第三章 第五話
正藤に案内されて、荒垣は正顕邸にやってきた。
「荒垣さん、お久しぶりです」
そう言って沙織がゲームから中座しようとしたが、
「いやいや、沙織さん、続けてもらって大丈夫です。押しかけたのは私ですから」
と荒垣は答えた。
ゲームが終わると、沙織と荒垣は別室に移動した。
「改めて、この度のお父君の逝去、お悔やみ申し上げます」
「ありがとうございます」
「私は直に話したことはありませんでしたが、岩松元帥から人となりは聞いておりました。若くして国を引き継がれ、冷戦後の苦境を乗り越えられた手腕は、立派だったと思います」
「そう言って下さり、父も喜んでいると思います」
「それはそうとして、沙織さん」
「なんでしょう」
「恐らくは今回、私を直々に葬儀にご招待いただいたのには、深い理由があってのことだと思いますが」
「その通りです。前回会った時のご回答をしようかと」
「なるほど。お聞きしましょう」
「私の最初の外遊先は、日本にしたいと思っております」
「有難う御座います」
「そして、数年内に、アメリカのジョーカー大統領とも会おうかと思います」
「なんと…」
「勿論、ジョーカー大統領と正式に会談するか否かは、党幹部との話し合いが必要になりますが、少なくとも物部首相との会談は反対する人は居ないと思います。居たとしても何とか説得します」
「感謝いたします。この旨、物部総理に伝えて大丈夫でしょうか」
「構いません、宜しくお願いします」
その後二人は、諸々の政策について意見交換を行った。
翌日は、正興の国葬の準備で、党政治局員から中堅幹部、将校までてんやわんやであった。また、同時に友好国の元首や外相なども南南興に到着し、その対応にも追われた。
この様子を、お茶を飲みながら遠目で見ている二人が居た。
「いやはや、まさか改新党の荒垣代表がいるとは思いませんでしたよ」
「あはは、ちゃっかり政府を代表して出席することになりました」
「こんなところを日本のメディアに撮られたら、ちょっと大変なことになりそうですな」
「確かに、労働党委員長と改新党代表が、二人一緒にカフェで過ごしているなんて、誰も想像していないでしょうな」
そう荒垣が言うと、蘇我和成・労働党委員長と共に大声で笑った。労働党は筋金入りの護憲政党、改新党はタカ派の改憲政党である。こんなところを見られれば、『密談』をしていると言われてもおかしくないが、ここは社会主義国の南南興、日本を含め、世界各国からやって来たメディア関係者たちは、南南興の治安警察に監視されており、勝手に動くことは許されていなかったのであった。
「蘇我さんにこういうことを言うのは良くないかもしれませんが、新しい大統領は、『小娘』ではありますが、元々の後継者よりも我々に好意的です。年内には首相との会談が行われることになります」
「おお、それは上々。私も、沙織さんには期待しておりましたから、労働党にとっては大歓迎です」
「これから、南南興との関係については、内々にはなりますが、蘇我さんにも相談しようと思っておりますので、何卒宜しくお願い致します」
「こちらこそ、これ以外の面では、野党としてあなた達と徹底的に戦って参りますが、このことに関しては、微力ながらお役に立てることができればと思います」
そしてその次の日、楠木正興前大統領の国葬が挙行された。世界各国から招待された要人の他、国内各地から市民が集まり、およそ25万人が前大統領との永遠の別れを惜しんだ。彼の遺体は、初代大統領の正武、その息子で正興の父でもある正光と同様に、防腐処理が施されて、三人並んで宮殿に安置されることになった。




