第三章 第四話
「この親子は誰だよ」
静かな、どすの声が部屋に響いた。声の主は正朝であった。
「落ち着いて聞いてくれ。君のお父様の愛人の方と、その娘さんだ」
岩松正純が言った。ここで誤魔化しても、どうせバレるだろうと考えたのである。
「何だって…!?」
案の定、正朝が激怒した。
「正朝、後で事情を説明するから、一旦戻ってもらえるか?」
正藤が言ったが、
「なるほどな…。親父も母さんのことだけを愛していたわけじゃないんだな…。そして、よりにもよって日本で愛人を作って、子供を産ませてたってわけか」
「おい正朝、本人たちの前でその言い方は」
正顕も宥めようとした。しかし…、
「まぁいいや。後で事情を聴くわ。でも俺は、この小娘を妹として認めないからな」
そう言って正朝は部屋を出ていった。
「申し訳ない。後で正朝のことは絞っておく」
正純が、亜沙美に軽く頭を下げると、亜沙美も同じように頭を下げた。
その日の夜、沙織と勝村母子は、正顕一家の邸宅で夕食をとった。
「沙織おばちゃん、美桜おばちゃん、一緒に人生ゲームやろうよ~!」
「うん、やろっか~!」
「あっ、いいよ~」
正顕の子:正清が、リビングに二人を連れて行った。沙織は、まんざらでもない様子であったが、美桜はほんの少し戸惑っていた。
「まぁ確かに美桜ちゃんも、正清から見れば叔母になるのか…」
正顕は独り呟いた。確かに続柄的には正しいのだが、美桜と正清は、たった6歳しか違わない。年齢差的には叔母と甥というよりは、姉と弟という方がしっくりくる。それ以上に、まだ15歳なのに「おばちゃん」と呼ばれた美桜が戸惑うのも無理はなかった。
「まぁ、正清が懐いてくれるんならいいんじゃない?」
「お義父様が生きている間に、美桜ちゃんを会わせられなかったのは残念ですケド、それでも直ぐに私たちと馴染めそうで、良かったデス」
正顕の妻:めぐみと、正顕の愛人:エミリアが言った。めぐみは正清の母親、エミリアは正顕の長女:麻璃亜と次男:顕博の母親である。
「これからは家族として付き合いたいと思っています。どうかこれからは、気兼ねなく南南興に来てくれると嬉しいです」
「そんな…、有難う御座います…」
正顕の言葉に、亜沙美は感激しながら答えた。
一方、楠木邸では、正純、正藤、正朝、遠藤通明の四人が夕食をとっていた。
「俺は、あの親子を家族として迎えるのは御免だぞ」
正朝は不貞腐れている。
「まあまあ、とは言っても、勝村さんたちはこれからも東京に住むんだから、あまり会うこともない」
正藤が宥めようとする。
「何なら君は会わなくていいが、存在だけは認めるんだぞ」
「伯父さんも、後継者だった俺に今日の今日まで隠し通すなんて、どういうつもりだったんだよ」
「君に伝えたところで、何をしでかすか分からんからな」
そう正純が言うと、正朝はガタンと音を立てて、席を立った。
「やはり、正朝様を後継者にしなくて正解でしたな…」
「遠藤君も、やっとそう思うようになったか」
「今日の正朝様の行動を見ていて、ようやく踏ん切りがつきました。改めてこれからは、沙織様に忠節を尽くしましょう」
これまで遠藤は、正朝の立場を慮って中立的な立場を貫いてきたが、これを機に彼を見限ることを選んだのだった。
その時、邸宅の門番がダイニングにやってきた。
「元帥閣下。日本の元空軍予備役少佐の名乗る方がいらっしゃってますが」
「空軍予備役少佐…?」
「左様でございます」
「えっと、予備三等空佐…、もしかしてあの奴か…?」
そう正純が言っていると…
「失礼しますぞ!」
誰かが大声で近づいてきた。これをもう二人の門番が止めようとするが、全く止まる気配がない。
「ちょっとちょっと、お待ちくださいってば!」
「いくら日本の大臣の方と言えど…」
そして、その大声の主が姿を現した。
「無理を承知で、お忍びで参りました」
「荒垣予備役少佐…、手荒な真似はやめてくれ…」
日本国防衛大臣、荒垣健のお出ましであった。
「姪ならここに居ないぞ?」
「これはこれは。ちょっと沙織さんに折り入ってお話がありましてな」
「彼女に話を繋げろと?」
「左様です」
「全く、図々しい大臣だ。まぁ待ってろ」
そう言って正純は、沙織に電話を掛けた。




