「もしもここで両親を殺すなら今ここで俺を殺せ」

 僕の持つ銃を久保田は自分の胸に押し付けた。

「ここで!俺を殺してから家族の縁を切れ!お前が憎くてしょうがない両親を殺せ」

「離れろ。久保田が両親のために犠牲になる必要はない」

「いいや、俺はここで死ぬ覚悟はできてる。間宮の両親がいたのは想定外だったが鬼頭さんに殺されている可能性は十分にあった」

 だから、今殺せと促す。

「間宮、お前が俺に探偵事務所ウィズで働こうって誘った時のことを覚えてるか?」

 探偵事務所に誘ったのは僕だ。いつか絶対咲良の事件を解決すると、だから、協力してほしいとお願いした。もちろん、最初はただ真実が知りたかった。真実を知って犯人がいなくなることを願った。

「お前は俺に言った。『僕は1人じゃ何もできない。だから、一緒に来てほしい。久保田となら大切な人を失った痛みを知るもの同士なら協力し合える』そう言った。そして、お前は『もしも、僕が道を踏み外したときは必ず連れ戻してほしい。それができなかったら栗林さんも含め僕を殺してほしい』そうやって、お前は言ったんだ。事件は解決した。最悪なシナリオではある。でも、これ以上、罪を増やす必要はないだろ」

 1人じゃどうしようもできない時、いつも久保田がいた。栗林さんがいた。3人で協力して依頼を解決した。どんな時も、苦楽を共にした。逃げなかった。めげなかった。支えあった。栗林さんが亡くなってから何かが崩れたんだ。いつも頼りながら、それでもこの3人ならとやってきた。でも、もういない。だから、どうなってもいいと思ったんだ。咲良のためなら悪魔になろう。人を殺すことに躊躇いのないサイコパスになろう。殺戮者になろう。そうやって生きてきた。長く感じるこの時間で僕は確かに悪魔になった。壇真人を撃った時サイコパスのようだった。この山の中にきて人を撃ち殺した時殺戮者のようだった。

 でも、僕は久保田を撃てない。『お前が本気なら俺もやるよ。どんな地獄でもついていってやる。でも、お前が道を踏み外した時、どんな手を使ってもお前を引きずってでも戻してやる』そう言って、一緒についてきた親友を、仲間を、家族のような存在を殺せない。殺せるわけがない。

 思い出したよ、久保田、栗林さん。ウィズってただ一緒にいるだけの仲間じゃないんだ。ウィズって家族のようにずっと一緒で誰かが欠けても誰かが踏み外しても必ずそばにいる、戻ってくるそういう意味だって創設当初に言ってたな。栗林さんが意気揚々と高らかに言ってたな。僕だけが馬鹿にしてように笑ったんだ。

「・・・ははっ、ははははっ、ははは・・・、あ、あああああああぁぁぁぁぁぁぁあああああああぁぁぁああぁぁ・・・」

 膝から崩れ落ち思い出す。久保田はどんな時でもそんなやつだった。いつも正面からぶつかる。栗林さんだって一所懸命にデータを集めてくれた。いつの間に僕は、1人で全部やろうと思ってしまったんだ。

「俺たちは探偵事務所ウィズのメンバーだろ?こいよ。俺たち探偵らしく、な?」

 手を伸ばしてカッコよく言う。やっぱりうざいやつだ。隣にいるとカッコよく見えなくなる。

「そうだな。・・・俺たちは探偵だ!」

 手を握り返し勢いよく立ち上がった。両親を見る。探偵らしくいこう。3人で。

「戻ってきたか?」

「ああ」

 久保田と目を合わせる。以前、父親と再会するときに提案されていた件を思い出す。

『俺たちで自殺に導けばいい。どんなやり方でも周りが自殺だと判断するようなやり方なら問題ない』

 流石はゲスいやつだ。いつも通りの久保田で安心した。僕たちは探偵だけど依頼のためなら闇社会とも繋がるような探偵だ。今までらしくやろう。そして、今度こそ終わりにしよう。

 銃を構える。残るは六発。両親を山の下に落とせばいい。

「何をしてる。俺たちと一緒にやり直そう。悪かった。だから、一緒に変わっていかないか」

「相変わらずだな。その言葉に従うほど子供じゃない」

 銃弾を放つ。この施設の奥に行かないように打ち続ける。二発、三発と撃てば両親は怯んだ。

「お前、両親を殺すことがどれだけの悪行かわかってるのか!」

「わかってる。母親のその顔の傷をみれば自分が何をしたのかくらいはな。でも、もういいだろう。もうそんなに生きてられないんだから」

「お前・・・」

 久保田も銃弾を放った。

「今なら逃す。すぐに逃げたほうがいい。出ないと、この鉛玉をあんたらの頭にぶち込んでやるから」

 両親はもう動けそうになかった。意を決して母親だけが逃げ出す。

「おい!」

 父親は慌てて追いかける。僕は父親を久保田は母親の足を鉛玉で撃った。それでも、玄関を飛び出し逃げようと必死だ。そのまま真っ直ぐいけば崖のような山だ。落ちればタダじゃすまない。見つかることもない。鬼頭さんには感謝したほうがいいのかもしれない。最高の場所だ。

 僕らも玄関を開ける。そこまで遠くにはいなかった。両親は隠れる場所を探しているようだった。僕らに見つかればかくれんぼも意味がない。僕らに気づいた両親は必死で逃げた。近くにあった石ころを両親に投げつける。当たった父親は僕らを見た。

「お疲れ」

 その時には僕も久保田は動き出していて挟み撃ちする形になっていた。もう逃げ場はない。手持ちの武器もない。この崖のような山を降りる以外に方法はない。袋のネズミだ。

 両親は少しずつ後退する。母親が後ろにいる。母親は後ろの崖のような山に気づかなかったのか足を滑らせた。父親は咄嗟に捕まえた。まるで屋上から自殺する人の手を掴んでいるよう。

 両親は両親の愛がある。でも、僕には家族の愛がない。僕は家族の愛を知らない。今までの惨劇を思い出せばそこに愛はなかった。家族愛なんて僕なんかが知ることはできないのだ。

「哀れに死ね」

 父親が必死に捕まえる母親の手首に鉛玉を放った。見事に命中して力を緩めた。そして、父親の手首にも鉛玉を放った。すると当然母親は捕まるところがなく下へと落ちていった。

「お前も落ちろ」

 父親が振り返った時背中を蹴った。父親もバランスを崩し母親と同じように下へと落ちていった。遅れてドンっと鈍い音がした。きっと、両親が地面についたのだろう。ここから助けを呼ぶことは難しい。最悪、餓死か出血死だ。

「これで終わったのか」

「僕の目的は咲良の復讐。それが終わったならそれでいい。咲良に何があったのかも知れた。その時点で終わったようなもんだ」

「これからどうする」

 探偵を続けるかどうかの話だろう。

「続けるよ。『救世主』のようなことはしない。僕たちは僕たちでやっていこう。救いを求める子を助けようか」

「この死体の山はどうする?」

「ここが『救世主』の一つの拠点なら問題ないだろう。きっと、隠蔽する。この県知事も『救世主』なんだろ?だったら都合の悪いことは隠すだろうな」

 そして、僕らは大きな扉を開けた。深山、篠原、安藤、鬼頭さんがわざわざあの場で戦ったのはきっと隠したい何かがあるから。そう思って開けてみたものの、『仮面』しかない。それはなんとも悲しそうで哀しそう、そして、怒りを感じた。それ以外の情報はあまり得られなかった。宗教のように信仰していたのかもしれない。僕らの前によく現れた鬼頭さんの被っていた仮面もそこには置いてあった。それだけを持ち帰ることにした。他に目ぼしい情報はなかった。

 これで僕の5年前の冬が終わったのだ。

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