第二章 第二話
楠木正朝は、正興の三男である。成績優秀、活発な性格である一方、気に入らないことがあると直ぐに感情に出すなど、粗野なところがあった。また、一族の中でも特に反米・反日傾向が強く、日本をこよなく愛する妹の沙織との関係は、年々悪化していた。
「沙織も出世してしまうと、必ず沙織の方に付く幹部が出る。そうなると、俺が指導者になった時に危ない…」
その上正朝は、自身を後継指名してくれているはずの父親に対しても、不満を募らせていた。
「親父も親父だ。どうして皆して沙織ばかり…。こうなったら、俺が企画してみるか…」
正朝は、とある人物に会いに、内務省に向かった。
「正朝君が内務省に来てくれるのは、珍しいな」
「まぁ、俺が頼みたいことがあるわけだしね」
副首相兼内務大臣、千種孝也。彼の妻(佳歩)は、正藤・正朝・沙織の異母姉にして、正顕の同母姉にあたる。
「なるほどな。で、その頼みとは?」
「何か、俺の名声が高まるものをやってみたい」
「ほう?」
「あ、ごめんごめん。具体性のかけらもないよな」
「まぁな(苦笑) それで、俺がアイデアを出せと」
「(申し訳なさそうに軽くうなずく)」
「ハハハッ、まぁ手伝うことはできる」
「それでもありがたい」
と、話しているうちに、正朝は閃いた。
「そうだ、来年は南興労農党設立70周年じゃないか」
「そういえばそうだな」
「国内の全大学・中等学校の学生から、雄弁な奴を選抜して、国威発揚のための演説大会をやるのはどうだろう」
「なるほどなぁ」
「主催は教育省でもいいけど、思想の色を強く出すという意味でも、内務省主催という形が良いと思う」
「なるほどな。俺に花を持たせてくれるのか」
「まぁな。ただどちらにしろ、俺が企画立案をする。それで親父をギャフンと言わせてやる」
「よし分かった。内務省総出で、君の計画に乗ろうじゃないか」
「ありがとう、孝也兄さん!」
こうして正朝と孝也は、この演説大会の計画を立てて、10月初旬、大統領に提出した。
「なるほどなぁ」
「親父、どうかな?」
「まぁ、良いんじゃないか。孝也君も協力してくれるんだろ」
「はい、お義父様。この計画については、内務省を挙げて、正朝君に協力します」
「分かった、やりたまえ」
大統領のゴーサインに、正朝はガッツポーズをした。
「それより正朝、卒論は進んでおるのかね?正純から、進行状況がすこぶる悪いと聞いたが?」
「全く伯父さんめ…」
「どうなんだ?」
「そのことだけど、昨日終わらせてきた」
「はぁ?計画をやりながらか?」
「そうだけど、何か問題でも?」
「そんな片手間でできるやつなのか、卒論は!?わしの子供とは言え、いい加減もほどほどにしろ!」
「親父…、何なら今から書いた卒論送ろうか?多分明日辺りに、教授さんから、俺に呼び出って、その後に修正が入ると思うけど」
「おう、見せてみい」
そして正興が、彼の一万二千字の卒業論文を読み終えると…。
「さっきは疑って悪かった。少なくとも、俺が読んだ限りだと、整合性や論理は破綻していない。まぁ、あとは担当教授さん次第だろうな」
「分かってくれたのならそれでいいや」
「あとそれと、もう少し君の傲慢な態度を直しなさい。たとえ君がどんなに優秀でも、部下が不満を持ちかねんぞ」
「分かったからさ、とりあえず今から用事があるから、失礼するね」
「ではお義父様、私もこれで失礼します」
「(難しい顔をしながら、その場で二人を無言で見送る)」
この計画は数日後、中央委員会会議に取り上げられ、正式に国家級のイベントとして開催されることとなった。また、正朝の卒論も、微修正が入っただけで、難なく通過し、彼の卒業の目処も立ったのであった。




