第四章 第一話
2018年1月27日、楠木沙織大統領は、南南興第二の都市である禄港にいた。この年の建国記念式典は、異例ながらこの禄港で行われることになっていた。これは、先代の正興が予め決めていたことであった。
「地方の活力も盛んにする。国を運営する上で大事なことよね」
「その通りです。首都だけ栄えていても、もし首都で何かあった時に、地方がしっかりしていなければ、早く立て直しができませんからな」
沙織と、関泰弘首相が言った。
「それに対して日本は、相変わらず東京一極集中が続いていますな」
「あの国は超少子高齢社会ですから…。若い人たちはどんどん東京に移住して、地方の高齢者の比率が高まっているらしいです。幸い、この国は地元に残ってくれる人が多いので、まだ地方は元気ですが…」
「先代で、国内移住制限がかなり緩和されましたからなあ。無策のままでは、日本みたいになりかねませんな」
建国記念式典では、軍の行進が広場で行われ、その後で沙織が演説を行った。大衆の目の前で演説の行うのは、今回が初めてであった(テレビの前で演説を行ったことはあった)。
「緊張した…」
「初めてにしては良く出来ていたぞ」
伯父である岩松正純元帥が、沙織を労った。
「なら良かった…」
「何度か実践を重ねれば、お父さんみたいに立派にできるようになるぞ」
「そうね、練習あるのみね…」
一方、興城では…。
「けっ、沙織の演説で、皆拍手喝采か」
「まぁしょうがないじゃない、それが『しきたり』なんだから」
「それでも気味悪いわ。俺の方が演説できるわ。お姉ちゃんもそう思わないか?」
「それはそう思うわ。今は、十中八九正純伯父さんが裏で操っていると思う」
楠木正朝と、異母姉の千種佳歩が愚痴を言っていた。
「ねえ、お姉ちゃん」
「何?」
「一応、関のおっちゃんにも言うつもりなんだけどさ」
「うん」
「この家に引っ越したいんだけど」
「えっ?」
「今、第二別荘に引っ越す話が出ているんだけどさ、そうなると市街地から結構離れるじゃん」
「そうね…。そこからだと、車で30分弱かかるわね」
「これでも一応、俺と仲良くしてくれる人たちは結構いるからさ。少しでも中心に近い方が良いんだよね」
「なるほど…、分かった。私からも沙織に頼んでみるわ」
「助かる」
翌々日、沙織は佳歩から事情をきいた。
「私は構わないんだけどね…」
「田舎に行っても、正朝さ、つまんないと思うのよ」
「お父さんが生きていた時も、街中で色々と遊んでいたからね」
「あなたが継いだことで、正朝、かなり鬱屈しているわ」
「ま、まぁ…(お姉ちゃんまで皮肉?)」
「だから、ちょっとでもストレス発散させてあげてほしいの」
「分かった、前向きに考えてみる」
その夜、沙織は正純を楠木邸に呼び出した。
「俺は反対だな」
「え、何で?」
「田舎の方が、彼のことを監視しやすいからな」
「それもそうだけど…」
「いいか?親族であっても手を抜くな。特に正朝は君のことを凄く嫌っているのは、君自身分かっているだろ?」
「それでも、ストレスを軽減させて、ある程度暮らしやすくしてあげるのも、暴発させない策だと思うの」
「そんなことで、正朝は治まると思わんけどな…」
「いずれにしても、孝也お義兄さんも私たちに反対していたわけで、佳歩お姉ちゃん含めたその家族も監視対象にはできるはず。だから、まとめてお願いできないかしら」
「なるほどな…。一応可能ではあるな。分かった、手はずを整えよう」
一週間後、楠木正朝は、千種家の離れに引っ越していった。同時に、兄妹たちの母である涼子も、楠木家の第二別荘に移った。これにより楠木家本邸には、沙織と正藤一家のみが残ることとなった。




