第一章 第五話
夏休みに入り、沙織は芽美とこのみの三人で、お忍びで東京へと旅立った(このみは帰省目的)。
三人が出発した夕方、大統領本邸では、子供たちの楽しい声が聞こえていた。
「こうして、家族団欒できるのは久しぶりだなあ。沙織が居ないのは珍しいが」
「確かに。俺がしくじって以来、こうして集まってなかったな」
正興とその長男:正顕が話していた。
「まぁ、あの頃に比べたら、今の方が悠々自適に暮らせて楽しいけど(笑)」
「全く、お前というやつは自由人過ぎるわ(苦笑)」
「子供たちのお世話をして、妻のみならず愛人たちとも暮らせて、こんな幸せなことはない」
「(大きな溜息)」
「おいおい親父、そんなクソデカ溜息つかなくてもいいだろ?一応頼まれた仕事はちゃんとやってるわけだし」
「まぁ、それはそうだがなぁ。くれぐれも、また悪評立てられないようにしろよ」
「分かってるって(笑)」
「(はてさて、正顕のやつは、本当に分かっているのか、甚だ疑問だな)」
先に言っておくと、正興の心配は杞憂に終わる。前回の失脚で程々懲りたのか、正顕は愛人を2人より多くすることは無く、また、妻も愛人たちも平等に愛したことで、彼女たちも不満を殆ど持たずに、これ以降も過ごすことになる。
「おじいちゃん、スイカ割って~!」
正顕の長男:正清(6歳)が、妹:麻璃亜(4歳)も連れて、正興に近づいてきた。
「よーし、久しぶりにやるかの」
そう言って正興は、目隠しをして、木刀を持って、意気揚々とスイカ割りに向かったのだった。
一方その頃、東京に着いた沙織たちは…。
「お邪魔しまーす!」
「こんにちは~」
「パパ、ママ、ただいま~」
沙織と芽美は、森田このみの家に泊まることになっていた。
「ようこそいらっしゃい。疲れたでしょう。ささっ、2階に上がって荷物を置いてきてください」
現役農水大臣の森田正好が、家の中を案内した。
「流石、東京の高級住宅街は違うわ…」
「そうね…。何か、ちょっと幻想的かも」
「沢山ライトが付いていて、奥の方にはいっぱい高層ビルが建っていて…」
「流石に南興島でも見られないよね、こんな光景」
暫く部屋でゆっくりしていると、数人森田家に入ってきた。
「文彦さんに悠斗君、いらっしゃい!」
「おうおう、お帰り、久しぶりだろう東京は」
「はい、やっぱり落ち着きますね」
「このみ姉貴、これプレゼント」
そう言って、秋津悠斗が手提げ袋を渡してきた。彼はまだ中2ながら、身長170センチで、スタイル抜群のイケメン少年である。
「これ、欲しかった漫画!」
「ああ、どうせ南南興じゃあまり手に入らないだろうと思って」
「有難う!いくらしたの?その分払うよ?」
「いいよいいよ、これは俺の気持ち」
「そんな、悪いよ…。じゃあせめて、私が東京居る時に、お茶奢るよ」
「あ、じゃあ、お言葉に甘えて…」
「ふふっ、身長も高くてイケメンになってきたけど、可愛いね(笑)」
「な、なんだよ…(と言って、顔を赤らめる)」
そこに、沙織と芽美も1階に降りてきた。
「あら、秋津さんでしたっけ」
「そうですそうです。あの時以来ですな」
「はい、お元気そうで」
「はは。おい、悠斗。挨拶しな。この方は、南南興の楠木大統領の二の姫様だぞ」
そう言うと、沙織は少し照れた顔をした。
「は、初めまして、秋津悠斗と申します!」
「こちらこそ初めまして、楠木沙織と言います。これから宜しくお願いしますね」
「お願いします!」
これが、楠木沙織と、後に『保守党の風雲児』と呼ばれる秋津悠斗の、運命的な出会いであった。
(補足)
先に言っておきますが、沙織と悠斗が男女の関係になることはありませんが、それなりにお互いにとってなくてはならない関係になります。どうぞ、これからの展開をお楽しみください。
また、この場を借りて、秋津悠斗他諸々のキャラを派遣してくれた、とや松氏に感謝の意を表します。
「これからも共にいい作品作ろうな!」