第三章 第二話
党本部では、政治局会議が続いていた。
「委員長、本当に周陣兵国家主席を呼ばなくていいんですか?」
「構わないと思います。但し、敢えて汪欽外相辺りは呼んでいいとは思います」
周陣兵は、中華人民共和国の最高指導者である。就任以来、その帝国主義的野心を隠そうとしておらず、アメリカや日本との軋轢を生んでいた。沙織も、その野望に強い警戒を示しており(逆に正朝は、彼との友好関係を主張していたが)、できれば距離を取りたかったのである。因みに汪欽は、表面上は反米・反日であるが、大学の日本語学科を卒業し、以前も駐日大使を務め、プライベートでは日本の高官とゴルフを楽しむなど、裏では知日家・親日家でもある。
「なるほど…、確かに汪外相なら、一定の配慮はしてくれるでしょうな。名案だと思います」
「有難う御座います。とは言いましても、流石にアメリカの高官は呼ばないつもりです」
「因みに、その心は」
「私も、そこまでアメリカとは近づこうとは思っていませんし。そうでなくても、代が変わっていきなり方針転換みたいに見られてしまうと、中国から圧力をかけられるでしょう。それに対して、アメリカが助けてくれる保証もないですから」
「委員長、いや、沙織様、その通りだと思いますよ」
「(少し照れながら)あ、ありがとうございます」
「もしこれが正朝様ならば、ここまで冷静に考えておられなかったでしょう。恐らくは、嬉々として周主席を迎え、西側諸国の高官を悉く参列させなかったでしょう」
「あ、忘れてました」
「どうされましたか?」
「一人だけ、日本の高官を呼びたいのですが。非公式でも構いません」
「ほう…。どなたでしょう」
「荒垣健防衛相です」
沙織は以前、日本を訪問した時に、森田正好邸で面会した時に『(南興労農党と)共に、中共の拡大主義に歯止めをかけたい』と、彼が言っていたことを思い出したのだ。
「ははぁ…。あの御仁ですか…」
「あの方は、割と我が国に対しては好意的です。まぁ、恐らくは下心あってのものでしょうけど。それでも、一回こちらから歩み寄ってみるのもアリなのではと思うんです」
「まぁ…。公式でも行けるでしょう。こちらから話してみましょう」
「間藤外相、お願いしますね」
その後、事務的な事項を確認したのち、会議は解散となった。
会議が終わって、自邸に戻った沙織は、正顕、正藤とともに、正興の遺体が置かれている部屋に向かった(正朝も誘ったが、大嫌いな妹に誘われて一緒に行くはずもなく、即拒否された)。
そこで三人が見たのは、見知らぬ母子が、父の遺体の前に正座しているところだった。
「(この人たち、誰だろう…?)」
そこに、遠藤副委員長がやってきた。
「ああ、委員長」
「あ、あの…、ここでも委員長って言われてしまうと、私も緊張しちゃうので、私的な場では前と同じ話し方で…」
「わかりました。沙織ちゃん」
「それはそうと…、あの方たちは、どちら様で…?」
すると、それに気づいた母子は、沙織たちに向き直り、お辞儀をした。
「委員長閣下、初めてお目にかかります。私、勝村亜沙美と申します」
「娘の美桜と申します」
そして遠藤が、三人にとって衝撃的なことを口にした。
「実は亜沙美さんは…、前委員長の日本での愛人です。そして、その間から生まれた娘さんが、美桜ちゃんです」




