第一章 最終話
2日後、沙織と芽美が南南興に帰る日が訪れた。
「あ~、まだ居たかったなぁ」
「沙織なら、また気が向いたら行けるでしょ?」
「まぁ、お父さんに頼めばね…」
「私が次行くとしたら冬かな。クリスマスイルミネーションとか見てみたいわ」
「絶対一度行った方が良いよ。すっごくきれいだから!」
そう言いながら帰国の準備をしていると、森田正好が部屋にやってきた。
「沙織さん、お会いしたいと言っている人が来ているのですが」
「え、私にですか?」
「荒垣防衛大臣なんだけども」
「なるほど…。分かりました、直ぐ降ります」
沙織が一階のリビングに入ると、二人の壮年男性が座っていた。
「初めまして、突然押しかけてすみません。私は、改新党代表及び防衛大臣を務めております、荒垣健と申します。以後お見知りおき下さい」
荒垣はガタイが良く、やや色黒の人物である。成程、まさに元将校という雰囲気を、彼女は感じ取った。
「どうも初めまして、私は改新党事務局長の立花康平と言います。宜しくお願いします」
立花はやや細身、色白で長身の人物である。世間的には『イケオジ』の部類に入るなと、彼女は一目で思った。
「お二方は今回、私にどのようなご用事で…」
「いやまぁ、とりあえず帰られる前に挨拶をしたいと思いまして」
「はあ…」
荒垣の、思わせぶりの表現に、ほんの少し警戒する沙織。それと同じくして、雰囲気を感じ取った森田がリビングを出た。
「つまるところ、南南興とコネクションが欲しいということですか?」
彼女は、思い切って大胆に探りを入れることにした。
「まぁ確かに、改新党としましても、是非とも一定の関係は望むところです」
「私、いや、南興労農党に、何を期待されているのですか?」
その質問に、今度は立花が答える。
「そうですね。私たちとしても、南興社会主義人民共和国に対して、西側諸国の仲間に直ぐに入ってくれと要請することが、難しいことは分かっております。しかし、勢力を急拡大する中国と言う存在を考えれば、何かしらの連携について検討したいなとは思っています」
「そういうことですか…」
「私達も、労農党幹部の大半が、まだアメリカに対して警戒感を持っていることは重々承知しております。しかし、歴史を鑑みるに、果たしてアメリカは貴方の島を狙うでしょうか」
「確かに、南興を軍事占領したり保護国化したりしても、手を焼くかもしれませんね」
「第二次世界大戦後、南興は地理的に、アメリカの委任統治領にされても不思議ではなかった、いや、むしろその方が自然だった。しかし南興は、終戦から僅か数年で独立を果たした。これは異例のことです」
「確かに立花さんの言う通りですね」
「対して中国は、自国に強すぎるほどの自信を持っている。本気で狙おうと思えば、狙ってくるでしょう」
「一理…、ありますね」
「アメリカと日本の敵は中国、中国の敵は貴国。つまり、そういう事です」
「敵の敵は味方…」
そして、ここから再び荒垣が話し始めた。
「沙織さん。お父様に是非お伝えしていただければと思います。我々改新党は、外交・軍事的な情勢を重視しております。保守党のようにウィングが広くない分、労農党さんのように一致団結して、政策を打ち出すことができます。現在、私は防衛大臣を務めております。私は改新党代表として、そして防衛大臣として、できる事なら貴国との連携を視野に入れたいのです。貴国の立場も理解しております。ですが何卒、ご検討いただければ。共に、中共の拡大主義に歯止めをかけたいと思っております」
「改新党さんのお立場、理解致しました」
「有難う御座います」
「ですが、現状余り期待はしないでいただきたいです。ご存じかと思いますが、日本に対しては、経済的な連携相手としては信頼しておりますが、それ以上の関係となればアメリカとの関係改善も考えなければならなくなります。そうなりますと、労農党としても非常に慎重にならざるを得ません。私たちは、社会主義国家を維持する以上、資本主義の親玉であるアメリカに接近することは、矛盾と言われてもおかしくありませんので」
「そこは理解致しました。ですが今、東アジア、太平洋西部の情勢は緊張の度合いを増しています。大事になる前に、賢明な判断をしていただくことを期待致しますと、そうお伝え下さい」
「父に伝えます」
そう沙織が言うと、荒垣と立花は席を立った。
「沙織さん。今日は色々話せて良かったです。また東京にいらしたときは、是非改新党本部にも遊びに来て下さい」
荒垣が最後にそう言うと、二人は森田家を出た。
「流石はお姫様。大変賢い方だ」
「ああ、さっきはあのように言っていたが、俺の勘では、割と上手く行く気がする。直ぐにとは言わないがな」
「なるほどな。それにしても、綺麗だったな」
「お、立花さん、惚れちゃいましたか」
「まぁ、惚れなかったと言えば嘘になる。でも、確か親子ほど年齢が離れているはずだから、それ以上は流石に」
「それもそうだな」
そう、荒垣と立花は話していた。
13時頃、沙織と芽美は羽田空港に到着し、飛行機に乗り込もうとしていた。
「森田さん、今回は色々お世話になりました」
「いえいえ、私達も楽しい時間を過ごさせていただきました。また泊りに来て下さい」
「有難う御座います!」
「沙織ちゃん、芽美ちゃん、また来月学校でね」
「そうね、このみちゃんも体調気を付けて」
「また来月ね!」
こうして、二人は南南興へと帰っていった。
(第一章 完)
やっと第一章完結です。とりあえず、物語の主要キャラクターは一通り登場させたつもりです。
次章からは、より政治の色が強まってきます。沙織も、大統領の娘として少しずつ色々なことに巻き込まれていきます。
是非、次章もご期待下さい!




