第一章 第四話
ドームホテルに着くと、このみの父:正好がエントランス前で待っていた。
「おお、このみ。遅いから心配したぞ」
「パパ、ごめん。携帯の充電切れちゃって、道に迷ってた…」
「あぁ、そうか…。で、後ろの二人は?」
「そうそう、このお二人が、ここまで案内して下さったの」
正好は、後ろの二人の顔をよく見ると、やはりその一方の正体に気付いた。
「あの、もしや大統領の娘さん?」
「はい、初めまして。楠木沙織と申します」
「あ、これはどうも。この度は娘がお世話になりまして」
「いえ、楽しくお話しさせていただきました」
「それは何よりです。娘は、色々あって、あまり所縁の無かったこの地に留学することになって、私たちも心配しておりました。もし差し支えなければ、これからも娘と仲良くしてくれたら幸いです」
「勿論です!あ、でも私、まだこのみさんとメアド交換してなかったです」
「そうでしたね、交換しましょ」
「あ、私もいい?」
そうして三人でまた少し喋り始めたとき、エレベーターからアロハシャツを着た壮年の男が、沙織たちに近づいてきた。
「おお、何だか楽しそうですな」
「お、秋津君じゃないか」
「彼女たちはこのみちゃんのご友人ですか?」
「うむ」
「良かったですね。このみちゃんもこの地で楽しく過ごしているようで」
すると、メアド交換を終えたこのみが、彼らに近づいてきた。
「文彦さん、お久しぶりです」
「おお、元気にしてたようだね」
「文彦さんはどんな用事で?」
「俺は、インフラ整備の視察だね。今国土交通副大臣だし」
「そういえばそうでしたね。悠斗君(文彦の息子)は元気にしていますか?」
「おお、元気だぞ。よく分からないけど、相も変わらず漫画を量産しているよ」
「悠斗君らしいですね(笑)」
そういうと、秋津文彦は沙織と芽美に近づき、名刺を渡しながら挨拶を交わした。
「千葉の方なんですね!ディズニーランド、何回か行ったことあります!」
「ハハハ、流石は日本贔屓の『お姫様』」
そう言うと、沙織は苦笑したが、文彦は言葉を続ける。
「まぁ、あそこは東京に凄く近いからなあ。もしまた、日本に来る機会がありましたら、是非東京ドイツ村に遊びに来てくださいな。千葉は袖ヶ浦にあります。ドイツ料理やイルミネーション、あと動物と触れ合えるところもある上に、周辺にはゴルフ場も沢山あります。何かの機会に、お父上と一緒に」
「楽しそうですね!ちょっと父にも話してみます(笑)」
そうして、沙織と芽美は、秋津と森田親子と別れ、近くの喫茶店に入ったのだった。
その夜、森田大臣から感謝の電話を受けた正興は、夕食の席で沙織に意外なことを伝えた。
「森田君かぁ。懐かしいな」
「元から知り合いなの?」
「ああ、実は大統領に就任する前に、君の曾爺ちゃん(楠木正武前大統領)の代理として、東京で会ったことがあってね。わしがドラムで、正純がベース、森田君がキーボード兼ボーカルで、何曲か即席でビートルズを合奏したことがあるよ」
「へぇ、意外。っていうか、お父さんドラム叩けたんだ」
「まぁ、今はどっかの倉庫に眠っているがな」
この後、正興は一人で、Band of GIINのCDを聞きながら、その時の思い出に浸るのであった。