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南興の赤星  作者: KKKI
第四章
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第四章 第八.五話

 『第九話』でも良かったのですが、本筋からやや逸れ過ぎな感が否めないので、敢えてこの番号を振りました。

 芳彦が帰った後、睦子は一人リビングでコーヒーを飲んでいた。そして、パソコンを開いたのだが、どうも今日は仕事の整理をしようにもやる気が出ない。いつの間にか、昔のことを思い出していた。

 斯波睦子は1969年、下関生まれ。管領斯波家当主:斯波義矩の次女として生まれた。義矩は、その父の実森とは違って理系で、自動車関連の技術者となっていた。特にエンジンオイルについては山口県で右に出る者はいないと言われていた。

 しかし、睦子が9歳の時、母親が蒸発した。義矩は働き盛りであったため、実森・きよ夫婦が実質的に睦子とその姉の春子を育てることになった。だがそこから、既に跡継ぎ指名を受けていた春子が反抗期に入ってしまった。春子は母親と仲が良かったため、母親の散財に『厳しく態度』をとった斯波家全体を憎むようになった。実森だけは、春子の勉学の才能を認めていたため仲は悪くならなかったが、きよは厳格な人物であり、春子の反抗的言動を咎めることがあった。この後も春子の態度は直らず、結局高校卒業と同時に自ら跡継ぎの座を降りて、家を飛び出して、母親を頼って上京した。そうして、図らずも睦子が跡継ぎとなってしまったのである。春子は、覚悟していたとはいえ、跡継ぎ指名そのものは不本意であった。働いてばかりで家庭のことをあまり顧みなかった義矩との関係も決して良くはなかったが、名門である斯波家を絶やすことはできないという意識が、睦子にはあったのである。

 彼女は高校時代に、当時黎明期であったコンピューター、インターネットに興味を持ち、卒業後はそれを学ぶために上京した。そして、専門学校を卒業して就職したが、そこで才能を認められ、一躍界隈で比較的知られる存在になった。そして、周りの勧めで独立し、40歳までに1億円近く稼いだのである。それまでに、恋愛関係になった男性は何人かいたものの、何れも破れてしまい、独身を貫くことになった。

 また、35歳の時に義矩が脳梗塞で倒れ、体が不自由になってしまった。これを機に睦子は家督を相続し、斯波家当主となったのである。睦子は、ここで当主としての意識からか、当時あった全ての財産をはたいて、埼玉県で和風邸宅を築いた。ようやく和解できた義矩に、斯波家の復興の兆しを見せたいという、ちょっとした親孝行の思いもあった。以降はその邸宅で、プログラマー業の傍ら、株取引にも挑戦し、一定の成功を収めたのである。

 一方、当主としての睦子は、決して順調とは言えなかった。当時の斯波家一門の殆どが大卒であり、当主であるにもかかわらず専門学校卒の睦子のことを軽蔑する人が、一門に少なからずいたのである。彼女が経済的に成功していても、彼らにはどうでもいいことであった。また、跡継ぎの座を放棄した春子(家出後、成法大学を卒業)の肩を持つ人も居た。更に、春子本人との関係は悪くなかったものの、先述した通り彼女は斯波家に対して極めて否定的であり、『睦子の代で斯波家を終わらせればいいじゃない』と放言して憚らなかった。このように、睦子の立場は不安定そのものであった。彼女が当主の座に留まることができていたのも、父で前当主の義矩と、春子に反発して斯波家復興を目指す玉川芳彦が支えているからに他ならなかったのである。


 邸宅を立てても尚、資産を築き続ける睦子。不本意で継いだはずの当主の座であったが、今ではその座に誇りを持ち、その資産で何とか斯波家を上向かせようと奮闘していた。しかしながら、一族内は分裂の危機に陥っており、それを自分の姉が助長しているという、非常に宜しくない状況に置かれていた。そこから脱出すべく、斯波睦子は逆転の機会を伺っていたのである。その機会が、実は2年後に迫っていることを、本人を含め、まだ誰も知らない。

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