第三章 第九話
12月9日午前10時、東京・首相官邸にて、物部泰三・日本国内閣総理大臣と、楠木沙織・南興社会主義人民共和国大統領の首脳会談が行われた。会談冒頭、二人は共に笑顔で記念写真撮影に応えた。その後、会談室に入った。
「この度は、首脳会談に応じて下さり、誠にありがとうございます」
「こちらこそ、最初に会談する外国の首脳が物部総理で良かったです」
「私も、最初の外遊先に選んでいただいて光栄です」
会談は1時間半に及んた。特に、軍事的脅威となりつつある中国への対応については、深く話し合われた。
「私達の共和国は、これまで同じ社会主義国として友好関係を保ってきました。しかし現在、かの国に住む少数民族を武力で以て弾圧したり、同じ社会主義国であるはずのベトナムから南沙諸島を強奪したり、一部のアフリカの国々を、事実上の経済的植民地にしてしまったりと、帝国主義と言っても差し支えない行為をしております」
「仰る通りです」
「このようなことでは、いつ我が国が中国から本格的な圧力をかけられるか分かりません。我が国が望むのは、南興人民の安寧です。そのためにも、これからは貴国との関係を強化していければと考えています」
この言葉を、物部泰三は待っていた。
「そう言っていただけて、大変光栄であります。政治思想、国家体制は、何から何まで違いますが、私たちが持っている危機感、安全保障における認識、これを共有できたことについて、大変嬉しく思います」
「ありがとうございます」
「もし宜しければ、来年の早い段階で、軍部の高官同士の実務者協議を行うことができれば」
「分かりました。持ち帰り、文字通り前向きに検討し、良い返事ができればと思います」
その後は、経済連携の強化、そして人材交流の促進などが話し合われた。それぞれ、新たに協定を結ぶことで合意することとなった。
会談の後は、天皇陛下主催の昼食会となった。
「貴方が、南興島の楠木家の末裔の方ですか」
「左様にございます。陛下には、このような素晴らしい昼食会にお招きいただき、感謝申し上げます」
「楠木家は、建武以来の名門。建武の新政では、貴方の御先祖である(楠木)正成が、後醍醐帝の政を武で以て助け、新たな時代を築くことに奮闘されました」
「はい。父よりその話は、幼いころより聞いておりました」
「沙織さんも、正成のような、新たな時代を切り開く人になって下さいね」
「有難う御座います。祖国のために、そして陛下の御期待に応えるために、楠木沙織、全力で努めて参ります」
沙織が恭しく言うと、天皇は微笑みながら頷かれたのであった。
ホテルに帰った沙織は、随行していた遠藤と話していた。
「今日、陛下から有難い言葉をいただいたわ」
「うっすらですが、聞いていました」
「陛下のお声を聴いて、感じたことがあるの」
「何でしょう」
「私たちが日本人じゃなくても、大和民族の血が入っている以上、皇室への尊崇の念は無くならないんだなって思った。私自身、別の国を率いているのに、皇室の為に力を尽くさなきゃって」
「私も、理解できますよ」
「日本から切り離されて70年以上、よほどのことがない限り、このまま南興と日本は、別々の国のままで行くんだろうな…」
「ただ、日本の敗戦があったからこそ、アメリカの気まぐれがあったとはいえ、独立ができたのです。私は、これで良かったと思っております」
「それでも、これからは日本との関係を強化していく。南興の次世代の子たちには、日本に良い印象を持ってほしいなぁ。日本の伝統文化もそうだけど、やっぱり、行きつくところは皇室なんだと、今日改めて思ったの」
「ならば、数年内にも教育内容を改革しなければいけませんね」
「そうするわ。でも、今までの社会主義祖国についても、誇りを持ち続けてもらいたいと思ってる」
沙織は、日本への敬愛の念を、改めて強くしたのであった。




