第二章 第十三話
「おい間藤!なんていうことを言いやがる!」
正朝支持の千種孝也副首相兼内務相は激高した。
「この、関泰弘も同様に思います」
関泰弘は首相である。彼も遠藤同様に官僚型で、どちらかというと主張しないタイプであり、閣僚を纏めることに重点を置いていた。
「関、君もか」
「大統領閣下、大変いいにくいですが、正朝様の激情的性格、そして好き嫌いの激しい性格は、党内分裂を招く恐れが大きいと思われます。外交・安全保障も理想重視で動かれることも予想されます。そうすれば、大局的な視点を見失い、間藤同志が言ったような事態に、陥ることにもなりかねません」
「この岩松正純も、同様にございます。党内分裂は、軍の内部分裂も誘発します。逆もしかりです。あの性格では、国も、党も、軍も、最終的には付いてこなくなるでしょう」
「君たち…」
「お義父様!もし正朝君が失敗しそうなときは、私が支えます!正朝様こそが、今政界で崩壊しつつある正道の社会主義を取り戻してくれるはずです!」
「千種君!今はそのような時ではない!今は、外交・安全保障を万全にするためにも、現実的な考えができる指導者でなければならんのだ!」
岩松元帥がピシャリといったが、孝也は尚も引かない。
「それでも、アメリカは信用できません!事実、ジョーカーはアメリカ第一を唱えて、強気の外交をするようになっています」
「だが、中国の方がもっと悪い!民族弾圧を強め、島々を不法占拠し、日本には明らかな挑発行為を続けている。今のアメリカはそのようなことをしない。我々は、『マシな方』を取らねばならないのだ!」
その後も2時間、他の政治局員、局員候補たちを交えながら、喧々諤々の議論を続けた。
「それで、参謀総長閣下!」
「何だ」
「もし仮に正朝君を下ろすとして、どなたを次の委員長にするおつもりですか?」
「決まっておろう!」
他の者たちが岩松元帥に支線を向ける。
「楠木沙織さんだ」
「ちょ、閣下!沙織ちゃんはまだ20歳ですよ?そんな子にこの国を任せられるはずがない!」
「いや、彼女ならば大丈夫だ。確かに経験はやや少ないが、そこは我々が支えれば良いこと。彼女の温和で真摯な姿勢は、若手党員から信頼されている。そして彼女であれば、日米とも良好関係を築ける」
「私も賛成です」
「この私も同じく」
関首相と間藤外相も賛成した。しかし…、
「私は、千種副首相同様、このまま正朝様を後継者とすべきと考えます」
「私も、沙織様では若すぎて、十分に党と国を率いていけないと考えます」
佐野元彦人民議会議長、有田晋之輔中央軍事副委員長などが反発した。
「正朝様と共に、今一度社会主義社会の再建を!」
「沙織様を立てて、中国と距離を取り、日米との関係を築くべし」
このあと30分もの間、激論が交わされたが…。
「うぅ、君たち…!」
「委員長閣下!」
正興の体調が急変した。
「遠藤、医者はもういい…」
「え…」
「わしももう、おしまいだ…」
「委員長…」
「わしは、決めた」
正興は、深呼吸をして、また口を開いた…。
「正朝を廃嫡して、沙織を後継者にする」
部屋の中がざわざわした。中には頭を抱える幹部や、安堵の表情をした幹部もいた。
「静かに」
すると、今まで静かに様子を見ていた遠藤通明副大統領・副委員長が、その場を鎮めた。
「委員長の御意志です。皆、粛々と従いましょう」
そして、解散の合図がなされ、遠藤を除く政治局員・政治局員候補は部屋を後にした。




