第二章 第一話
2015年9月初旬、楠木沙織・党青少年団女子部長は、興城南方20kmにある、興城南第一キャンプ場に来ていた。党青少年団のイベントの為である。
「このキャンプは、皆で助け合って生きていくことを学び、万一の時、少しでも長く敵から防衛するために必要な訓練でもあります」
そう沙織が言うと、参加している少女たちは真剣な表情になった。しかし、彼女の次の言葉は意外なものであった。
「ですが、せっかくの夏休みです。学校があるときは、あまり羽を伸ばせないと思います。なので私は、皆さんにはこの3泊4日のキャンプで、思いっきり楽しんでもらいたいと思っています」
すると、少女たちの中には、少し驚いた表情をしたり、表情が明るくなったりする子たちが現れた。
「このキャンプで、学びと遊び、二兎を追って下さい。どちらを優先してもいいです。ですが何より、楽しんで参加してくれるのが一番です」
このキャンプでは、飯盒炊飯、狩猟、ハイキングなど、確かにサバイバルを意識したものが主体ではあったが、トランプや漫画の持ち込みが許可されるなど、割とルールは緩かった。その代わり、夜更かしをして寝不足になっても容赦はされず、年に数人単位で寝不足から体調不良を起こす者が出たりしている。とは言え、社会主義・独裁国家の青少年団イベントとしては、かなり緩い部類に入ることは間違いなかっただろう。
「キャンプ楽しかったなぁ」
「それは良かった。トラブルもなかったようで安心したよ」
帰宅した沙織は、父で大統領の正興に報告をしていた。
「皆いい子たちばかりで、一生懸命何事もやってくれるし」
「それは何よりだ」
「男女混合のキャンプファイヤーも、皆楽しそうだったし」
「また、色んなことが起きただろう」
「お父さん、何で知ってるの?」
「ハハハ、恒例なんだよ。大体青少年団キャンプでは、必ずカップルが何組かできるんだよ」
「へぇ…、そんなのアリなんだ」
「意外か?」
「そうよ。それに、草むらで…」
「あー、それについても対策はしてある」
「私、何も知らないんだけど…」
「え、何も言われなかったか」
「うん」
「そっか。多分団員達も遠慮したんだろうな。実はな、コッソリと青少年団幹部にアレを貰ってくるのが、カップルにとってある意味お決まりなんだよ」
「それ、良いの?」
「言ったろ。学ぶのも大事だが、楽しむのも大事だと」
「そうだけど…。何だか規律が乱れていると、他の社会主義国から言われそう」
「知ったこっちゃないわ。南興は南興の道を行く。厳しい規律だけが国を守る術ではない。横の強い絆も重要だ。それが親友関係であろうと、ああいう関係であろうとな。いずれにせよ、それらが沢山組み合わさって、強く大きな連帯に繋がるんだ」
「なるほど…。なんか色々びっくりしたけど、勉強になった」
沙織にとって青少年団キャンプは、ある意味新鮮で一風変わった体験となった。
一方その頃、沙織のすぐ上の兄、正朝はというと…。
「正朝君、卒論は大丈夫なのか」
「伯父さんか…、俺は大丈夫だってば」
沙織たち兄妹の伯父である岩松正純陸軍参謀総長が、正朝の部屋を訪れていた
「最近もボーリング場やゲームセンターで遊びまくっていると聞いているけど?」
「楠木家の子供だからって、あまり甘えるんじゃないぞ」
「分かってる。10月に入ったら本気出すって」
「…、ちゃんとやるんだぞ。沙織ちゃんも、キャンプを成功させて良い評価を得ているんだ。うかうかするんじゃないぞ」
そう言って正純は部屋を後にした。
「何なんだよ、伯父さんは。心配しすぎかよ。それに、何で皆沙織ばっかり褒めるんだよ」
正朝は、不貞腐れていた。




