第四章 第四話
翌日、沙織たちはモンゴルへ向かっていた。
「ずっと、雪…」
「草原が広がっているイメージがあったけど、確かに中国の北だもんね…」
沙織と奈穂が言った。そして、首都ウランバートルに降り立つと…。
「寒っ!!」
「こんな寒いんだったら、もっと厚着すればよかった…!」
モンゴルの冬は、最低気温が-25℃前後、最高気温も-10℃くらい迄しか上がらない、沙織たち南国の南興人にとって『極寒の地』であった。一行は、そのまま送迎の車に乗り込んで、大統領府へと向かった。
モンゴルは、社会主義独裁体制を放棄して以降は、事実上の全方位外交を行っていた。南南興とモンゴルの関係は、中国程悪くなく、大統領同士の会談も終始和やかに行われた。その後、夕食会が行われ、モンゴルの伝統料理が振舞われた。
その翌朝、沙織と奈穂は、とある人物に会いに行った(因みに、正純はモンゴルの首相に誘われて乗馬に出掛けた)。その人物は、流暢な日本語を話す、超有名人である。
「遠いところからわざわざ来ていただいて、有難う御座います」
「こちらこそ、白日竜さんとお会いできて嬉しいです!」
モンゴル出身の元横綱、白日竜は現役時代、実力こそ折り紙付きであったものの、何かと世間を騒がせる人物であった。そして、とある騒動で引退、帰国してからは実業家として成功、日本との貿易も積極的に行っていた。
「さぁ、こちらへ」
「あ、その前にここで、一つお願いがあるんですけども…」
「はいはい、どうされました?」
「ここで、私を持ち抱えてくれませんか?」
沙織の言葉に、取材していたマスコミたちは驚いていたが、
「ハハハ、そんなことですか。大統領の御願いでしたら、喜んで」
そう言うと白日竜は、軽々と彼女をお姫様抱っこしたのである。勿論すかさず、マスコミたちが写真を撮ったのは言うまでもない。因みに、この一連のやり取りは、事前に打ち合わせされたものだったりする。
その一幕の後は、別室に移り、真面目な交易の話になった。実質的な日系ともいえる南南興について、彼はここ数年で興味を持つようになっていた。特に、南南興で栽培されているバナナや海鮮類は中々良質かつ廉価なものであり、是非とも仕入れたいところであった。対して沙織も、珍しいモンゴルの乳製品を仕入れることは、文化交流の面から悪くないと思っていた。両者は、数十分の話し合いのみで直ぐに合意、取引は成立した。
そして昼、彼女はウランバートル国際空港の一般客に紛れ込んでいた。
「沙織ちゃん、いつものことだけど、正体がばれないようにな」
「伯父さん、分かってるわよ。上手くやるから」
「奈穂ちゃん、沙織を宜しく頼んだぞ」
「承知しました」
沙織と奈穂は、一路お忍びで日本へ飛び立つのであった。




