第三.五章 第二話
12月26日昼、東城父子と秋津悠斗は、興城国際空港に到着した。その日は、駐在官の宿舎に入り、翌朝、楠木沙織大統領と面会した。信任状の捧呈を早々と済ませ、その後は非公式にお茶会となり、ここから洋介と悠斗が合流した。
「改めて、突然なお願いにもかかわらず、洋介と悠斗君の『短期留学』を引き受けていただき、感謝申し上げます」
「いえいえ、この国でどこまで勉強したいことが学べるか心配ですが、有意義な2週間になれば幸いです」
「沙織姉貴、いや、委員長閣下の下で仕事を見学できることは中々ないので、楽しみです」
「フフッ、ここでは沙織姉貴でいいわよ」
「あ、ありがとうございます」
悠斗と沙織が和気藹々に会話していた一方、ここまで洋介は、終始無言であった。
「洋介先輩、何か姉貴に質問無いんですか?」
「あ、いや、ちょっと緊張しててな」
「珍しいなぁ。いつもは堂々としているのに」
「ま、曲がりなりにも相手は国家元首だし…」
「洋介君、そこまで緊張しないでいいのよ。ここの会話は基本的に誰も聞いていないし」
「わ、わかりました(汗)」
だが、沙織の声掛けにもかかわらず、終始洋介は固まったままだった。
そして、宿舎に戻った洋介と悠斗は…。
「殆ど喋ってなかったじゃないですか、先輩」
「いやぁ、結局緊張しっぱなしだったわ。ここまで緊張するの初めてだったかも」
「本当は、違う理由があったんですか?」
「実はな…、ここだけの話にしてくれ」
「勿論」
「思ってたより美人で、顔を余り見られなかった」
堅物の洋介らしからぬ発言である。当然、悠斗は笑ってしまう。
「しょ、しょうがないだろ?綺麗な方だったんだから!」
「確かに、俺たちと比較的年齢近いですし、結構可愛いですもんね」
「そう思っていたら、美咲のことも思い出してしまって」
「ほう…?」
西村美咲は、東城洋介の幼馴染にして恋人である。因みにその父親:篤志も保守党の衆議院議員である。
「美咲以外の女性に見とれてしまった自分が、恥ずかしくてな」
「なるほど…。やっぱり美咲先輩に一途なんですねえ」
「わ、笑うんだったら笑えよ!」
「すんません(笑)」
「でも、これからあの方の下で『仕事体験』するわけか…」
「そういうことになりますね」
「ここは、言語こそほぼ同じだけど、何から何まで違うからな」
「とは言っても、機密のこともありますから、深いところまでは関われないと思いますけど」
「それでも、何かしらの収穫が得られれば」
「ですね」
するとそこに、幸一が現れた。
「洋介、悠斗君、荷物を纏めてくれ」
「「えっ??」」
「沙織さんのご厚意で、君たちの為に、急遽下宿先が用意された。今日からそこに泊ってくれとのことだ」
「な、なるほど」
「分かりました」
その日の夜、洋介と悠斗は、駐在官宿舎を発ち、下宿先へ移動した。
「ようこそ、高宮家へ」
下宿先は、沙織の側近である高宮奈穂の家であった。
「高宮さん、今日から宜しくお願いします!」
「まさか奈穂姉貴の家にお泊りすることになるとは思いませんでした。これから二週間宜しくお願いします!」
「ゆっくりくつろいで頂戴ね。沙織ちゃんから、二人のことを可愛がってあげて、って言われてるから」
「可愛がって、って…」
「流石は沙織姉貴ですね。では、お言葉に甘えさせていただきます」
遠慮気味の洋介に対し、悠斗はまるで『親戚のお姉ちゃん』の家に来たような感覚になっていた。




