第一章 第六話
夜になり、沙織、芽美、森田一家、秋津父子の7人で、高級中華料理店に行った。
「悠斗君は、漫画好きなんだね」
「はい、実は私も、好きで描いていたりするんですが…」
「そうなの?次の機会とかに見せてくれない?」
「いいんですか?有難う御座います!」
沙織からのお願いに、悠斗は喜んだ。
「良かったじゃないか悠斗」
「あ、ああ」
「英子(悠斗の母親、文彦の妻)はどうも、悠斗の趣味が理解できないようでね…」
「は、はあ…」
文彦は頭を抱える。
「いいよ、母さんのことは」
「私も、英子には『見守ってやれ』と言うんだが、中々頭が固くて。『リベラル』ではあるが、日教組幹部候補だから、さもありなんなのだがね」
「あ、あの日教組…」
沙織でも、その組織の名は聞いたことがあった。日教組は、戦後『平和教育』『子供を戦場に送らない』ことを高く掲げて、労働党と連携して、保守党政権に歯向かってきた、日本最大の教職員組合である。しかし、その強すぎる政治色は、保守派のみならず、一部リベラルからも顰蹙を買っていた。
「そうそう悠斗君、どんな漫画書いているの?」
「ギャグマンガだったり、戦記物だったり」
「おおなるほど」
「あ、でも可愛いキャラとかも書いたりしているので、沙織姉貴も読みやすいと思います!」
「ふふ、楽しみにしているね」
一方、7人から少し離れた席に、とある5人が会食していた。
「高校は楽しい?」
老婆が孫に話しかける
「まぁね、とりあえず上手くは行っている」
「ハッハ、まぁよし君の頭なら、きっと良い成績残せるわ」
「…」
「何浮かない顔しているのよ」
「いや、何でもないけど…」
「ならいいんだけど」
すると今度は、よし君と呼ばれる少年の母親(老婆の娘)に顔を向ける。
「ところで春子、(よし君も)そろそろ塾とか予備校とかも行くんでしょう?お金出すわよ?」
「まぁ、まだ1年生で、一貫校とはいえ、学部も学部だしね」
「う~ん、僕はまだ学校だけで良いと思うんだけど」
よし君は難色を示す。
「でも、早めに手を打っておかないと、医学部だと高3始まるころまでにはそれなりの難度の問題も解けて、好成績残さなきゃいけないのよ。学校生活、楽しんでもいいけど、将来の為によく考えて」
「うん…」
その様子を、母親の妹:睦子がやや心配そうな目をしていた。
食事が終わった沙織たちは…、
「いやぁ、美味しかったぁ!」
「それは良かったです」
「中々実家では中華料理を口にしないので、ちょっと新鮮でした」
「そうなのですか。それは何より」
そう言いながら、森田正好がとある二人を遠目に見ていた。
「どうしたのですか?」
「あ、いや、ちょっと見知った顔があったもので…」
その二人とは…。
「やっぱり医学部行きたくないな…」
「う~ん、もうお姉ちゃんとママ、何が何でも行かせる気になっているよね。私はもう止められないな…」
「それでも…、僕にはやりたいことがあるのに。前それを仄めかしただけで、否定されてるし、どうにかならないかなぁ…」
「私も、コネクション使って何とか解決策考えてみるから、それまで頑張って…」
「有難う、叔母ちゃん」
その様子を見ていた森田は呟いた。
「また斯波家で、めんどいことが起こってそうだな…」
睦子の姓は『斯波』。その甥の名は玉川芳彦。後に彼は、沙織や秋津の運命を変えるどころか、とある業界に旋風を巻き起こすことになるのだが、まだその風格は漂っていない。
多分、『内閣総理大臣 秋津悠斗』『愛殺新訳外伝』をお読みの皆さまは、玉川芳彦の正体を当てることができるかもしれません(笑)