第四章 第八話
沙織と物部たちの密談と同じ頃。
「叔母ちゃん、来たぞー」
「やっほー。上がってー」
玉川芳彦が、斯波睦子邸を訪れていた。
「いやぁ、やっぱり叔母ちゃんの家は落ち着くわ」
「お姉ちゃん、家には私を呼ぶのに、うちにはたまにしか来てくれないよね」
「やっぱり、どうしても嫌なんじゃないんの?斯波家の雰囲気を感じてしまうのが」
「まぁ、そうなんだろうねー。あ、そうそう、これ」
そういうと、睦子が封筒を渡してくる。
「ん?こ、これは!」
「大学の入学祝。起業資金にでもして」
「いやぁ、有難い」
中には十万円が入っていた。
「それはそうとさ、この前、前田さんと会ったんでしょ?」
「そうね。というより、実は宇喜多さんのところに行ってきたんだけど」
「宇喜多?宇喜多って、南興の元酋長の家だよね?」
「そう。そこで、楠木大統領と会ってきた」
「え…、楠木?」
芳彦の顔が曇る。
「どうした?」
「い、いや。まぁ何と言うか…、凄く意外だなぁって」
「楠木さん、確かよし君と3歳しか違わないらしいわよ」
「らしいね、某百科に情報載ってた」
「若いのにしっかりした子でね。穏やかで、気立てが良くて。確かに党の幹部からの支持を得るだけのことはあるなって」
「ふーん」
「どうしたの?難しい顔して」
「いやさぁ、南朝の楠木がああやって上手く行ってるのに、何で北朝の斯波家はこんなにも弱くなっちゃったんだろうって」
そう芳彦が言うと、睦子は困惑気味になった。
「い、いやいや。叔母ちゃんは凄く頑張ってると思うよ。突然家を継がされて、その時全然資産も無かったのに、一人でプログラマー業を成功させて。母さんとは違うよ。母さんは、父さんの成功に乗っかりながら、俺の将来を思いのままにしたいとしか思ってない」
「それはそうよねぇ」
「勉強を教えてくれて、世良田に合格させてくれたのは良いとしてもさ、頭が良いからって、そして父さんが医者だからって、医学部に無理やり行かせようとしているわけじゃん」
「お姉ちゃん、まだ諦めてないんだ」
「うん、理学部卒業したら、どこかの医学部に再入学させる心積りらしい。この前もお婆ちゃんとそんな話をしていた」
「お母さんまで…」
「まぁ、その話は置いておいてさ。なんか悔しいんだよねぇ。こうも差が出てくるの」
「その気持ちは分かるわ」
「実森さん、義矩爺ちゃんの二代で何とか立て直したかと思ったら、婆ちゃんが散財して斯波家をまた一文無しにして。その婆ちゃんは蒸発して、良く分からないお医者さんと再婚して豪勢な暮らしをしているし。元凶は婆ちゃんなんだよな。それに乗っかろうとする母さんも母さんだけど」
「それでお姉ちゃんは家督相続を放棄して、私にそのお鉢が回ってきちゃったからね…」
「あと、父さんも父さんなんだよなぁ。元々は新聞記者で、母さんとお婆ちゃんに乗せられて医者に転身したのは何とも言えないけどさ、母さんや婆ちゃんたちとグルになって、医学部進学を強制しようとするのは腹立つ」
「お義兄ちゃんもねえ。どうしてああなっちゃったんだろうね」
「そのためにも、とっとと事業始めて、第一目標を達成したい」
「くれぐれも、怪しいところと手を組まないようにね」
「それは気を付ける。これは、斯波家の将来にためにも、成功させたいから。南朝の楠木家にも、負けてられない…」
芳彦の野望の炎は、より一層燃えるのだった。




