第三章 第十一話
翌日、沙織は改新党本部へ向かっていた。
「二年前の夏休みでは、まさか自分が大統領になっているとは思っていなかったわ」
「私も、大統領の側で仕事をすることになるとは思ってもみなかったわ」
「奈穂ちゃんも、突然青年局の仕事と同時に、秘書官も引き受けてくれてありがとうね」
「(首を横に振って)いえ、こちらこそ私も、要職に抜擢してもらって嬉しい」
かつて、党青少年団で沙織の部下だった高宮奈穂は、大学卒業後、党青年局で働いていたが、12月1日付で沙織の秘書官(名目上は党中央委員会事務局主任事務官)にも抜擢されていた。
「中々私と同世代の側近が居ないから、心細かったのよ」
「それこそ、芽美ちゃんも抜擢したらどう?」
「う~ん、一応まだ大学生だからね~。余り負担はかけたくないかな」
「じゃあそれこそ、青少年団の女子部長とか。女学生を纏める仕事だし、適任じゃない?」
「それもそうね…。タイミングを見て打診してみようかな」
数分後、沙織と奈穂を乗せた車は、改新党本部に到着した。車をドアが開けられ、そのまま建物の中へ入った沙織だったが、よく見ると入り口が水で滑りやすくなっていた。
「沙織ちゃん、気を付けて!」
そう奈穂が言ったが、遅かった。そのまま沙織は、足を滑らせてこけてしまったのだ。
「大丈夫!?怪我はない?」
「うん、大丈夫。だけど…」
幸い、怪我は無かったものの、沙織の洋服が若干濡れてしまった。そこに、彼女を出迎えるために、改新党事務局長の立花康平がやってきた。
「楠木大統領、大丈夫ですか?」
そう言って、彼はポケットから手拭いを出し、沙織に渡した。
「立花さん、有難う御座います…」
「この様子だと、恐らくうちの掃除業者が床を濡らしすぎたのでしょう。大変申し訳ございませんでした」
「いえ…。幸い、メディアの方々が居なかったので、何とか…」
「さぁ、一旦空いている会議室に御案内しますので、そちらで着替えるか、乾かすなりしていただければ」
ドライヤーで洋服を乾かして、応急処置を終えた沙織は、15分後、荒垣健代表(防衛大臣)が待つ党代表室に入った。
「沙織さん、ようこそ改新党本部へ。まずは、先程の玄関の不始末、大変申し訳ございませんでした」
「いえ、大丈夫です。立花事務局長に、早急に対応していただいてお陰で助かりました」
「それは何よりです。立花君は、本当に気が利く紳士で、他党からも定評があるんですよ。私が太鼓判を押します」
「なるほど(笑) 本当に荒垣さんと立花さん、仲が良いんですね」
会談では、安全保障問題と絡めながら、南興労農党と改新党の両党の友好関係構築について議論された。
「少なくとも、中国に対して強い姿勢をとることについては共通しているようで何よりです」
「物部首相にも申し上げましたが、現在の中国の膨張政策は、帝国主義的といって差し支えありません。その上、少数民族の弾圧も行っています。万が一、南興が攻め込まれた場合、瞬く間に南興人そのものが弾圧されると考えております」
「改新党としても、日本にとって中国は大きな脅威になっていると考えております。これからも、両党間で情報共有を行いながら、人材の交流も検討していただければ有難いです」
両党の会談は、友好的な雰囲気のまま終わった。




