表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終わるころ、僕らは春を見る  作者: 肌附大樹
2/5

気づかぬ連鎖

 ここはどこだ。家?なのか?両親がいる。ああ、そうだったな。こういう場所で生活してたんだよな。

『良い加減にしろ!お前はいつまで俺を困らせる!!』

『あなた、やめて!』

『うるさい!こいつが何もしないのが行けないんだ!』

 父親の怒声が聞こえる。母親は必死に止めようとする。

『これは晴人のためだ!言ったよな?お前が俺を裏切るなら体に刻み込むと』

 やめろ、なんの記憶だ。思い出したくない。僕の腕に触れるな。触るな。やめろ。刃物は嫌いだ。

 刃物が僕の腕に当たる。

 やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ・・・・・・!!


「・・・・・・っ」

 目を覚ますとそこは自分の部屋だった。夢だったのだ。最近はこんな夢をよく見る。壇や安間が殺された日、あの仮面をつけた人に『お前はこちら側の人間だ』と言われた時からずっと思い出したくもない記憶が蘇る。俺はただ咲良の復讐を果たすだけだ。私情なんかどうでもいい。いけない、第一人称を俺呼びしないって決めたはずなのに。つい、出てしまう。

『ねえ、そろそろ俺呼びやめたら?』

『どうして?』

『なんて言うかさ、無理してる気がする』

『無理?』

『うん、晴人はさ、僕の方が似合ってるよ。だって、俺って言うほどの印象とは違うじゃない?』

『それはそれで・・・傷つくというか・・・』

『私、晴人には無理してほしくないな・・・』

 その顔を見て僕に変えたんだ。それから咲良はやっぱりそっちの方がいいと喜んでくれたんだ。慣れたものを変えるのは大変だったけど咲良のためなら頑張れた。実際、僕も変えようって思っていたのだから。文句はなかった。

 探偵事務所ウィズで働く僕と久保田、色々な責任も取ってくれる栗林、主に久保田と一緒に仕事をしているのだがウィズは元の事務所を改良して僕らも泊まれるようになったためにほとんどの荷物は事務所にある。部屋は三つ、依頼人と話すときは少し広めで3人が仕事するための場所も設けてある。朝食とかも僕らのためにその場所を設けてある。事務所になんでも揃えてくれた栗林には感謝しかない。咲良の真相を知るまではいますと断言したところ栗林は部屋を用意してくれた。事務所で3人、共同生活をしているわけだ。

 部屋を出て食卓に座る。前の席に女がいるが無視をして久保田の隣に座る。

「おはようございます」

「おはよ」

 短く女に挨拶をする。・・・女?・・・・・・・・・女!?

「・・・は!?」

「朝からどうした?」

「いや、どうしたじゃない。なんで、須藤がいるんだ」

 前の席に座るのは須藤凛だった。この前咲良の事件との関連性が明確になった事件だ。依頼人としてきてその親友である天音咲が安間教師に殺された。その事件以来何もないのにちょくちょく来るようになったのだ。だとしても・・・

「なんでこんな朝早くから」

 今までは学校がえりに来ることがあった。目的は久保田だろうと思っている。久保田は小学生の頃からなんでもできた。故にモテた。学校で一番の好青年で爽やか、王道イケメンなのだ。できれば隣にいたくない。だって、隣歩いてるだけで久保田がチヤホヤされるんだから。よくない。神様がいるならこんな相棒を作ったのは理不尽だ。

「会いたかったんで」

 はいはい、久保田にね。

「おいおい、せっかく女子が来てくれてるんだからもっと喜べよ」

 そう言って、朝食を僕の前に置いたのは栗林だ。毎日朝食と夕飯を作ってくれるのだ。と言っても、本業のフリー記者の仕事で金が入らないから僕らの仕事で入ったお金を経費として事務所が使えるわけだが。だから、と言うわけではないがそれくらいしてもらいたい。

「そうですね・・・」

 全く感情がこもらない。なんで毎日のように来るんだ。

「お前、学校は?」

「凛です。学校は今日サボります」

 堂々とサボる宣言をするな。

「いいんじゃないか?別に無理して行く必要はない」

「久保田は甘やかすな。大体、そんなこと言ってる奴がなんで制服着てるんだよ」

「それくらいいいじゃないですか」

 須藤は最初こそは咲が死んだことによって人前で泣くことはあったが7月に入った今あまり泣く姿を見ない。吹っ切れたならそれでいいのだが。

「そろそろ衣替えの季節なので、夏服の前に見てもらいたくて」

「はいはい、似合ってる。学校行け」

「ムカッ!なんですか、その言い方!もっと感情を込めてください!」

 時々須藤はそんな言い方をする。ラノベくらいだ、そんな言い方する人は。わざわざ擬音を口にする人はいない。

「栗林さん」

 あとは任せた、と情感を込めていう。

「了解。健全な女子高生は高校に行きましょうね」

 まるで子供をあやすみたいに言い、須藤の鞄を持ち腕を引っ張り外に連れ出す。

「助けてください!間宮さん!」

「学校行ってこい」

 そのまま子供みたいに嫌がりながらも連れて行かれた。子供かよ。

「なあ、須藤は、その、大丈夫なのか?」

 事件から二ヶ月が経った今須藤のメンタルはどうなのか気になったのだ。

「須藤は何も言わない。俺たちが聞くのもおかしな話だ。言いたくなるまで待てばいい」

「今日は?依頼、あったけ?」

「あるぞ。今回は男子だ」

「名前は?」

「深山透って人が依頼しに来てる。多分、昼過ぎに来るはずだ」

「了解」

 朝食も食べ終わり食器を洗う。その後、出かけると言ってある場所に行った。


 □

 私は須藤凛です。どうも。今は無理矢理学校に連れて行かれている最中です。探偵事務所ウィズにお世話になり事件が事件だったために依頼料が高くなると思ったけど、そうでもなかった。晴人さんが終わったあと、料金を払いに来た私に高校生には重すぎる依頼だった。だから、今回は依頼通りの料金でいい、最初に説明した料金を払えと言ってきました。ことが大きくなれば料金は増えると聞いていたからびっくりだった。なぜ、晴人と呼んでいるかって?それは・・・・・・秘密!女子高生には言いたくないことがあるのです。

「ねえ、間宮さんってどんな人なの?」

 栗林さんにタメ語はまずいかと思ったけど不快そうな顔はしなかった。

「・・・それを聞いてもメリットはないよ?」

「それでも知りたいです」

「そうか・・・」

 何か、触れては行けないものを触れてしまったのか。

「間宮は人思いだ。優しさがある。人に好かれるタイプだ。舐められたくなくて俺っていつも言ってたんだよな」

 舐められたくなくて、なんか可愛い。

「ただ詮索するのはお勧めしないよ。知りたくても今の自分だけを知ってくれればいいって人はたくさんいるからね」

「今の自分?」

「ああ、君も将来そう思う日が来るだろう。本当は来ない方がいいんだけどね」

 そう言って、淡く微笑む。晴人さんは何か隠したいことがあるのだろうか。

「ほら、行ってこい」

 学校に着いたみたいだった。

「行きたくないです」

「なんで?」

「・・・い、言いたくないです」

「ふーん。じゃ、仕事手伝ってくれる?」

「え?」

「行きたくないんだろ?あいつらには隠してやるから」

「・・・・・・やっぱ、いいです。行きます」

 ドアを開けて礼を言って校舎に向かう。

 行きたいわけじゃない。でも、行きたいわけでもない。晴人さんに打ち明けたい。気持ちを。だから、それが言えるまでは嫌がられても近くにいたいんだ。ほんと、わがままだ。


 □

 なあ、咲良はあの時、なんで『救世主』を名乗る団体と一緒にいたんだ。『子供を救う』、咲良が家族を嫌がっていたのは知ってる。でも、あまり話してくれなかったじゃないか。そろそろ、あの時、何があったのか教えてくれ。

 そんなことを咲良の墓の前でつぶやく。咲良の死体も警察が処理した。遺族の希望で墓を建てた。でも、それは建前みたいに感じて当時は嫌だった。今は心を落ち着かせるために必要な場所となってしまっている。

 墓をきれいにしてから車で探偵事務所ウィズに戻る。

 そういえば、なんで天音の事件は表面化されないんだ。栗林もその事件については触れなかった。お前にしては最高のネタなんじゃないのか、と聞いてもはぐらかすばかりだった。

「おい、依頼人はもうきたぞ」

 事務所に戻るとそこには対面で座っている男子がいた。制服姿で須藤のものとは違った。久保田の隣に座り依頼内容を聞く。

「僕の彼女の家庭を調べて欲しいんです」

 弱々しくそれでもはっきりとそういった。

「それは・・・君の彼女の知られたくないこともバレるんだよ?」

「わかってます。それでもです。僕は彼女とは違う学校に行ってるんです。でも、その学校の担任が二ヶ月前くらいに亡くなったらしくて生徒さんも亡くなってクラスがギクシャクしてるらしいんです」

 それとその彼女の家庭環境にどう繋がるんだ。

「それがきっかけでいじめもあるそうで。彼女、家庭環境も悪いらしくて、そう聞いてて。だから、少しでも楽にしてあげたいんです」

 いじめ・・・?担任が亡くなったのはこの近くだと須藤の学校だ。『救世主』が関わっていた事件。

「でも、それと家庭環境はあまり繋がりが見えないんだけど」

「最初に言ったとおり家庭環境を良くしてあげたいと思うんです。正直、どっちでもいいから良くして欲しいんです。僕、結構馬鹿なんで感覚で思うんです。家庭環境って自分がそこに帰る場所じゃないですか。それって、家庭環境さえよければ学校で何があっても休まると思うんです」

 こいつ、本当に馬鹿なのか?

「学校の環境を変えるって大変なんだと思うんです。いじめって消えないじゃないですか。的が変わるだけでその環境が一気に変わらないと意味がないんです。でも、家庭ならまだうまく行くと思うんです」

「君が彼女の支えになるのはどうだ?」

「え?」

「今の話を聞く限り彼女との関係は良好なんだろ?」

「・・・いえ、恥ずかしい話、今はあんまり良好じゃないんです。家庭の話を聞いてもどうしたらいいのかわからなくて。だから、探偵さんに聞きにきたんです。ここ、いろんな事件を解決してくれるって友達が言ってたので」

 今まで受けた事件で深山と同じ学校の人の依頼を受けた可能性があるのか。『救世主』話があってからそれ以外の話がすぐに忘れてしまう。情報がなくてイライラする時もある。

「正直どっちでもいい、かあ・・・」

「・・・はい」

「なら、学校にしよう。家庭の話は自分達で解決したほうが後のいざこざがなくて済む」

「そう、なんですか?」

「そう言うものだよ」

 と、久保田は爽やかに答える。確かに、家庭環境は自分達で解決した方がいい。もちろん、それは話合いが一番ではあるが。


「と、言うわけで深山くんの彼女が通う高校にきたわけだけど・・・」

 久保田も頬を引き攣るように僕もそうだった。

「まさか、須藤の通う学校だとは・・・」

「当たるとは思わなかったな」

 車から降りてまず事務に行った。とりあえず、許可をもらわないといけない。後で面倒ごとがあっても困る。学校がブルだったってことはきっと深山の彼女も須藤と同じクラス。そして、いじめられてるのも・・・

「・・・やっぱり、須藤か」

 こっそりとクラスを覗くと須藤が男子たちに囲まれている。一部の女子も参戦しているようだ。写真を何枚か撮ってポケットにしまう。

「それで、君の彼女は誰?」

「あそこのショートカットの人です。冬服を折り曲げてる。・・・あ、今、顔を仰ぎました」

 あれって・・・。天音の事件で色々聞いた人じゃないか。そういえば、名前も聞いてない。

「僕の彼女の知沙です。青井知沙です」

 可愛くないですか?と自慢してくる。残念だが咲良には及ばない。何をマウントとっているのか。

「行こう。もう用は済んだ」

「え?もう、行くんですか」

「バレたらまずい」

 そう言って、車まで戻ってきた。

「とりあえず、今後は僕たちが調べる。いじめの実態を明確な証拠を出すには時間がかかる。それと青井のことは君が面倒を見ろ」

「はい」

「何か青井が変なことを言い出したらそれも僕たちに伝えろ」

「変なこと?」

「ああ、自分で理解できない、なんでそうなったって思ったら連絡しろ」

 一応、青井には名刺を渡してるから『救世主』勧誘が来たら連絡すると思うが、いや、そう思いたい。

 すると、校門前まで全力で走る女の姿があった。須藤だった。足をつまずかせて倒れ込む。そして、しゃがみ込んでいた。手で顔を隠すようにしてまた歩き出した。

「行くぞ」

「え?置いてくんですか?」

「深山。人のために何かしたいからと言って全てに突っかかっていいわけじゃない。助けたくてもタイミングをミスればそれは、優しさではなくなるぞ。人のために何かしたいなら時に、待つことも大事だ」

 特にこの年はな、と久保田は言った。大切な人を傷つけないようにと試行錯誤した久保田だから言えることなのかもしれない。

「それって、残酷じゃないですか?」

「そうだ、でも、それが人のための時もある。それが強さに変わる時もある。有名人のいじめエピソードがそれに当たるだろ」

 今はわからなくていいと久保田は車を走らせながら言った。みんながみんなそうだったらいいのにと僕は心の中で思った。


 □

 私が、学校に行きたくない理由は咲の事件が関係してる。咲が死んで担任の安間先生も死んだ。私は探偵である晴人さんと久保田さんと一緒にいたことで私に原因があるのではないかと男子たちが広めたから。確かに、咲が死んだことは私を庇ったから。だから、ショックも大きかった。なのに、それを他の何も知らない人に言われたくなかった。青井さんのグループもやめなよとは言ったものの信憑性のある言葉を男子たちが言ったその次の日から完全にいじめの対象になった。咲が死んだのは須藤のせい。安間先生が死んだのは須藤のせい。だから、学校に行きたくなかった。晴人さんが学校に行けと言った時、言ったら褒めてくれないかなと期待した。だから、あの時、栗林さんの誘いを断って学校に行ったのだ。久保田さんは行きたくなければ行かなくていいって言ってくれたけどこのまま午後まで一緒にいると仕事の邪魔になってしまうとは思った。だから、晴人さんに聞いてみようって思ったのに学校に行けの一点ばり。全く、何か察することはできないのだろうか。私が言えた話じゃないけど。

 今はもう学校を早退した。流石にあの空気に耐えられなくて逃げ出した。と言っても、まだ校門前。歩いて校門前の坂を下っているとある女子が話しかけてきた。

「ちょっと、待って〜!」

 振り返ると二、三人の女子が立っていた。

「ねえ、大丈夫?ごめんね、さっきは助けられなくて」

 首を横に振る。助けて欲しいけどそうするとその人たちがいじめの的になる。

「なーんてね!」

 え?

 思ったのも束の間、足を引っ掛けられて地面に倒れてしまう。頭を足で踏まれる。痛い。

「あ、汚れちゃった?しょうがないな〜。綺麗にしてあげるよ」

 そこにいた2人が後ろ手に持っていたバケツを頭にかぶせる。髪の毛がびしょびしょだ。服も濡れた。

「あれ?まだ汚れが取れないって?しょうがないな〜。もう一回だけだよ?」

 そう言うと下半身部分を濡らしてくる。これで全身がびしょびしょだ。最悪。

「人殺したんだから悪くないよね〜」

 そうやって、高らかに笑っている。

「防犯カメラとかないしバレないんだよなあ」

 そう言って、私のお腹を蹴り飛ばし校舎に戻っていった。

「・・・・・・っ」

 助けてよ、晴人さん!

 そんなこと思っても声には出なかった。なんとか立ち上がり歩き出す。

 なんでこうなってしまったんだろう。こんなこと今までなかったのに。なんでこんな思いしなければならないの?私はただ咲が心配だっただけなのに。1週間前からいなくて家にもいない。だから、探偵に依頼してやっと見つけたと思ったら仮面を被った人に私を庇って殺された。確かに殺した、私が殺したのかもしれない。でも、あの時、咲は言ってくれた。『もっと早く凛に相談しておけばよかった。こんなのになっても親友でいてくれてありがと』そう、言われたんだ。でも、それを知らない人たちは噂を真実だと思いその噂が噂をよぶ。だから、今、こうなってしまったのだろう。苦しい・・・。晴人さんに言ったら助けてくれるだろうか。

 そう思って、探偵事務所ウィズの看板を見た。いつの間にかここにきてしまっていた。いつも帰りに寄っていたからだろうか。ああ、馬鹿みたい。こんなずぶ濡れだけど入っていいのかな。いっその事、お前馬鹿なのかって怒ってもらおうかな。

 濡れた足で階段を上がる。深呼吸をしてドアを開けた。カランカランと音がする。

「どうかしまし・・・・・・た・・・・・・・・・」

 その声は晴人さんだった。今、一番聞きたかった声だ。でも、俯いたまま私は何も声が出せなかった。

「須藤、何があった?」

 怒るどころか私の心配をしてくれたことが嬉しかった。でも、こんな格好できたことを怒って欲しかった。

「とりあえず、風呂にでも浸かれ」

 私の肩に触れながら晴人さんは言った。抱きついて甘えたかった。でも、そんなことできなかった。

「バスタオルはこれだな。あと、フェイスタオルな。制服とかは脱水しとくから洗濯機に入れとけ」

 じゃ、と早口で言ってドアを閉めた。

 十分くらいで風呂に湯が入り体を軽く洗って湯船に浸かった。

 今日は災難だった。苦しくても誰にも助けを求められない。晴人さんたちは優しいから事務所に入ってくることを許してるだけ。これ以上、わがままを言えない。また、助けを求めるなんてできない。怖い。このままこんな学校生活が続くのが怖い。逃げたい。でも、逃げたら、その後どうやって生きていけばいいかわからない。何かの本で読んだ記憶がある。中高生は逃げたら損しかないと。逃げたら、授業に遅れて人間関係も悪くなって将来的にもキツくなるって。人間関係はもう悪いのか。なんて、自嘲する。

 浸かりすぎてしまった。もう、あがろう。そっと、ドアを開けると誰もいない。ばったり、晴人さんと会ってエッチ!とか言ってもよかったのに。洗濯機の上に紙が置かれていた。

『制服とかもう乾いてるはずだから。洗濯機の中にあるから確認して』

 無愛想な字だった。洗濯機の蓋を開けて制服を取り出す。乾いていた。いつの間にスイッチを入れたんだ。気づかなかっただけ?乾いたものに着替えた。少し、明るいトーンで行こう。

 晴人さんは食卓にはいなかった。依頼で使う部屋にいた。玄関と一緒になってるやつ。そこに晴人さんは座っていた。何かの資料を読んでいた。ドアが開いたことに気づいた晴人さんはその資料を仕事用の机の引き出しにしまった。

「ありがとうございました!おかげでスッキリしました!」

 晴人さんの顔は読めなかった。怒ってるのかどうかわからない。

「あ、風呂って意外と大きかったですね。私、あんだけ大きいの初めてです!」

 そう言いながら晴人さんの対面に座る。

「私、馬鹿ですよね。あんなに濡れてたのにここにくるなんて。怒ってください!怒られて当然です・・・」

 それでも、怒る気配はない。

「私、何考えてんだって話ですよね。ほんと、すみません」

 まだ、何も言おうとしない。

「あの、なんで聞いてこないんですか?」

 俯いたままきく。晴人さんはなんで一向に聞いてくれないの。

「聞くつもりはない」

「・・・なんで、ですか?」

「なんでもだ。須藤の依頼なら聞きたくない。めんどいし。でも、悩みくらいなら聞くぞ」

 さっきまで依頼すると思われていたのだろうか。いや、きっと気遣いだと思う。そんな気がした。

「独り言だと思って聞いてください」

 晴人さんは私を見ていた。気まずくなって目を逸らした。

「・・・私、咲が死んでからずっといや、その前の日から私に原因があるんじゃないかってクラスの男子から疑われたんです。それが、事件の日、咲と一緒にいたこともあって、つい口に出てしまったんです。私は咲に会ったけどそんなわけないって。でも、信じてもらえませんでした。男子の直接の悪口、女子の陰口が怖くてしょうがなかったです。だから、事件が終わってから甘えるようにここにきました。でも、間宮さんはずっとようがねえなら帰れって冷たかったですけど・・・」

 チラッと晴人さんを見るとあ、やべって感じで目がキョロキョロしている。今更、知ったのかな。探偵なのに。

「家じゃ泣けないし、学校でも泣けない。どうすることもできなくて・・・。親友の咲が私を庇って死んで、クラスの人には人殺しって言われて嘘じゃないなって思うほど苦しくなった。咲はなんで私を庇ったのかわからないんです。でも、守ってくれた。なのに、私は咲のSOSに気づくことができなかった」

 ずっと後悔してた。もしも、一ヶ月前に私が手を伸ばしていれば咲は両親を殺さなくてもよかったのではないかって。抱きしめることしかできなかった。偽善者だ。善者にはなれなかった。

「・・・・・・っ」

 溜めていたものを吐き出せば吐き出すほど思い出して苦しくなる。

「・・・・・・・・・間宮さん、もう・・・・・・泣いていいですか・・・・・・?」

 なんの同意も得られないまま私の視界は滲んでいた。まだ、晴人さんの前で泣きたくない。強がりだ。でも、もう強がれない。

 晴人さんはポケットからハンカチを取り出し机に置いた。

「人は泣きたい時に泣かないと今後泣けなくなるぞ。今、苦しいって怖いって甘えるようにって泣いていいって言ったけどそんなの止めるわけないだろ」

「・・・うっ・・・・・・うぅ・・・・・・・・・」

 もうだめだ。ここで泣こう。晴人さんなら許してくれる。そう、思った。晴人さんのハンカチを借りて目に押し当てる。それでも涙は出てくる。気づけば声を出して泣いていた。


 □

 目の前で須藤が泣いている。電気をつけていなかった部屋の中は悲しいほど暗かった。そっと、部屋を出ていった。ドアの鍵をそっと閉めて久保田に電話する。繋がらないのでどこにいるのかだけ聞いて歩き出した。

「無理だろ。僕が抱きしめたりするなんて」

 咲良の時は泣いてる時に抱きついてきたから流れでしたけど須藤の時はどうしたらいいのかわからない。今は、1人にするのが得策だと思った。

 初めて須藤は僕らに本音を話した気がする。もっと前から言っていたかもしれないが天音の事件があって、咲に会うとき1人で行った。1人で抱え込んでしまうタイプだと思った。でも、それ以上関わらないと思って気にしてなかったのにそれからも来るようになって何がしたいのかわからなかった。いじめを匂わせることは天音事件の時に感じたがそれが須藤にいくとまでは考えていなかった。咲良の事件の真相に近づいた悦びに近い物があった。

 これからも須藤が探偵事務所ウィズに来るかどうかはわからない。でも、これからは冷たい態度は取らないようにしたほうがいいかもしれない。

 いじめを解決してほしいって依頼もあるしな。

 久保田と合流して青井の家の付近で路上駐車する。

「どう?青井の家の実態は掴めた?」

「まあ、父親はサラリーマンらしい。そこそこ稼げているそうだ。母親はパートをしている。昼間に入れてもらっているらしい」

 ごく一般的とも言える。

「それだと、深山のがいう家庭環境には触れられていないな」

「そうだ。だから、深山に盗聴器を仕掛けてもらっている」

 依頼を解決するためにたまにやる技だ。

「それで、深山は?」

「青井が帰ってきたらどこかに行こうと誘うつもりらしい。そこで俺に相談してみないかって聞くらしいぞ」

「頼れるパートナーだな」

「確かに。俺たちは異性のパートナーはいない」

「でも、相棒はいる」

「はっ、かっこいいじゃん」

 久しぶりにかっこいいこと言った気がする。

「それで須藤はどうだった?」

「あの後も水をかけられるいじめにあってたらしい」

「・・・助けるべきだったな」

 そうだ。僕たちは選択を間違えた。あの実態を僕たちに言えば強くなると思ってた。でも、そうじゃない。いじめがエスカレートすることは想像できたはずなのに僕らは綺麗事言ったのだ。見て見ぬふりをしたのだ。いじめっ子と何も変わらない。

「お、きたな」

「表情はあまり苦しくなさそうだな」

 どこか明るさを感じる表情だ。

 青井が家の中に入る。盗聴器を操作して音を出す。仕掛けたところの音声を拾うのだ。

『ただいまー』

『あら、お帰りなさい』

『あれ?透くん!』

『ごめん、どうしても会いたくてきちゃった』

『連絡きたけどびっくりしたよ〜。急いで来ちゃった!』

 嘘つけ。

『ちょっと知沙を借りていいですか?外で話したいです』

「あら、いいのよ。でも、あんまり遅くなってはダメよ』

『わかってるよ、ママ!』

 溢れ出る楽しそうな家族感。羨ましい。何も悪いところはなさそうだ。

「久保田につけた盗聴器は外しとく」

「流石に持ってかせたわけじゃないのな」

「そんな馬鹿なことするか!」

 事務所に帰ることにした。青井の家庭環境が悪いのは多分嘘だ。久保田曰く近所に聞いても悪い噂はないそうだ。となると、後はいじめについて。これはどうしようもない気がするが、ここで引き下がると大事なことを見落としている可能性もある。あの時、深山がどっちでもいいって言った時、久保田はあえていじめについて調べると言った。そもそも、彼女を助けたいのであれば家庭環境のことだけを言えばいいはずだ。青井自身弱い立場に置かれているわけじゃない。あの軍に入っているならいじめはまずない。それくらい深山もわかっていたはずだ。となると、なぜいじめについて触れさせるのか。いや、もっと他にあるのかもしれない。

「なあ、久保田は何か掴めたか?いじめ以外に何か、あると思うか?正直、僕はしっくり来てない」

「そうだな。俺もまだ正確にはわからない。個人的にも探ってみる。でも、いじめに関してはもう触れなくていいと思う。青井を動かせばそこそこ上手くいくと思わないか?」

 相変わらずゲスいことを考えるなあ。

「僕としてはまだ解決した気分じゃないけど・・・」

「それで、いいだろ。パッと思いつくこともある」

 確かに、と相槌を打って車から降りる。事務所の扉を開けて電気をつけるとそこには1人の女子がいた。

「うわっ!?」

 盛大にビビり散らかした。久保田の後ろに行きこっそりとその女子をみる。

「あ・・・」

「はあ、お前最低だな」

 その女子、須藤を事務所に置いてったまま外に出ていたことを忘れていた。久保田は早く入れ暑い!と言わんばかりに前に突き飛ばす。うわぁ、気まずい。自業自得だ。

 須藤を見ないようにして、また玄関まで行く。

「久保田、僕は、その、ドリンク買ってくるよ」

 逃げよう。流石に失礼だ。いや、これも失礼かもしれない。

「間宮の好きなドリンク栗林さんが買ってくれたぞ?」

 嘘はいいって。このタイミングで嘘はやめてくれ。

「あ、そうなんだ。それはラッキー・・・」

 気まず。冷蔵庫のある場所へ方向転換するとそこには須藤がいた。

「うわっ!?」

 やってしまった。2度も驚くとか咲良だったら怒り出してたぞ。

『最低!サプライズしようと思ってこっそりきたのにお化けが出た時みたいな顔で反応して!!」

 シチュエーションは違えどそんなことを言われる想像はすぐにできた。今でも鮮明に思い出すんだよな。咲良の顔を。

 そんなことを考えていると肌に感触があった。須藤は僕の体を抱きしめていた。こいつ、いきなり何するんだ!

「途中でいなくならないでください。フラれた気分です」

 涙声でそういった。いや、振るも何もまだ咲良のこと好きだし。

「そっと抱きしめて欲しかったけどいうタイミングすら与えてくれませんでしたね」

 ええ、もう女子の考えてることわかんない。

「抱きしめてください。私のこと包み込んでください」

 なんでこんな五つも歳が離れてる人を抱きしめなきゃいけないんだ。咲良が見てたらどうするつもりだ!鬼の形相で怒ってくるぞ。

「わがまま聞いてください・・・」

 そういうことを弱ってる人が言うと無視できないから。仕方なく、仕方なくだけどそっと抱きしめた。本当に仕方なく。

「いやいややらないでください」

 わかってるならやらせるなよ。・・・え、ちょっと待って、顔見えないはずだよな。なんで気づくんだ?そう思って、須藤を見ると、須藤も僕を見ていた。

「顔に出さないでください。傷付きます」

 涙目で上目遣い。口を尖らせて言う。これだから女子って嫌なんだよ。自分の武器を最大限に使ってくる。

 そして、また顔を胸元に押し付ける。こればっかりは仕方ない。僕は優しく頭をポンポンと叩き撫でた。もし、これが犯人なら銃弾を頭にぶち込むと言うのに。

 須藤は嬉しそうに笑った。この状態がどのくらい経っただろう。

「え?何してんの?」

 おい、状況を読んでくれよ。

「栗林!!」

「いやー、ごめんごめん。まさか、ドア開けたらこんな状態だからびっくりしただけさ」

 な!と久保田に同意を得ようとする。

「おう、俺もどうしたらいいかわからなくて写真撮っておいたよ」

「おい!」

 久保田の元へ歩き出そうとする体を力強く止めたのは須藤だった。そして、またそっと抱きしめてくる。

「まだ、落ち着けません・・・」

 流石にわがまますぎじゃね、と久保田といつの間にか並んでいる栗林に同意を求める。ニヤニヤするだけで何も思っていなさそうだ。流石にされるがままは癪にくる。少し脅してみようか。

「青年の男に気安くハグを求めるのはどうかと思うぞ。襲われたらどうするんだ?」

 これでどうだ!ともう、これで安心!と言う顔で久保田たちを見るが夕飯の支度を始めていて見ていない。そういうのよくねえだろ!!

「間宮さんは襲わないです。謎の安心と安全があります」

 信頼と実績みたいに言うなよな。ちょっとムカつくな。謎の安心と安全ってなんだ。少しくらい男らしいと思うべきじゃないのか?これでも一応依頼引き受けてたんだが?

「そうか・・・」

 抱きついている体を無理矢理引き剥がす。不思議そうに見てくる須藤の頬をつねった。

「痛〜い〜!」

「あんまり調子乗るな」

「バレてました・・・?」

 あんまり男を舐めない方がいい。そんなことを思いながら手を離した。久保田たちのところに行こうとすると2人は僕を見ていた。ニヤニヤしながらスマホを掲げて。

「おい、まさか・・・」

「間宮〜、そう言うのよくないな〜」

「大人になれって!」

 こいつら全員僕のこといじりやがって!

「と、とにかく、あんまり調子乗るとこうするからな!」

 須藤に向かって精一杯の抵抗を見せる。明らかに探偵と依頼人という関係が薄くなってきている。

「調子乗ったら、また、してくれるんですか?」

 うわ、めんどくさ。ドMじゃん。

「めんどくさい。もう、帰れ」

「おいおい、女子にそんなこと言っちゃいかんよ〜。もう、こんな時間だし一緒に食べないかい?」

 栗林、やりやがったな!

「いいんですか!?」

「いいよいいよ〜。食材もあるし4人分なら全然作れるし」

「食べます!」

 明るくなったことには良かったと思おう。前よりは少し明るく見える。


 次の日。久保田のおかげで青井のグループが須藤を守る形となり男女で対立。そのまた次の日。先生が事態を知り、言い出した男子、いじめをおこなった女子たちを生徒指導とした。そして、須藤のクラスはそれらがいなくなったおかげもあり、今のクラスは良好らしい。久保田から夕飯の時に聞いた。夕方に深山からお礼がきたらしい。これで依頼は完了。・・・完了?

 深山は確かに青井の家庭環境を調査してほしいと言った。そして、それは久保田自身がずっと調べてくれている。それでも、家庭環境に異変がなかったとするならなんであんなに必死な顔して深山は依頼したんだ?

 謎は謎のまま。車でわざわざ須藤の学校まで来ていた。しかも、久保田、栗林さんを連れて。何がどうなってるってんだい。まあ、理由は一つ。クラスで孤立していたわけだが青井たちと仲良くなれたことで最近は学校が楽しいらしい。学校でのテストも無事に終えたらしくそれを祝おうと栗林さんが言い出したのだ。好感度を上げにいく栗林さんを見ているとやっと自分の悪評に気づいたのかと感心する。

 そろそろ、くるだろうと近くのスーパーに集合することになっている。車から降りて須藤がわかりやすいように立っておく。こういうの久保田でいいじゃないか。悪態をつきたくなるが我慢しよう。

「あれ?探偵さん?」

 その声に覚えがあって顔を上げると青井がいた。

「青井さん。どうかした?」

「あれ?私、名前言ってましたっけ?」

「天音事件の時に名前聞いたはずだよ」

 確か聞き覚えがあったのは事実。関わらないと思って無視したのも事実。

「そうですか。でも、どうしてここに?」

 また事件ですか?と問いかけてくる。事件といえば事件だ。なんで元依頼人であった須藤と飯に行かないと行けないのか。

「まあ、ちょっと、ね」

 誤魔化すのが下手すぎた。

「もしかして、誰か待ってます?」

 バレるのが早い。何か嫌な予感がする。話を変えてみようか。

「君は何か悩みとかある?・・・ほら、探偵業なんで仕事がないと生活できなくてね」

「悩み?」

 久保田の調べた通り何もないのか。

「ほら、家族とか、人間関係とか」

「人間関係ならなんとかなりましたよ。でも、家族に悩みはないですよ。あ、でも、最近、私の彼氏が家族について悩んでるらしくて」

 ・・・え?

「まあ、多分、ちょっとした喧嘩だと思いますよ。それより聞いてください」

 なんでそんなことを?

「実は私、終業式の夜に彼氏に知沙の学校で待ってるって言われたんですよ。結構時間が空いてるんですよ。言いたいことならもっと早くいうべきじゃないですか?」

 何かが壊れ始めている気がする。段々と潰されるような。

「そうなんだ。まあ、何かあったら名刺の番号に電話して」

「・・・はい!じゃあまた」

 そういうと、親の車に乗って出て行ってしまう。その後、5分くらいして須藤はきた。

「遅い」

「すみません!行きましょう!」

 遅くきておいて悪びれる様子もない。

「なあ、須藤の学校の終業式っていつ?」

「え?・・・2週間後ですけど」

 もしかしたら、これも美羽事件、天音事件のように『救世主』が関わっているのか。

「もしかして、またどこか連れてってくれるんですか!?」

「な訳。行くぞ」

 不満そうな顔をされたが気にしてられない。飯行ったら早急に考える必要がありそうだ。


「久保田はどう思う?」

 夕飯が終わり須藤を家の近くに帰した後、車内で深山のことについて話した。栗林さんには深山のことをマークしてほしいとお願いした。

「確かに、それが『救世主』に関わるなら見逃せない。でも、だったら学校ってのがしっくりこないな」

「それはそうだ。もし、『救世主』関連なら天音の事件のように目立たない場所がいいはずなんだ」

「どうする?『子供を救う』があいつらの目的なら須藤は確実に『救世主』と接触している。その時点で触れては行けないものがあるはずだ」

「触れては行けない?」

「たとえば、家庭内事情」

 家庭内事情。天音の家は母親が不倫していたこと。父親は海外出張。この場合は母親を殺すと同時に父親も殺さなければいけなかった。須藤の家庭内事情はまだはっきりしてない。そもそも考えすぎな気がしなくもないが。

「俺は須藤の親に接触してみる。『救世主』と接触したくてもできないなら須藤から行くしかない」

 『救世主』と接触?本気で言ってるのか?

「2人とも、その『救世主』には触れない方がいいんじゃないか?」

 先ほどまで黙って運転していた栗林さんがそう口にした。

「『救世主』の行動を聞く限り、その救済相手のためならその近くにいたものを全員殺す勢いなんだろ?両親を殺す。天音の事件も友達と関わらないようにしたのならその友達も殺される可能性があったわけだ。だから、一ヶ月前から関わらないでほしいってお願いしたんだろ?」

 栗林さんには協力してもらうために色々情報を伝えている。

「でも、なんで須藤とは関わろうとしたんだ」

「1人は殺さない約束でもしたんじゃないか?現状、そう考えないと間宮が生き残っていることに説明がつかない」

 それは、あり得ない。

「とにかく、間宮のいう通り、深山については調べておく。その代わり情報提供は絶対だぞ」

「俺たちが情報提供しなかったことでも?」

「あるじゃろがい」

「バレた」

 明日からは念には念をで深山について調べよう。


 そして、1週間。深山の家庭内ではいじめが存在することを知った。久保田がつけていた盗聴器を取り忘れていたらしくすぐにその実態を知ることができた。身体に対する暴力ではなかったため僕らが見ても傷に気づかないのは無理もなかった。言葉の暴力だったそうだ。深山には弟と姉が1人ずついるらしい。両親も姉弟の暴言を黙認している節があり深山は家庭内で一番下の存在だった。とても最近始まったとは思えないくらいの暴言だった。止めに行くにしても深山自信が望んでいなければ意味がない。実際、助けてくれとは一言も言ってない。

 深山は依頼料を払うのに1週間待ってほしいと頼まれていたため今日、放課後に行くと連絡が入っている。

「え!?今日、誰か来るの?」

 うるさい須藤がそう聞く。

「当たり前だろ。これでもそこそこ依頼者はいるんだ」

「えー!誰?」

「守秘義務がある」

「ケチ!」

 めんどいなこいつ。

「須藤、あんまり間宮を困らせない方がいいぞ」

「え?私、困らせてる?」

 自覚あれ!

「こいつは色々悩みがあるんだよ」

 その言い方・・・。

「え?!そうなんですか?私が相談に乗りますよー!」

 と肩を叩いてくる。こいつ物理的にも距離が近い。色々当たってる。

「そろそろ、くるんだ。どっか行ってろ」

「ツンデレなんですか?」

 どうしてそうなる・・・。

 そうこうしている間に玄関が開いた。カランと鳴らすと深山がそこには立っていた。

「お取り込み中でしたか?」

「気にしなくていい。どうぞ」

 須藤の耳を引っ張り立ち上がらせて背中を押して食卓につながる方へどかす。

「痛い!」

 無視して深山を椅子に座らせる。

「あ・・・、えっと、はい」

 困惑気味だが関係ない。

「無視してくれて構わない」

「居候ですか?」

「物分かりが良くて助かるよ」

 ニュアンスは違えどそんなものだ。そろそろ消えてほしい。もう来なくてもいい気がする。

「あれ?青井ちゃんの彼氏?」

 その顔に見覚えがあるのか須藤は深山に尋ねる。

「え、はい。えっと・・・」

「あ、私、須藤です。青井ちゃんと同じクラスです」

「あ・・・!」

「以前、青井ちゃんから写真を見せられたんです!」

「そうです、えっと・・・」

 そろそろ、邪魔だし退かすか。

「久保田」

「はいはい、了解」

 そういうと、立ち上がり須藤の腕を引っ張り食卓の方へと引き摺り込む。ヤダヤダとダダを捏ねるが無視して扉を閉める。久保田が戻ってきたところで話を始める。

「椅子にぐるぐる巻きにしてきたから多分大丈夫」

 大丈夫なのかそれ、という表情で見てくるが気にせずに本題に入る。

「今回の依頼はいじめ問題を解決したことで終わりだ。青井さんの家庭は問題ないと判断した」

「え、それって・・・」

 深山は依頼した時、いじめ問題か家庭内のどちらかをやってほしいと依頼した。だから、両方調べたとは思わないだろう。

「ああ、悪いけど両方調べさせてもらったよ。いじめの被害者は今、楽しく学校生活を送っていることも確認できた。青井さんの方は特に問題もなかった」

 焦っている。深山はほんの少し焦りを見せている。

「君はなんで青井さんが家庭内を調べてほしいなんて言ったんだ?」

 明らかに目が泳いでいる。

「そ、それは、知沙に言われたからで・・・」

「本人は君の家庭内については言ってたぞ」

「えっと・・・」

 深山はなぜそんなことをしたのか。ただ、自分を助けてほしいといえばよかった。でも、それは僕がいえたことじゃない。

「深山君。君には悪いけど君の家庭内を調べさせてもらったよ」

「・・・っ!」

「君は家庭内いじめに遭っているんだよね?」

「・・・うっ・・・・・・あ、ああぁ・・・・・・」

 やはりそういうことなのか。

「はっきり話してほしい。君はなぜこんな遠回しなことをしたんだ」

「・・・それは」

 家庭内いじめがどういうものなのか。きっと、受けたモノにしかわからない。でも、それに応えられるのはこの中で僕だけかもしれない。

「これは、僕の話だ。聞いてほしい」

 この話は誰にもしなかった。誰にもいえなかった。今ものうのうと生きる父親が嫌いだ。

「僕はね、これでも子供の頃から家族の暴力には悩まされていたんだ。母親の躾という名の暴力。なんで言うこときけないの〜!ていう感じのね。父親も俺のいうことが聞けないのか〜!っていつも暴言を言ってたよ。子供だったから仕方ないで済むわけじゃないんだ。だから、両親に反抗しないで精一杯努力したんだ。いつも逃げたかった。ある時、母親が謝ってきたんだ。こんなの躾じゃなかった。許してって。それは、聞いてて嬉しくもあって同時に、怒りでもあった。何様なんだと。でも、それからは父親の暴力や暴言を止めようと必死だった。結局、高校卒業するまでは続いちゃったんだけどね」

 と微笑する。でも、それだけが言いたいわけじゃない。

「君はさ。僕のようになってはいけない。人を憎み、殺してはいけない。それが本来の最善策だ。僕らに頼れば弁護士だって雇う。君が勝つためならなんでもしよう。君が覚えた苦痛を楽にしよう。だから、言ってほしい。僕の依頼引き受けてくれますかって」

 久保田は何も言わなかった。

「ううぅ・・・・・・あ、あぁ・・・・・・」

 そこには涙が溜まっていた。

「ありがとうございます。・・・僕の依頼、引き受けてくれますか?」

「もちろんだ」


 その後、深山は自分が受けた家庭内いじめについて全てを話した。

「あの感じだと、『救世主』との接触はなさそうだな」

「そうだな。これさえ解決できればいいと思う」

 深山を近くまで送り帰ったふりをしてまた戻ってきた。この時間は弟が帰ってくる時間らしい。家事全般は1人でやっているらしく風呂を入れておく必要があるらしい。

 あれが、深山の弟か。深山の家の近くに送ったつもりがそこまで近くはなかったらしい。坂を登る深山に弟が何かを投げようとしている。

「急ぐぞ」

「わかってる」

 狙いを定める弟。深山は気づいていない。そして、手に持つものを投げた。それを寸止めでキャッチする。

「うわっ」

 弟はびっくりした声をあげた。それに気づいた深山が後ろを向く。

「え?な、なんで間宮さんたちが・・・」

「そりゃ、あのまま帰しても続くだろ」

「お、お前、何してくれてんだよ!」

「何してくれてんだよ!はこっちのセリフだ」

「こんなでかい石を人に投げたら血が出ることくらいわかるだろ?死ぬぞ?」

「別に良くね?透なんてそれがないと存在価値ないし」

「盗聴した時と同じワードだ」

 と、久保田は耳打ちしてくる。だいぶ生意気なガキだな。

「ねえ、君はさ人にやった仕打ちは帰ってくるって知ってる?」

「は?何それ」

「まあ、いいさ。すぐにわかるから」

「は?」

 久保田はナイフを取り出し僕に渡す。弟にする仕打ちはもう決まっている。

「人ってね、自分がやられた時の想像は全くしないんだ。だから、その時の痛みをしらない。君くらいの歳ならそろそろ人の気持ちも痛みを知っておいた方がいい」

 そう、言いながら歩き出す。

「お、お前、それは流石に、笑えない」

「誰も笑わないでしょ。存在価値がないとか言われたら」

「だ、だからって人に向けていいものじゃない」

 弟の肩を掴み動けなくする。そして、倒す。

「や、やめろ。透にやってるのは俺だけじゃない。姉だってそうだ。たまに暴力振るうくらい別にいいだろ!」

「なら、これも文句ないよな。君が今までしてきた仕打ちがこうやって返ってくる。人に暴言を吐くっていうのはそういうことだ」

 語尾に勢いをつけてナイフを振りかざす。弟は目を閉じて顔を逸らす。その片目を無理矢理開けさせる。

「や、やめろ!俺は間違ってない!何も殺すことないだろ!」

「人の心を殺したお前に何が言える?」

「人の心?」

「もう、話は済んだな」

 恐怖の絶頂にいる弟から立ち上がる。久保田が水の入ったバケツを弟にかける。

「な、なんだよそれ!冷たい!」

「ガソリンだよ。さっきから口答えが多いから死ぬ時くらいもっと騒がせてやろうと思って」

 久保田が嘘をつく。ガソリンなら臭いはずなんだよな。その嗅覚すら感じないのはきっと恐怖に満ちているから。

「や、やめろ!おい!そんなの嫌だ!俺にはまだ夢があるんだ!」

「人を心を殺した奴にそんなこと言われる筋合いはない」

 ポケットからライターを取り出す。火がつくことを確認する。

「こういうのは被害者がやるものだよな」

 そう言って、深山にライターを渡す。一応、これも全部計画通り。本当に殺しはしない。

「俺は、知沙がいるから生きれた節もある。でも、それよりもお前らがいなければよかった話だ」

 深山はライターに火をつけて、覚悟を決めて弟に投げ入れる。

「あ、あ、あああああああああぁああああぁあああぁあぁああああぁあぁぁぁ!」

 大袈裟だな。正直笑った。ドッキリみたいだ。

「・・・あ?」

「本当に殺すと思うか?こんな場所で」

「お、おい、ふざけなん・・・・・・っ!」

 最後まで言わせず顔面を蹴り飛ばす。勢いで頭をコンクリートにぶつける。血が出ていないので大丈夫だ。

「いっ!」

 必死に頭を押さえている。最後に深山が自分の言葉で言い切ればそれで終わりだ。深山は胸ぐらを掴んで顔を近づける。

「お前がこれ以上俺を殺そうというなら今以上の仕打ちをする。その時に次はない。お前を残酷で惨いやり方で殺す。これ以上、俺を、怒らせるな!」

 弟は何も言えずに終わった。放心状態だった。恐怖で動けなくなったのかもしれない。僕らからは深山の動きが見えない。だから、どんな顔しているのかもわからない。


 探偵事務所に帰り道の車内。

「弟だけでよかったのか?」

「問題ない。盗聴した感じだと、多くいじめてたのは弟の方だ。姉はそれに比べて少ないし、便乗しているところもあった。なら、弟だけで良くねって思ったが正解だったな」

「まあね。あれだけ脅せば中学生には十分だ」

「後は、『救世主』がどこで現れるのか」

「それな。そもそも、『救世主』に関わった人たちに一貫性はあるのか?」

「ドユコト?」

「天音の事件と咲良の事件。それは、当てずっぽうなところが多かった。既読だってもしもの話だった。2人とも、一ヶ月前から人と関わらないって話なら『救世主』にそう言われたのかと思って」

「まあ、規約があるのかどうかも俺たちは知らないしな。天音の事件以降これと言って手がかりが掴めてないわけだしな」

「深山たちに接触してないといいな」

 それだけが望みでもあった。できれば、接触していて情報が欲しいと思ってしまう自分もいた。

 そんなことを思っていると、事務所に着いた。

「まあでもまさか、間宮にもそんな過去があったとはな」

「え?」

「ほら、深山に伝えたやつ」

「ああ、まあな」

「・・・とりあえず、来週までは気が抜けないな」

「そうだな」

 明らかに話を変えた。今の僕はどんな顔をしていたのだろうか。

 事務所の玄関を開ける。暗い。電気をつけて、あたりを確認する。

「うわっっ!!」

 久保田を盾にしてそこに座っている女性の霊を覗き見る。その女性は僕らの方を見る。

「・・・なんだよ。須藤か」

 ビビらせんな。怖いわ。

「そんなにビビらないでください」

 ムスッとした表情で僕らに歩み寄る。とりあえず、玄関をしめて中に入る。

「まだいたのか」

「当たり前じゃないですか。いつの間にかいなくなったんですから」

 仁王立ちで僕らの前に立つ。通すつもりはないらしい。

「はいはい」

 適当に返事をして、須藤の肩を持ち無理矢理退かす。

「ちょ、ちょっと・・・!」

「お前そろそろ帰れよ」

「嫌です」

 なぜー?

「私はまだみなさんと一緒にいたいです」

「須藤さん、家族は大丈夫?」

「大丈夫です!」

 何が大丈夫なんだ。一般的なら心配するだろ。

「あれー?今日もいるんだ」

 玄関が空いたと思ったらそこにいたのは栗林だった。何やらでかい箱を持っている。

「はい!」

「よかったー!今日、鬼頭からこんなに食えないからってカニを箱ごともらったんだよね。3人じゃ食べられないから一緒にどう?」

「いいんですか!?」

 目を輝かせている。食べ物に釣られるタイプなのか?

「久保田もいいか?」

「俺は構いません。たまには明るくてもいいんじゃない?」

「だよな」

 今まで暗かったのかよ。初めて知った。

「よし決まり!久保田、ちょっと手伝って!」

「もちろんです」

 ちょっと待て。僕の意見は聞かないのか?

「お、おい」

「間宮はいいじゃん。どうせ、嫌だとか言ってツンツンするんだろ?」

「別にツンツンしてるわけじゃない」

「そう、固いこと言うなよ〜」

「間宮、素直になれって」

 2人して馬鹿にしやがって・・・!

「やっぱり、間宮さんはツンツンしてるんですね!?」

「してない」

「やっぱり!可愛く見えますよ!」

 お前なあ・・・。

「俺たちは作ってるからイチャイチャしとけ!」

「須藤、頑張れよ!」

「はい!」

 謎の結束力がある。久保田も一緒になって楽しんでいる。そういえば、栗林さんが須藤に飯を誘った時くらいだった気がする。あの時、トイレから戻った後、場所が変わっていた。最初、隣は久保田だったのに戻った時は須藤だった。飛んだ嫌がらせだった。あの時から、2人は須藤に協力的なんだよな。朝食で席に座ろうとするとそこじゃなくてそっちにしてくれと頼まれたり、夕飯の時も今日は久保田の隣で飯を食おうとか栗林さんは言い出すし。なんか変なんだよな。

 そして、今、ここに須藤と僕しかいないわけだ。まあ、どうでもいい。部屋にでも行くか。と、部屋につながる扉を開けようとすると開かなかった。栗林さんだ。絶対に許さん。

「はあ・・・」

「そんなにため息つかないでください」

 そんなこと言われても、うんざりだ。何を企んでいるんだ。椅子周りを一周してまた扉を開けようとするとそこに割って入ってきた須藤。危なすぎる。危うく当たるところだった。

「そんなに私と居たくないんですか?」

 そうだよ。なんて本人に言うほど子供じゃない。

「もういいや。何を企んでいるのか知らないけど、一緒にいても何もないぞ」

「そうはさせません。一緒に遊びませんか?」

 絶対に嫌だ。

「断る」

 踵を返して仕事用の机に向かう。

「ちょちょちょ!待ってください!」

 腕を引っ張られて立ち止まる。顔を覗かれて嫌な気分だが、須藤は違ったらしい。

「あ!もしかして、照れ隠しですか?それで、嫌な顔を見せてるんですか?可愛いですね!」

 イラッ。こいつ、何がなんでもふざけてる。あの泣いた日から吹っ切れたのかすごい明るくなってよかったと思ったがこうなるなら何もしなければよかった。

「可愛いなあ、もう!」

『可愛いね、その格好!』

 ふと、咲良の言葉を思い出した。クリスマスの日。わざわざ僕の家に来た咲良はこの服装に着替えて街に行こうと言い出したのだ。サンタクロースの格好をさせられるならまだよかった。なのに、咲良はトナカイの服装をさせてきたのだ。

『似合ってる。さ、行こ!』

 今でも鮮明に覚えてる。あの時の笑顔が忘れられないんだ。小遣いも人よりもらえなかった咲良がわざわざ僕のために買って来たのだ。あの時、買ってよかったと思ってくれただろうか?でも、聞くことはできなかった。

「もう!そんなにツンツンしないでくださいよ!」

 思い出に耽っていると須藤は3人が座れるくらいのソファみたいなやつ、僕らが依頼を聞くときに座る椅子に一緒になって座る。いつの間にか手を握られている。どう言うつもりなのだろうか。

「してない。僕は部屋に戻る。そこで大人しく待ってろ」

 椅子から立ち上がり扉に向かおうとするとその腕を引っ張ってくる。

「待ってください。1人は嫌です」

 顔を伏せた状態でそんなことを小さな声でか弱そうに言う。

「1人ぼっちは嫌です。寂しいです・・・」

 ずるいなあ。それは無理だ。勝てない。ここでそんな知るか!ってやりたいけどその声音で言われるとやっぱり無理だ。自分でも自覚している弱点だ。知らずにやっているなら強すぎる。いや待てよ。僕の弱点を知っている可能性もある。まさか・・・。栗林、絶対に許さん。

「わかった。一緒にいてやる」

 そう言って、椅子に座る。

「本当ですか!?」

 パッと表情が明るくなった。やられた。絶対に計算してやってる。

「本当は一緒にいたかったんじゃないですか?」

「な訳」

「ツンデレ〜。可愛いなあ〜」

 と、頬をツンツンしてくる。こいつは許さん。

 ツンツンしてくる手を腕で退かす。向かい合った状態で前のめりになる。自然と須藤は後ろに倒れる。

「ま、間宮さん・・・?」

 どんどん近づき目を閉じたところで頬を思いっきりつねる。

「いっっっっ!!」

 目を開けて抵抗してくる須藤を容赦なくつねる。

「いひゃい!!」

「それ以上やるなら僕も容赦しないぞ」

「いーいーっ!」

「わかったな?もう、2度とやるなよ?」

 須藤は素直に頷く。

「絶対だぞ?」

「わはりました」

 と、また頷く。これならもう安心だろう。須藤の頬から手を離す。これでもういじってはこないんだろう。安心・・・

「あっ」

 扉の方を向くと久保田が扉を開けて待っていた。

「悪い。お取込み中なら続けてどうぞ」

「それはない」

「イヤン!エッチ!」

「お前な・・・」

「飯ができた。早くこい」

 須藤を見るとふふん!とした顔で見ていた。

「絶対ゆるさん」

 食卓に行くと、とっくに席は決まっていた。久保田と栗林さんが隣同士だ。

「またかよ・・・」

 うんざりする僕を気にせず2人はグットサインを須藤に向けていた。それに応えるようにまた須藤もグットサインをしていた。

「わー!蟹ご飯ですか?」

「そうだ。カニを使い切るのは難しいからな。久保田にお願いしたんだ」

「プラス蟹鍋。まあ、贅沢に使ったほうがいいと思って」

「久保田さん、すごーい!」

「それに比べて、間宮は犯すことしかできないのか」

 久保田誤解が生まれるからやめい。

「え?何したんだ、間宮」

「さっき、呼びに行こうとしたらお取込み中だった」

「え!?」

 若林さんはオーバーにリアクションする。

「間宮さん、変態です!」

 と、須藤は胸元を隠しながらそういう。別に隠すものもないだろ。

「後で、裁判だ」

「だな」

「私、被害者です」

「じゃ、俺は検察側だ」と久保田。

「俺は裁判長だな」と栗林さん。

「要望は通るようにしよう」

「お願いします!」

 茶番が始まった。無視して、ご飯に手をつける。

「美味しい」

「だろ?味付けあまりしなくてもいい感じだった」

「本当だ!美味しい!」

 よかったよかったと栗林さんは頷いていた。そこまで好感度上げに行かなくたっていいじゃないか。世間はまだ悪評の方が多いはずだぞ。依頼を解決したと思えば大きめの依頼だと取材し出す。面倒なやつだ。それがこんな1人のためにここまでするのはいかがなものか。

 夕飯が終わると食卓をわざわざ使って、僕が1人その対面には久保田、須藤、栗林さんは裁判官らしくその真ん中に位置する場所に座っている。

「それでは、間宮の処分をどうするかを決めたいと思う」

「何?もう、犯罪者扱いなのか?」

「構わないだろ?」

「構わないわけないだろ」

「いいだろ。別に目撃者いるし」

「私、被害者なので!」

 そんな、堂々と言わんでも。

「被害者である須藤君。君は間宮をどうしたい?」

「裁判でそんなことする?」

「間宮、ちょっと黙ってろ」

 久保田、こんな茶番で怒らなくても。

「一緒に遊園地に行きたいです」

「この性犯罪者扱いの僕とそんなところに行って大丈夫か?」

「間宮、ちょっと黙ってろ」

 久保田、そんな怒るなよ。

「じゃ、じゃあ、映画、一緒に行きたいです」

「性犯罪者と?」

「黙れ」

 もっとひどくなってない?

「な、なら、水族館に行きたいです」

「性犯罪者予備軍と?」

「うるさい」

 怖いって。

「だ、だったら、間宮さんのこと名前で呼びたいです」

「無理」

「黙れ」

 そのトーン怖いって。

「う、うぅ・・・」

 ええ、ここにきて泣き出すのか?

「あー、間宮、泣かせちゃったじゃん」

「須藤君が泣いてるぞ」

 え?僕が悪いの?

「私、まだ、一度も間宮さんに名前で呼んでもらってないです」

「うわー」

「最低だ〜」

「死ね死ね〜」

「くたばれ〜」

「検察と裁判官が言っていいセリフではないぞ!?」

「全く、しょうがない。判決を言い渡そう。主文、被告人を原告である須藤君の言うことを全部聞くこととする」

 だいぶひどい判決だ。

「異論はないな」

「もちろんです」

「はい!!」

「いやいやいや、おかしいでしょ?全部聞くってどう言うことだよ」

「黙れ」

 いや、こわいって。

「これにて解散」

「ってことで、今から何か行使したいことってないの?」

 久保田、それを聞くべきじゃない。どうせまた変なことを言い出すぞ。

「あ!じゃあ、私の家まで連れてってください!」

 くると思った。


 結局、僕と須藤だけが車に乗り須藤の家まで連れて行った。

「わざわざ送ってくれてありがとうございました!」

「早く帰れよ」

 家はもうすぐそこ。さっさと帰ってほしい。

「あの・・・、もしも、私に好きな人がいるって言ったらどうします?」

「別に。どうもしない」

「じゃ、じゃあ、もしも、私の好きな人が晴人さんだとして晴人さんはなんて答えますか?」

 嫌な質問だ。

「ごめん。・・・そう、答えると思う」

「・・・そうですか」

「もしもの話だろ?好きでもない人にそんなことを言うな」

 もしもの段階で名前を僕にするなんておかしな話だ。そう言う話は好きな人に直接告白でもしたらいい。

「あの、怒らないんですか?」

「え?」

「だって、私、さっきから生意気なことばっかり言ってますよ」

「いちいち構ってるのがめんどくさい。依頼も解決してないんだ。早く帰れ」

「・・・・・・」

 僕を見ても何も言わない。

 振り向くと慌てたそぶりを見せた。

「なんでもないです」

 ドアを開けて車から降りる。

 ドアをしめて僕の席の方にくる。窓をノックするのでとりあえず窓を開けた。

「今日はありがとうございました。また、探偵事務所に来てもいいですか?」

「どうせ、くるなって言ってもくるんだろ?」

 容認したようなものだ。どうせ、何言っても久保田や栗林が歓迎する。

「・・・ふふっ。そうですよ。私、絶対行きますから!」

「宣言すんな」

「今日言ったこと忘れないでください。私、晴人さんと一緒にいろんなところに行きたいです!」

 また明日!と言って走り出した。家に着いたことを確認して車を走らせた。


 そして、1週間後の終業式。この1週間、久保田と僕で深山を尾行しても『救世主』と接触は見られなかった。誰かと会えば楽しく会話をしてる。誰かと不審な行動はしていない。青井たちには内緒で潜入するつもりだ。銃の使い方もそこそこ慣れてきて少し距離があっても撃てる程度にはなった。その間も須藤は事務所に来た。いまだに名前で呼ぶつもりはないが須藤と呼ぶたびに頬を膨らませて名前で呼んでください!と言ってくる。

 夜。須藤と青井が通う学校に潜入して深山がくることを待った。もう、青井は来ていると言うのに。

「なあ、まさかだとは思うけど今日じゃないとか?」

「それはないだろ」

 それは絶対にあり得ない。わざわざ呼び出すくらいだ。2週間も前に。そんな人が忘れてたとか今日はやめようとか言うとは思えない。

「来た」

 いつくるのかわからなかったが意外とすぐに来た。ここに来て30分ならまだいい方か。

「知沙!お待たせ」

「遅いよ!」

 ここからでも声が聞こえるのでよかった。

「ねえ、終業式にわざわざ学校に呼ぶってどうしたの?」

「実はさ、言いたいことがあって」

「言いたいこと?あ!そろそろ2年目になること?」

「そうじゃなくて。別れたいんだ」

「・・・え?」

「わざわざここで話すべきことじゃない。でも、ここにしろって言われたんだ」

「だ、誰に?・・・い、いやだよ?別れたくない!」

 なんで、別れ話を?まさか、もう『救世主』と接触してたのか?

「今から話すのは俺が今日やったこと。昼間に全部終わらせてきた」

 終わらせてきた?最悪な予感がした。

「そ、そんなことより、別れたくない。家族のこと?大丈夫だよ。私と一緒なら。ね?」

 深山が何か持ってる。ポケットの凸凹具合、銃?

「いいから、話を聞け!」

 怒鳴り声が学校中に聞こえた。

「俺が、家族のことで困っていたのは知っていただろ?それは、嘘偽りない事実だ。俺は知沙がいれば大丈夫だって思ったんだ。でも、それでも耐えきれなかった。知沙の家に勝手に行った日覚えてるだろ?」

 青井はうんと頷く。

「勝手に言った時、思ったんだ。羨ましいって。知沙の家は両親ともに笑顔で出迎えてくれた。知沙の兄弟も明るくて楽しそうだった。知沙の悪口一つ言わないんだ。みんな笑顔で羨ましかった。それで、思いついたんだ。俺の家族もそうありたかった。だから、暴言を吐いてくる弟を脅した。うまくいったと思った。でも、それから両親も姉も何も言わなくなった。正直最高だった。でも、知沙の家族を思い出すとそうじゃないって思った。笑い合える家庭が良かった。でも、結局は元通り。ちょっと脅したくらいじゃダメなんだ。また、暴言や暴力が始まった」

 あれで中学生なら懲りると思った僕が馬鹿だった。

「だから、今日、俺は家族を皆殺しにした」

 やっぱり、こうなってしまうのか。

「俺は家族を殺した!一人一人首を掻っ切っていった。面白いくらい悲鳴をあげてた。踊るように弟は死んだ!最高だった。一番うるさい奴が一番うるさく死ぬんだ!最高だろ!?俺は間違ってない。全ては『子供を救う』彼らに救われたんだ!!」

 ははっ!と高笑いをした。最悪だった。僕らだけじゃ何もできなかった。ただ、地獄を先延ばしにしただけだった。

「う、うそ・・・。嘘だよ、嘘だよね?」

「これが凶器に使ったナイフさ」

 ナイフを床に落とす。カランカランと音を立てた。

「それでね、彼らが言うには知沙も殺さないといけないらしいんだ。そうしたら、彼らは俺を救ってくれる」

 そう言うと、銃を取り出し青井に向ける。

「嘘だろ・・・」

 駆け出そうとするが、久保田が止める。

「まだダメだ。あの、仮面をつけたやつがいつ現れるかわからない」

「クソッ!」

 深山たちを見るといつの間にか青井は尻餅をつき後ろに下がろうとしていた。

「俺はここで知沙を殺さなければならない。俺を救済するための犠牲になってくれ」

 銃を向け狙いを定めている。僕も深山のもつ銃に狙いを定める。ここで決めなければいけない。すると、数秒後に深山は銃を下ろした。

「や、やっぱり、できない・・・。無理だ!こんなこと!好きな人を傷つけて、別れようなんて言って殺すなんて絶対にできない!!」

 深山は膝から崩れ落ち青井に目を向ける。

「ごめん、ごめん・・・!」

「やはりダメだったか」

 誰だ?グラウンドの方から機械音声がして振り向くとそこにはあの時の仮面をかけたそいつが立っていた。

「は・・・!に、逃げろ!」

「え?」

「逃げてくれ!!」

 深山は青井を立ち上がらせて無理矢理押し出す。その間に僕は銃弾を打ち込む。が、びくともしない。

「まさか・・・」

「防弾チョッキでもつけてるのか?」

 そいつのもつ鉛玉が青井目掛けて放たれる。深山は青井を押し倒し、鉛玉は深山の肩に当たった。

「うっ!」

 肩を抑えて倒れ込む。

「透くん!」

「逃げろ!!」

「・・・でも!」

「いいから!また必ず会おう!絶対だ。だから、今は逃げてくれ!」

「・・・う、うん!」

 昇降口につながる階段を降りていく。今撃たれたら最悪だ。

「久保田」

「わかった」

 久保田に援護を頼み、そいつに突進する。右手で殴るふりをして、刃物をそいつに差し込む。が、硬くて体には当たらなかった。やはり、防弾チョッキを着ている。

「これはこれは、人を刺すのに抵抗がない顔だー!」

「うるさい!」

 これ以上言われてたまるか。


「流石は、高校生にして刃物で母親を殺した男だ!」


「クソが!」

 刃物をそいつの顔面目掛けて振りかざす。しかし、刃物を取られ顔面を強打され吹っ飛ぶ。意識が飛びそうだ。

「これはいい機会だ。あなたが救えなかった命がまた増えますね」

 そう言うと、そいつは銃を青井に向けて鉛玉を放った。

「やめろ!!」

 すると、遠くから声がした。

「青井ちゃん!!」

 この声って・・・。無理矢理立ち上がるとそこには鉛玉に撃たれた須藤の姿があった。

「あーあ、外しましたか」

「貴様ァ!!」

 銃を取り出し乱暴に撃ち放つ。

「もったいないですよ。そんな使い方したら」

「ふざけんなよ!」

 右ストレートを顔に狙うがうまく攻撃ができない。そいつは2、3歩引くとまた深山に狙いを定めて鉛玉を放つ。そして、それは深山の胸元に命中。

「間宮!そいつはお前に任せる!これ以上の被害を出すな!」

「ああ!!」

 そいつの脚を狙い見事命中。

「そこは予想外でした。仕方ありません。なら、あの方が言うように場所を変えましょう」

 と、素早くそいつは移動した。グラウンドに着くとナイフを取り出した。僕もナイフを取り出す。さっき、強打した時に刃物を落としたのだ。これで、銃とナイフの二刀流。

「ここで決着をつけようか」

「いいえ。あなたはこちら側の人間です。それを証明してあげましょう」

「ふざけるな」

「だって、あなたは母親を殺したじゃありませんか。私たちの目的は『子供を救う』ことだけ。しかしそれは家族を殺すように言ってあるのですよ。なぜかみなさんは一番近くにいた人を忘れたくない。そのため、わざわざ今日のように呼び出したりするんですよ。もちろん、家族以外にもその関わった人も殺すようにと伝えてあるのでね」

「お前が呼び出すように伝えたのか?」

「ええ、仲のいい人を殺すことになるが何があったのかバラしてもいいのだぞ?とね。まあ、みなさん純粋なのですよ。本当に仲のいい人を連れてくるから。勘のいい人たちは自分の不利益になる人を殺すのにね」

「お前はそこまで監視してないのか?」

「ええ、あくまで『子供を救う』そこに意味があります」

「もういい。お前を殺す」

「いいんですか?私の立ち位置的にあの四名を殺せますよ」

 はっとする。そいつの場所は昇降口を登る階段辺りまで見渡すことができる。一対一で戦うつもりはないってはけだ。4人、久保田がなんとかしてくれるはずだけど、久保田が撃たれたら終わりだ。そもそも、なんでここに須藤がきたのかわからない。なぜ、僕たちがここにいることを知っているんだ。

「ああ、それでもいい。お前を殺せるなら。どうせ、咲良を殺したのもお前だろ」

「ん?・・・ああ!そうですよ!あなたですよ!私はあなたを待っていた!あの時の憎しみに満ちた顔を見せてください!そうですそうです!あなたは私にあなたの彼女も殺された。そして、あなたは母親を殺した!何がともあれこちら側だ。私についてこればあそこにいる四名は殺さないであげましょう!!」

 許すわけにはいかない。ここで殺す。銃を構える。顔面に当たるように手首を固定する。

「僕はそっちに行かない。俺はお前を殺す。あの時の憎しみを見せろ?死んだ後でじっくり見せてやるよ」

「それは面白い。ならば時間との勝負としましょう!今の私は気分がいい!あなたが私を狙い私が彼ら4人を殺す。あなたが撃てば私も撃ちます」

 殺す。殺してやる。全てを奪ったお前を絶対に。

 状況を把握するために久保田たちを見る。栗林さんがきているのか深山、青井はそいつに狙われるような場所にいない。あとは久保田と須藤。ギリギリのタイミングでそいつを撃つ。

「お前はなぜこんなことをする。なぜ人に家族を殺すように伝えるんだ?なんのために」

「なんのため?誘導するつもりですか?まあいいでしょう。一対一を望むのであればそうしましょう」

 バレてる。でも、ここで撃てば確実にどちらかは殺される。

「と言っても、私に慈悲を求めないでください」

「は?」

 気付くのも遅くそいつから鉛玉が放たれた。再度構えて銃弾を放つ。が、見極められているのか交わされる。

「・・・くっ!」

 気づけば、そいつは僕の間合いに入っていて押し倒される。

「あなたは馬鹿ですね。あの時も見たでしょ?天音咲を殺そうとした安間を私が殺した。一応仲間だったんですがね。あなたの見直な人に接触したので殺しました。また接触されると私の望みが叶わない。あなたがこちら側に来ることが望めない。それは私にとっては最悪なのですよ」

「なんで、僕に固執する?」

「あなたの顔がもっと見たいのですよ!あなたが私たちを憎む顔が、家族を恨む顔が最高なのですよ!人は時にして我を失う。壇真人を殺したのも我を失ったからでしょ?そして、私に食ってかかったのもそれだ。あなたの話は美羽咲良から聞いてます。なので、あなたがそんな顔もできるのかと興奮するんです!試しに美羽咲良を殺して正解だった」

「お前、何を言ってる?」

「ああ、勘違いしないでください。もともと、私たちの考えに背いていたので殺すことは確実でした。でも、美羽咲良が言っていた人を知りたかった。まさか、殺したことであなたの家庭も知ることができた。あなたが母親を殺した後も殺す前も監視していたのですよ!あの、憎悪に満ちた顔を忘れられません!あれほどに家族を恨む人は見たことがない。だから、すぐに父親も殺すのかと思ったら違った。それは少し残念でした。なので、つい先ほど、あなたの父親にスパイスをかけてあげました。これからが楽しみですね」

「お前!ふざけるなよ!!」

 至近距離で銃弾を放つ。が、それも見破っていたかのように交わす。そして、2、3歩引いた場所で久保田たちがいる方向を見る。

「オラっ!」

 その声と同時にそいつは飛ばされた。その声は栗林さんだった。

「お前がここで死ぬことは許さない。間宮!これだけは言っておく!お前は自分の好きなように依頼を完遂しろ!」

「全く、力を持たない人間がこんなのこのこと危険な場所に来るものではありませんよ」

 そいつは鉛玉を放った。

「栗林さん!!」

「・・・っ!」

 その鉛玉は栗林さんの腹に命中。四つん這いに倒れ込む。

「全く、私の正体を見破っても特に意味はありませんよ。殺される覚悟で準備してくれないと。君のようにね」

 と、僕を見ながら言う。

「正体?」

「おっと、これ以上は何も言わせませんよ」

 そして、銃を栗林さんに向けて撃ち放った。咄嗟に、庇おうとしたのだが、栗林さんは・・・

「バカか!」

 そう言って、僕を突き飛ばした。その鉛玉は肩に命中。

「っち、外しましたか」

 そう言って、すかさずもう一発を当てた。

「今度はちゃんと頭に当たりましたね」

「栗林!!」

 急いで駆け寄る。

「それではまた。次に会うときはもっと多くの絶望を与えましょう。まあ、今回は彼を殺したことで深山達のことは水に流しましょう」

 それではと言って歩いていく。銃でそいつに狙いを定める。ふざけやがって。絶対に許さん。

「もういい、間宮。あいつの気が変わったらどうするんだ」

「栗林さん!」

 久保田が走ってくる。

「2人とも揃ったか」

 そいつの姿はもうない。

「お前たちは2人で1人だと思ってた。だが、もう違うな?1人でお前1人だ。子供じゃない。依頼者を全力で救え」

「何を最後みたいなことを・・・」

「もう、意識もやばい。最後くらいカッコつけさせろ」

 栗林さんは吐血した。

「おい・・・」

「大丈夫だ。あいつの正体は身近にいる。それと、依頼だ。俺の分まで生きろ。それと、須藤も含めて幸せになれよ」

 俺は須藤に嫌われてないかなあ、と震えた声で言った。

 そして、口から大量に血を吐き出し意識は消えた。

「おい!栗林!死ぬな!お前が死んでどうする!!死んでどうするんだ!お前の同級生である鬼頭になんて言えばいいんだ!!」

 そんな声も届かない。

「栗林さん!あんたの依頼引き受ける!だから、まだ助かってくれ!」

 久保田の声も届いてない。でも、少し笑ったように見えた。

 その後、救急車きて栗林さんは搬送された。しかし、命が助かることはなかった。深山と青井は撃たれたものの意識はあり、病院で眠っているらしい。須藤は二発とも庇ったそうだ。一発目は僕が見たように青井を、二発目は久保田を守るように背中を撃たれたらしい。意識がなく病院で眠っている。

 最悪の結末だった。準備していたはずなのに栗林さんが殺され『救世主』の情報も特になかった。そいつは身近にいる。なぜ、名前を出さないのかわからなかった。あとは僕の父親になにをしたのか。

 謎は謎のままだった。なぜこんな目に遭うのか。栗林さんを殺し、天音咲、壇真人、安間さえも殺した。そして、彼女である美羽咲良も殺した。『救世主』を名乗る殺し屋を生かすつもりはない。絶対に、殺す。

 僕は気づかなかったのだ。この時にはすでに復讐の連鎖が続いていることに。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ