第二章 第十二話
3日後、奇跡的に正興は目を覚ました。
「親父!」
「お父さん!」
「お義父様!」
このとき側にいたのは、正朝、佳歩、千種孝也の三人であった。
「やれやれ…、やってしまったわ」
後遺症からか、正興の言葉はやや聞き取りにくくなっていた。
「お義父様、今はゆっくり休んでください」
「そうよ、今は遠藤さんや正朝に任せればいいわ」
「あぁ…」
医師の問診が終わったあと、三人と入れ替わりで沙織と正藤がやってきた。
「心配させてすまんな、二人とも」
「もう…、だから何度も言ったのに…」
「皆どれだけ心配したことか。まぁ今でも心配だけど」
「今更だが、わしは働きすぎも過ぎたな」
「(涙ながらに)今更言っても…」
「(やや呆れながら)父さん遅いんだよ…、気付くのが」
「それはそうと二人とも」
「「何?」」
「手分けして、正朝以外の政治局員と政治局員候補を全員ここに呼んでくれ」
「あ、うん」
「どうかした?」
「この体の調子では、わしに万一のことがあるかもしれん。わしがまだ話せるうちに、喫緊の課題を片付けたい」
その後二人は手分けして、正興と正朝以外の政治局員、政治局員候補計11人に連絡し、正興の部屋まで来るように伝えた。そして、正興の指示で、沙織と正藤は部屋を退出した。
「ここが、分かれ道だな…」
「正藤兄さま?」
「ここで、国の運命が決まるかもしれない」
「あの…、私まだ、後継者になっても良いって、一言も言ってないんだけど…?」
「まぁ、ここはお父さん次第だよ。少なくとも俺は、この話をお父さんに話していないからね」
30分後、正朝以外の政治局員・局員候補12人が、正興の部屋に集結した。
「君たちに集まってもらったのは他でもない。わしは、年内までに第一線から退く」
そう言うと、彼らは『致し方ない』というような表情をした。
「また、このようにわしは体が不自由になった。もう人前に出ることも叶わんだろう。だから、暫くは遠藤副委員長が、表を仕切ってくれ」
「かしこまりました」
「あとこの前、日本と経済協力について、物部と会談した。これについては、沙織に任せたい」
「さ、沙織さんですか?」
「ああ、あいつは日本に好意的だ。森田正好から聞いたが、日本から帰る当日に荒垣健が押しかけてきて、それに対して上手く対応できていたという。まだ若いが、沙織ならやってくれるだろう。まかり間違っても、正朝に日本の相手はさせるなよ」
「委員長閣下」
ここで、間藤修司外務相が発言した。
「何かね」
「恐れながら、現在国際情勢は、米中新冷戦を迎えております。ご存知かと思いますが、確かに、中国は社会主義というお題目は掲げてこそいますが、外交方針はまさに20世紀の帝国主義国家そのものになっております。果たしてこれは、労働者の解放を唱える思想と合致するものでありましょうか」
「間藤、何が言いたい」
「率直に申し上げます。私は、中国とそれに友好的な国々に対して、警戒を強めるべきだと思っております。また以前のように友好的関係に戻すようなことがありますと、それに付け込んで、経済進出を強引に推し進めてくるでしょう。そうすれば、この島は中国の経済的植民地になり果てるでしょう」
「それは理解できる」
「それに対し、アメリカはオハマ政権、そして今のジョーカー政権は外国の駐留軍を縮小し、一部地域では撤退も始めております。また以前のような『欧米的民主主義の押し付け』をしなくなりました。少なくとも、帝国主義的ではなくなっていることは事実です。我々は、アメリカ、そして日本に接近していくべきだと思います」
この外務大臣の言葉に、その場にいる多くの者が驚いた。
「そして、そのためにも、正朝様を後継者の座から降ろすべきであると、ここに提言申し上げます」
部屋は、一瞬にして緊張状態となった。




