第三章 第六話
国葬の二日後。
「美桜ちゃん、また南興に遊びに来てね」
「ありがとう!またお姉ちゃんに会いに行くね」
この数日の交流で、(正朝以外の)楠木一家と親しくなった美桜は、沙織や正顕たちのことをお姉ちゃん、お兄ちゃん呼びするようになっていた。沙織としても、妹ができたことは大変嬉しいことであった。
「多分今年中には日本に行くから、その時にまた会おう」
「分かった!楽しみにしてる」
そう言って勝村母子は、遠藤が用意した車で空港へ向かい、日本へ帰国したのであった。
これ以降2ヶ月間、沙織は新たな南南興の指導者として、多忙な日々を送った。その一環として、人事を改めた。先述の通り、既に元後継者だった兄:正朝は人民議会副議長に左遷されていたが、その他の正朝派の幹部たちは、まだ現職にとどまっていた。沙織体制を確立するためには、彼らを異動させることが急務であった。まず、副首相兼内務相だった千種孝也は、政治局員から中央委員に降格した上で、駐中国大使に異動させられた。佐野元彦人民議会議長も政治局員から中央委員に降格した上で、南西部の雫原郡長兼党雫原郡委員長に左遷、有田晋之輔中央軍事副委員長も政治局員候補から中央委員に降格した上で、駐ベネズエラ大使に左遷された。
その一方、沙織擁立に一役買った者たちは栄進した。生前の正興が主催した最後の政治局会議で、真っ先に正朝廃嫡を進言した間藤修司外務相は、現職留任のまま副首相を兼任し、政治局員候補から政治局員に昇格した。関泰弘首相は、現職に留任した上で、党副委員長を兼務することとなった。岩松正純陸軍参謀総長も、統合参謀総長に昇格し、名実ともに南興人民軍の実質トップ(名目上の最高司令官は大統領である沙織)に就いた。
そして、沙織の二番目の兄である楠木正藤には、教育大臣ポストが打診された。
「正藤お兄ちゃんが私を擁立しようとしたんだから、何かしら要職に就いてよ」
「いや、俺は今の立場でのんびりしたいんだよ」
「ちょっと無責任じゃない?もっと近くで、私のことを支えてほしいんだよね」
「それなら、大臣職より相応しい職があると思うんだけど」
「相応しい職…?ああ!」
「大臣じゃ、その仕事に追われて、それこそ近くで支える時間は、今より減ると思うよ」
結局正藤は、現職の国立興城中央図書館総長のまま、党書記を兼務することとなった。尚、沙織は更に、政治局員候補への昇格も打診したが、彼はこれを辞退している。
さて、副大統領兼党副委員長の遠藤通明であるが、先述したように、元々は正朝の立場を心配し、最後まで中立的意見を保ち続け、一部沙織擁立派の政治局員から不信感を抱かれていた。
11月2日、彼は沙織に元に参上した。
「遠藤さん、そんな険しい顔をして、どうしたのですか?」
「委員長閣下」
「…、はい」
「私、遠藤通明は、共和国副大統領、及び党副委員長の職を辞任したいと思っております。どうか、お許しいただければ」
「…、え?」




